当店では開店当初(2010年)から、ブース内で電気機器を使用するための独立電源システムを構築し、アウトドアで提供するコーヒーとそこから得られる体験のクオリティーを向上させる取り組みを行ってきたことから、このようなご質問を頂くことも多いです。
素材の持つエネルギーを有効活用
火気使用が出来ない、電源引き込みが出来ない会場での湯沸かしや冷蔵を行うということは、当時普及していたタイプのバッテリー性能ではハードルが非常に高く、それらをエネルギー源として大量のコーヒーを営業目的で提供するという前例も見当たらない状況でした。
そのため、独学でソーラーパネル・熱電発電機などを取り入れた省電力化や、いかに少ないコスト(費用や労力)から効率的で安全に利用出来るようにするかというような様々な試みや工夫を積み重ねて来ました。
アウトドアのブース内でそのようなことを行う理由はインフラが途絶(オフグリッド)していたり、気温40℃から氷点下までになり時には豪雨、暴風にさらされたりするような「どのような厳しい環境であってもクオリティーの高いコーヒーを提供し続けなくてはならないこと」そして、およそコーヒー、ましてお客様とは何の関係もなさそうな知見やノウハウであっても、そのような環境の中でも目の前で様々な素材、道具、技術とそのエネルギーを一体的に活用することから生まれて来る一杯のコーヒーが私たちの衣・食・住に深くつながっているという実感を与えてくれるのではと考えているからです。
※現在は、出店時に自然エネルギー発電を行うのに割く時間と労力が足りないため休止しています。また実際の社会に当てはめるには、電力需要を満たすだけの供給力とコスト(費用と労力の負担)といった観点も必要です。
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アウトドアコーヒーは電気でもっと広がる?
昔からあるアウトドアで大きな電力を得る方法としては自動車や船舶用バッテリーとインバーターを組み合わせるものが定番です。
このような電源システムを自作することには費用を安く抑えたり、状況に合わせてカスタマイズ出来たりするメリットはありますが、電気関係の知識と取り扱いに当たっての注意が必要で、誰にでもオススメ出来るものではありませんでした。
しかし、ここ数年のうちに「高容量(貯めておける量が多い)」かつ「高出力(消費電力が大きい機器が使える)」のリチウムイオン電池を搭載し、上記のような手間が掛からないオールインワンのポータブル電源(モバイルバッテリー)もアウトドア用品として販売されるようになったおかげで、大きな電力を必要とするポットなどの機器も気軽に使えるものが手に入りやすくなって来ました。
現地がなんらかの事情で火が使えない状況でも、数人分のコーヒーを何度か淹れるようなことは十分可能にしてくれるので、ロケーションや使用器具の選択肢は広がって行くのではと思います。
アウトドアコーヒーにおける用途は主に「湯沸かし」になりますが、そのメリットは温度調整や保温機能がある電気ポット・ケトルを使うと湯温管理がしやすくなる点が挙げられます。また電動ミルも使えます。
デメリットは費用が掛かる、汎用性が少なく小型化、軽量化も難しい電化製品を荷物に追加することになるといった点になります。
※家庭用機器で消費電力が大きいという場合は、およそ1000wクラスを指します。代表的なものはポット、エアコン、炊飯器、ヒーター、ドライヤー、コーヒーメーカー、100vタイプのIHコンロなど
これらへの対応が明記されているような高出力インバーター内臓タイプを選ぶ必要があります。
※リチウムイオン電池は消防法での危険物に該当します。数量や重さ、場所、安全対策によって使用・運搬・保管可能かどうかは変わりますので、状況によっては使用場所の管理者に持ち込み可能か確認するようにしましょう
※ガソリンやガスボンベを燃料とする発電機は火気に当たる危険物です。またキャンプ場や人が多い場所では騒音・排気が迷惑になるので禁止というところも多いです。
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ご選択やご使用にあたっての重要ポイント・注意点
【重量・大きさ】
まずポータブル・モバイルと言っても、湯沸かしが可能で他の用途と併用しても余力があるようなタイプだと、だいたい「30㎝×3、重量15㎏~」ほどのサイズ感になります。
持ち歩くものではなく、車の荷台や大きめのキャンプ地、野外イベント、防災設備などで固定の場所に設置することが前提になると思います。
【実働時間】
使用環境次第で大きく変わります。
上に挙げたようなタイプの1000w対応クラスの標準的な製品であれば「水温15度から3リットルの水を30分かけて1回は沸かす」ことくらいは出来ると思いますが、それを何度も出来ると言えるほどではありません。
ポット以外の電気機器を使うのであれば、それらの消費電力と使用時間にもよりますし、当然、電力容量が最も影響します。
また忘れてならないのが充電に掛かる時間ですが、付属の充電器や100vコンセントにつないだ場合で電欠状態から満充電までは数時間から10時間ほど掛かる充電能力のものが一般的です。
このタイプの製品にはオプションとしてソーラーパネルが用意されていることが多いのですが、実働時間についてイメージと実性能の間にはギャップがあることをメーカー側も十分に承知している証です。
持ち運べるサイズの現行ソーラーパネルの電力効率と天候による稼働率が、どの程度のものかを知っていれば、あくまで低消費電力機器向けや長期運用向けの補助機能であり短時間のレジャー向けではないと判断出来るからです。
このようなことは「電池」そのものの開発の困難さにまつわる基礎科学の発展が、一朝一夕では起こりえないことを表しています。
現在商品化されている程度の容量や出力を持つリチウムイオンバッテリーについて、産業向けの開発は10年、20年といったスパンで以前のものです。
そこからバッテリー性能自体は驚くほど大きくは変わっていませんが、重さや安全性、価格といった点で扱いやすくなり、普及段階に入って来たことだけでも素晴らしいことと思います。
使いどころさえ押さえておけばとても便利なものだと思いますので、ご購入を検討される際は、ご自身の目的に適うかどうかを数値で確認しておきましょう
よくあるトラブルと対策
1.消費電力オーバーによる不具合
消費電力が大きい機器はまともに使えない、壊れてしまうということもよく聞く話です。
電源を構成するバッテリーやインバーター、接続ケーブルの許容電力に対して、使用したい機器側の要求する電力が大き過ぎることが原因です。
そうなりやすい理由の一例は、使用機器側の仕様に示されている「最大消費電力」と「定格消費電力」の意味の紛らわしさにもあるかと思います。
「最大~」は一瞬とか短時間、主に動作開始時に必要な電力で、「定格~」は常にとか長時間必要な電力です。「定格」は電源側にとって許容範囲内であっても「最大」が電源側回路のどこかで限界を超えてしまい、電源機器と使用機器の双方で異常な動作を起こすことがあります。
ほとんどの電源側機器にはそれらも見込んだ許容範囲や自動的に安全装置が働く機能がありますが、それでも長時間の高負荷だけでなく一瞬の過負荷だけでもヒューズが飛んで使用不可となったり、最悪の場合は故障や発火の原因になったりするので注意しましょう。
電気ポットを小型で低消費電力のものにする、12vタイプにする(電圧は下がりますが電流は増えます)、同時に多数の電気機器を使用しないなどの対策があります。使用感が落ちるデメリットは大きいですが、安全性や信頼性が高まるメリットも大きいと思います。
※車やバイクに組み込まれているバッテリーを使う場合は特に注意
2.実働時間が足りない
事前、購入前に使用したい電気機器を実際に動かせる時間を予測するのは、ある程度慣れや知識がないと難しいと思います。ご自宅で使うような感覚で使ってみたら意外と短い、足りないということも起こりやすいです。
おおまかには機器の仕様に表記されている値で計算出来ます。
例:「電源の容量(wh)×60」÷「使用機器の定格消費電力(w)」=「使用可能時間(分)」
これはあくまで理論上の最大値なので、加えて主に影響するバッテリー性能として気温への耐性、出力維持能力、さらに各機器の保護機能の設定値などを考慮する必要があり、それらによってケースバイケースで実働時間には大きな開きが生まれます。理論値通りということはまずなく経年劣化も起こりますので、数割少なめと見積もっておいた方が無難だと思います。
これらのトラブルを避けるため、能力に余裕のある製品を選ぶことをおススメします。
※「リチウムイオン電池」というカテゴリーの中にも材質やメーカーによって性能や価格が異なる様々な製品があります。
※内蔵されている安全装置についても、強固なものから最低限のものまで様々です。価格にはこういった表記外の性能も反映されている場合があることをご承知おき頂くと良いかと思います。
※国内製品や販売者であれば法律で定められた明示すべき仕様や検査済みマーク(PSEなど)が記されているはずです。ネットショップなどで見かけるちょっと怪しい製品には肝心な部分が表記されてない、もしくは正確でないものも多々ありますのでご注意ください。
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