この記事は「関連記事:上手にドリップするには?基本編 」の続きになります。
ここからの内容は初心者の方やご家庭向けとは言い難いものですが、次の段階へ進む際のヒントになるのではと思います。
圧力が「見えない」ことが混沌の原因
①記事で抽出の基本ポイントとしてお示しした【分量】【温度】【時間】の他にも抽出状態に大きく影響を与えているポイントがあり、それが【圧力】です。
コーヒー抽出に関しての圧力という言葉から、まず思い浮かべるのはおそらくエスプレッソマシンではないかと思いますので、イメージしやすい例としてその原理と構造について簡単にご説明しておきます。
- 本体内部のボイラーで水を沸かし、水蒸気を蓄える
- 常圧(1気圧)では水が通らないほど細かいメッシュの粉(200μm前後)をポルタフィルターと呼ばれる専用ドリッパー内に押し固め(タンピング)、本体にセットする
- 密閉状態を保ったポルタフィルター内に、ボイラーの水蒸気が膨張しようとする力を利用して水を押し込み粉を透過させる
- 通常では溶け出しにくい成分(香りや粉に含まれるガス)までが、わずかな時間(数十秒)で抽出される
この方式では水圧を増減させることが、水の透過と成分の溶解量を決める重要なポイントになっており、エスプレッソマシンで抽出されたコーヒーの濃密な味わいからも【圧力】の果たす役割がいかに大きいかが分かります。
また、通常の抽出方式では見ることの出来ない圧力を可視化するための計測器や調整機が備わった機種もあり、その数値を元に操作するということも可能となっています。
※9気圧前後が一般的
※微粒子状の挽き目を持つ粉を密に押し固める工程をタンピングと言い、それも圧力調整の上で重要な一役を担っています
圧力を整理し「見える化」する - コツから手法へ
エスプレッソ方式以外では、圧力はどのような働きをしているのでしょうか?
圧力は「気体の膨張圧力」「水圧」以外にも様々な形となって現れるものなので、それらとドリップの関係を整理しながら解説して行きたいと思います。
まず、圧力とは物体と物体がぶつかった時、そのどこに(面)にどれくらいの力(運動エネルギー・重さなど)が加わったかを表すための用語です。
なので、何か物が存在したり動いたりする際には触れ合っている物の間に必ず発生しています。
ただ、現実の物体やその動きは教科書のように単純化された形式ではないので、コーヒー抽出に関わる以下のような条件やそれぞれの性質が互いに作用し合う中で、様々な圧力が生まれては変化し続けていると言えます。
- 基本ポイント【分量】【温度】【時間】
- 生豆・焙煎度・挽き目・鮮度・抽出器具・フィルター
このような複数要因の相互作用の結果で成り立っている力は、不規則で不可視な変化の様相を呈するため、単一の指標に基づいた計測や数値化は困難なことが多いです。
このような理由で、圧力に関わる調整ポイントについての表現は曖昧にならざるを得ず、熟練を要するテクニックであるかのように「コツ」と呼ばれることになります。
相互作用による不規則な変化を防止し、一定的な圧力を加えることを目的として「密閉空間に閉じ込めた気体が膨張しようとする力を利用して水を粉に押し込む透過式に特化した設計」を得ることで生み出されたものが、エスプレッソマシンやエアロプレスなどの器具ということになります。
調整ポイントが計測・可視化され、誰でも安定して再現可能となった場合は、もはや「コツ」ではなく「手法・方式(メソッド)」と呼ばれるようになります。
このような事例をはじめとして、様々な抽出方式・手法・器具類などについては、その見た目や動作が大きく異なることで複雑で未知の変化を伴う特殊な調理方法であるかのように感じられたとしても、原理的な構造から捉えることでその全てを4つのポイントに基づいて認識することが可能です。
【圧力:低い ⇒ 軽め 高い ⇒ 濃いめ】
- 加圧
成分の抽出量を多くしたい場合に用います。
例えば、成分が溶け出しにくい浅煎り豆を使う場合や短時間抽出などであっても、その量が増えます。
- 減圧
成分の抽出量を少なくしたい場合に用います。
例えば、高温高圧といった条件で溶け出しやすくなる一部の苦みや雑味(微粉、繊維質含む)について、その量が過剰になるのを防ぐために用いられることがあります。
※圧力が掛かる対象をコーヒー粉とした場合の加減「+/-」を表しています。
※上記は傾向を単純化して示すための一例に過ぎません。抽出工程中に働く圧力にはいくつか種類があり、それぞれをパラメータの「+/-」が相反して相殺されるといった複雑な変化が常に起こっています。
※サイフォン式については下記「気圧(蒸気圧)」項参照
コーヒーの地図に欠けているページ
コーヒーの抽出理論は過去から現在までの多くの方たちの探求によって、主軸となるポイントの洗い出しとポイントごとに風味に与える効果についての共有テンプレート化(基本編)まではすでに完了していると言えます。
現代においては、豆や器具に合わせてより細分化された派生形が各所で生み出されながら、各種メディアを通じて多くの方に広まって行く普及段階を迎えています。
しかしながら、原点に立ち戻って、その主軸を支えているメカニズムやポイント間の関係性という根幹部分について問い直してみると、その方面に踏み込んだ情報というものは途端に見当たらなくなります。
どんな仕組みでそれらの効果が生まれるのか?
以下では、昔から様々な場面で頻繁に引用・解説といった形で記述されて来た代表的な事例を取り上げながら、当店なりの視点でその根幹部分を含む抽出の全体像を再構築して行きます。
- おいしくなる〇〇 ⇒ 淹れ方・コツ・テクニック・メソッド(方式・手法)・器具など
〇を使う(使わない)→△が起こる(起こらない)→抽出される風味成分□が変化する(変化しない)
こういった表現はよくご覧になることと思いますが、「〇による効果として□が現れる」という因果関係について説明する場合には、△という根拠が本来であれば必要不可欠です。
しかし、肝心なはずの△についてよくよく考えてみると?となってしまうようなことは、普段の身の回りのことでもそう珍しくはないと思います。
それはコーヒーという分野であっても例外ではありません。
特に情報発信がマーケティングを目的とする場合、以下のような「共感」や「欲求」を呼び起こすことで消費者の行動を誘発するためのノウハウを最優先事項とするのが通常です。
- 一目でメッセージを伝える
- 常に目に入る、意識させる
- 直感的な本能や感情に訴えかける
- 難しそうな言葉や論理的な話はあえて伏せる(理性をスルーさせる)
- 良し悪しの判断を他人との比較で訴えかける
そのような情報に因果関係を求めても「?」となってしまう理由だけが十分過ぎるほど揃っています。
それはそうとして、長くコーヒーに携わって来た自身の実感で恐縮ですが、こうした配慮や算段を持ち出す以前に「そもそも発信側が根拠△を持っていない、あるいは表現する術を知らないという致命的な脆弱性」を抱えていることに本質的な問題が潜んでいるように感じられます。
コーヒーについて学ぼうと情報収集される多くの方が直面される状況は、「動機付けの強制」を優先するあまりに紆余曲折した情報に触れる機会が圧倒的に多いため、以下のような迷い道や不毛な結果に陥ってしまわれることも少なくないようです。
- 必要としている情報に辿り着けない
- 表現が曖昧だったりズレていて本質がすくい取れない
- つながりの見えない情報の羅列の中でかえって混乱してしまう
- 見た目重視、見よう見まねに留まってしまう
- 器具・機械任せ、手軽さに落ち着く
- 商品を得ることが目的達成とすり替わってしまう
これらの問題が受信側で連鎖的に起こって行く、言わば大掛かりな伝言ゲームのようなシステムと捉えてもらうと分かりやすくなるかと思います。
こうした性質の情報伝達に関する問題を解決するためには、あらかじめ本質的な情報が失われることを想定した上で、ソース(情報源)から自動復元されるというルールを設定しておくことが望ましいです。
ここでは、【圧力】という誰でも知っている言葉を「コーヒーの淹れ方」にまつわる様々な情報をつなげる「鍵(共有キーワード」にしてもらうことを目的としています。
そして、その言葉に特定の役割を果すためには「抽出のコツと表現されるものの多くは【圧力】を主要な原理として利用する手法であること」について、それが情報の源であることをまず明確にしておく必要があります。
以下では、抽出においてどこか判然としないまま放置されて来た働きについて紐解くだけでなく、どなたでも新たな「鍵」を使って抽出の扉を開くことが出来るようになるための解説を試みたいと思います。
ドリップの源流「水と粉の性質」を知る
基本編・応用編の二つの記事で明らかにしようとしているのは「抽出の土台にある水と粉の性質とその間に働く力」です。それは誰にとってもどこであってもどのコーヒーであっても変わりません(普遍)。
私達が日常で目にする様々なドリップは、何らかの形ですでにカスタマイズ(派生)された形になっていますが、それらの源流に当たる情報ということです。
だからこそ、そこに焦点を合わせた時に見えて来る「4つのポイント」について理解することが、素材や方式、器具、環境、あるいは人やお店(ビジネス)といった特殊ケースに左右されることなく、数多ある「ドリップ」の全体像を捉えるための最短ルートと言えます。
- 圧力を生み出す主因ごとに分類する
- 圧力と基本ポイントとの関係を整理する
この試みは「コーヒーの淹れ方」の解説としては新しいアプローチ方法になります。
すでに明らかになっている要因と明らかになっていない要因について、どのように扱ったり表現したりすれば伝わりやすいものになるか?という自問から導かれた内容ですので、稚拙な点、聞き慣れない用語や直感的に把握しづらい内容もあるかと思いますが、総じて水が粉に浸透しようとする力をイメージしてもらうと分かりやすくなると思います。
コーヒーのおいしさは人それぞれ?じゃあその解説もそれぞれ?
好き嫌いだけで捉えるなら、その通りだと思います。
しかし、その感覚的な支点になりやすい一角だけではなく全体を見渡すなら、「それぞれ」が生まれて来る源流がどこかにあることも見えて来ます。ここではそれら全てに共通する原理を基準にして整理するという方法を取っています。
このような解説方法についても、コーヒーと同じようにそれぞれのお好みがあり、全ての人が納得するものはないということは承知しています。
ただ、「コーヒー界や文化」において独自に培われ、広く通用されるようになった抽出に関する捉え方とその表現方法には、その源流付近に不足している部分があります。
今までにない正確な「地図とナビゲーション)」としての役割に近づけるためには、新しいアプローチが必要と考えています。
それは、少しづつ求められ始めている「コーヒーが生まれるための自然と人間の働き」という次の領域まで、つながりを持って理解したり感じ取ったり出来る方法を模索する上でも不可欠なステップになります。
それは現状支配的な「マーケティング理論」とは異なる次元の認識論です。
まだそこまでを明確にお答え出来る段階ではないので、より深く幅広く探究して行きたいと考えてます。
以下で用いる科学的な用語や過程については不正確にならない程度に要約しています。ご興味ある方はキーワードで検索してみて下さい。
その検索結果からも、これまでのコーヒーの枠組みの中では以下に挙げるいくつかの主要なキーワードとコーヒー抽出の関係に言及される事例はほとんどなかったことにもお気付き頂けると思います。
圧力から紐解くドリップとは?
撹拌
撹拌をコーヒー抽出で用いる際の代表的な手法としては以下の3つが挙げられます。
- ステア:スプーンや棒、へらを使って行うもの
- スピン:ドリッパーやサーバーごと粉と水の混合物を揺らしたり回転させたりするもの
- 対流:水流によって粉全体が動き続ける状態を作り出すもの
呼び方は違えど、様々な調理でごく自然に用いられて来た手法の一つです。
素材に力学的な圧力(運動エネルギー)を加えて成分を押し出す・剥がすという「加圧」によって以下のような効果が得られます。
- 浸透性を高める
- 成分溶解量を高める
- 全体の状態について均一性を高める
過去のドリップ解説において「粉を動かさない方が雑味が出ない」という一文をご覧になったことがある方は多いと思います。その影響から未だコーヒー愛好家の一部では撹拌は邪道という固定観念がはびこっているように見受けられる場面があります。
ここでは、もう少し抽出について柔軟に捉えて頂けるように、撹拌を抑制する目的は【圧力】という視点を得た場合にどのように見えるのか?について以下の事例を追って解説してみます。
「粉を動かさない」という言い回しは、過去に国内で流行し今も根強い人気の【深煎り・多粉量(一杯分数十グラム)・中温度(80℃前後)・長時間(5~10分前後)】という抽出条件を標準とする、一部のネルドリップ式で用いられて来たセオリーです。
そこで目的としている風味は、抽出方式と条件を見ただけでも判断出来ますが「かなり濃いめでどっしりとした飲みごたえ(ボディー)のあるコーヒー」となります。
長時間掛けて粉の層全体から成分を取り出して行く手法は、後述する「浸透と拡散」という圧力の一種を利用するためのもので、当然これもやり過ぎれば雑味が出ます。
なので、さらに撹拌を追加することで成分抽出が過剰となってしまうことを防止しましょう、という圧力ポイントに則したバランス調整について表現したものと見ることが出来ます。
抽出する条件や手法を【分量・温度・時間・圧力】という4つの調整ポイントに分類して整理し直すことによって、それらの「加減」が風味にどう影響を及ぼすのかという関係性をより明確に表すことが出来るようになります。
抽出の全体像から見れば「粉を動かさない」というセオリーは、全てに通じる原理に当たるものではなく、多様な調整方法の中で「減圧」に該当するものの一つと位置付けられます。
それは上記の事例以外では、撹拌という「加圧」を前提条件に含む方式も数多く存在することでも証明されます。
「浸漬式」全般では、水の中で粉が舞い上がるという形で構造的に自ずと撹拌が加わります。具体的には、あらかじめサーバーに水と粉を全量投入するフレンチプレス式、エアロプレス式、沸騰した水とその動きを用いるサイフォン式、小鍋で煮出すトルコ式など。
上記のいくつかの例が示すことから、豆、器具、方式、手法といったどれか一つだけを取り上げて「美味しく出来る、出来ない」とする根拠とはなり得ず、全てのポイントについて目的の風味に合わせたバランス調整を施すことがコーヒー抽出の本質ということがご理解頂けるのではと思います。
近年の世界を見渡すと、方式や器具、セオリーといった型に囚われず、実際に起こっている現象そのものを重視する姿勢が見受けられます。
それに伴い、状況と目的に合わせてどのようなタイミングでどれくらい4つのポイントを調整するか、という地に足の着いた議論もされるようになって来ています。
同じように抽出したつもりでも風味がブレるのはなぜ?
基本的には、同じ粉と器具、基本ポイントといった抽出条件を揃えるようにすることで大きなブレは防ぐことが出来ます。
しかし、杯数を変えるために粉量を大きく変える場合や、風味の細かい部分を捉えた場合については抽出のたびにブレを感じることがあると思います。
その原因の一つに、目には見えない様々な水と粉の性質による抽出過程での部分的なズレや偏り(抽出ムラ※後述)という現象があります。
撹拌は「水と粉の接触機会と成分の溶出経路を増やす、あるいは均等化する」という効果もあるので、抽出ムラを緩和するための手法としても用いることが出来ます。
例えば、円錐型ドリッパーなどを用いた透過状態では、注水方法によって水と接触する機会が大きく変わることや、下層に向かうほど粉や水の重さによる圧力や水流が集中してしまうこと。
浸漬式全般については、粉の比重が小さい(水より軽い)ために水面に浮かび上がるものと沈むものが出て来てしまうこと、などが挙げられます。
また、粉に含まれる「微粉」について、それがフィルターや粉の隙間に入り込むことで引き起こされる「目詰まり」という現象は、意図した抽出を阻害する原因の代表的なものです。
こういった見えずとも影響を及ぼしている様々な要因があることから、それぞれの対応策として様々な「コツ」が生まれるということになります。
それらの現象についても経験則から生まれれる民間療法的な対処方法ではなく、原理的な仕組みを理解することから「適切な対応手順=誰とでも共有可能な手法」へと発展させて行こうというのが、この記事の主旨です。
注水の高さと量
ハンドドリップをはじめ、上部から水を落とす(プアオーバー)型の注水方法に伴って発生する圧力についての解説です。
注水口から粉面までの高さや注水量が変わると「水勢(流速・流量)」が増減し、粉に加わる圧力が変化します。
注水の高さ・量 ⇒ 重力による位置エネルギー ⇒ 運動エネルギー⇒ 圧力(水勢)
また、その強さによってはドリッパー、あるいはサーバー内で対流が発生する場合があり、浮き上がった粉は「撹拌」状態となります。
圧力を逃げにくくする受け皿(サーバー)がある「浸漬式」の場合は、【圧力:大⇒濃いめ 小:軽め】という効果がストレートに表れます。
しかし、「透過式」の場合は水の重さを利用して受け皿(ドリッパー)に開けた穴を通過させる構造となっているために【圧力】によって【時間】も変化するという相互作用が起こるので、単純にはその効果を計れません。
例えば、水勢を増すと抽出液となって流れ出す速さ(流出速度)も増すことになるため、結果として抽出時間が短くなります。
このように風味傾向から見てプラス(加圧:濃いめ)とマイナス(短時間:軽め)の効果が同時に発生するということになりますが、それらを総合した効果の度合いは抽出条件によって大きく変わってしまうからです。
ドリッパーを変えたら味が変わる?
「味が変わる」と表現する時、「味」という言葉が指すものを感覚的な付加要因を除いた含有成分のみに絞り込んだ場合、変化しているのは以下の3つの要素です。
- 収率:豆全体の成分量と抽出液中に溶解した成分量のバランス
- 濃度:抽出液中の水量と成分量のバランス
- 成分比:抽出液中の成分内の種類ごとのバランス
器具類にはそれぞれの形状・材質・仕組みといった違いがあります。その違いは意図された場合もそうでない場合も含めて抽出工程中の4つのポイントに特定の影響(効果)をもたらすことから、その器具が持つ風味傾向の特徴と表されます。
ドリッパー(フィルター交換型)には円錐、台形、円筒などありますが、抽出状態を決定する代表的な要素が以下になります。
- 大きさ
- 角度
- リブ
- 流出口
- 材質(加工性・熱伝導率)
これらの違いによって、水が抽出液となって流れ落ちるまでの速さが変化し、抽出時間に長短の特徴が表れるということが、風味に最も影響を与える要因です。
透過式では「流出速度」が粉と水と接触している時間を決定する重要な指標になります。
ドリッパーの特徴については、個別の状況によって異なる粉の状態や注水方法、フィルターの透過性、フィルター一体型といった要素は区別して捉える必要があります。
逆の例として「減圧」を用いる代表例が、「点滴型注湯法」と呼ばれる雫のように水を注ぐ手法になります。
撹拌項でもお示ししたようなネルドリップ式や水出しコーヒー、ドリップ式コーヒーメーカーの一部で採用されているシャワーヘッド型注水機構などで用いられることが多いです。
「水圧・水勢」を抑えて流出速度を遅くすることには、その水が粉の上層から下層までを透過する間に接触する時間と面積を増やすことで、注いだ分の水に溶け出す成分量をより多くするという目的があります。
【圧力:低】×【時間:長】という、冒頭で挙げたエスプレッソマシーンとは逆のポイント調整の組み合わせ方によっても成分抽出量は高めることが出来るという実例となります。
※詳細は下記「ポタポタと長い時間かけて注水する手法は何のため?」
お湯が掛かってない所はもったいない?
水の注ぎ方に関してよく頂くご質問です。
コーヒー粉の粒子は目に見えないほど細かい植物の細胞壁が、焙煎の熱で膨張して空洞化した穴(細孔)となり、それらが無数に並んだ「格子形状」になっています。
それは植物の繊維で出来た細い管の集まりと見ることが出来、その集まりである粉全体も同様と言えます。スポンジや土壌をイメージしてもらうと良いと思います。
水が繊維の管の入り口に触れると互いの「表面張力」の働きで水が管の奥へ浸透して行くという、いわゆる「毛細管現象」が起こり吸水されて行きます。その力は分子同士が引っ張り合う「分子間力」が源になっているので、その強さが気圧や重力と釣り合う地点まで上下左右どの向きにも進みます。
浸透には水を注ぐ位置や勢いだけではなく、見えない所でもこうした「水と粉の性質」による力が自然に働いています。
成分をどれだけ溶け出させたら良いのか?
抽出は水の浸透具合をコントロールすることによって成分溶解量を調整することが大きな目的ですが、その結果について良し悪しとする評価は「お好み(感性)、時勢、母数によって変化する程度問題」の色彩が強く、広い視野で見れば決まった答えというものが存在しない性質の疑問です。
「評価」や「価値」についての解説は、コーヒーや抽出の仕組みについてではなく生物学や社会学分野の視点での整理を必要とする内容であり、この記事の主旨とは異なります。
関連記事もご参照頂き、ご自身の目的とするコーヒーに合わせた調整方法をご選択頂ければと思います。
浸透と拡散 - 透過式と浸漬式 -
これらの現象が抽出において中心的な仕組みに当たります。
まず、コーヒーの抽出方式が透過式と浸漬式の二つに大別される理由をお示ししておきます。
また、特にこの項の内容は、抽出についての既存の考え方やイメージでは捉えにくい部分が多々含まれるため、仕組みに関わる用語についても整理しながら解説して行きます。
透過と浸漬って何が違うの?
水と粉の接触機会(表面積と時間)が異なります。
各々の状態がどのように違うのか、について簡潔に表すと以下のような関係になります。
- 透過:粉量 > 水分量 → 不飽和状態
水が溜まらずに粉の層を通り抜ける
断続的な注水によって接触機会の意図的な配分を行う
- 浸漬(しんし): 粉量 < 水分量 → 飽和状態
粉と水の全量を混合した状態を保ち、接触機会を終始ほぼ一定とする
次に、透過と濾過の違いを整理しておきます。
両方とも何かが何かを通り抜ける現象としては同じことですが、透過する際に不純物や目的外の要素を分離する目的で用いる場合を「濾過」と呼びます。
コーヒー抽出において粉の層に水を通り抜けさせる目的は成分を水に溶出させることが目的なので「濾過」ではなく「透過」に当たります。その後、粉とコーヒー水溶液をフィルターで分離することが「濾過」に当たります。
コーヒー抽出での「透過式」は、これらがワンセットになっていることで扱いやすさというメリットが生まれれる反面、異なる過程が一体化していることによって不安定な変化を起こしたり、その変化を把握しにくいというデメリットにもなっていることにご注意下さい。
※粉量と水分量の不等式は絶対的な関係を表すものではなく、様々な抽出工程や器具の中では条件や意図によって式が逆転し、「透過式」と呼ばれるものでも飽和状態になったり「浸漬式」と呼ばれるものでも不飽和状態となったりすることが起こり得ます。
一般的なペーパードリップに見られる抽出では、透過式器具を用いていたとしても、実際の過程を状態で表した場合、意図せず「浸漬+濾過」の繰り返しとなっていることが多いです。
その理由については後述しますが、呼称やイメージに捕らわれることなく物理的な状態のままを確認するようにしてみて下さい。