厳しい環境でこそ育まれるもの
当店は、アウトドアという環境とお客様、そして自身も含めた全体がコーヒーを楽しむための空間を作ることをコンセプトとしています。
当初から十分に実践出来ていた訳ではありませんが改善を重ねた現在では、高品質かつ安定したコーヒーサービスは基本としつつも、それのみではアウトドアでコーヒーを楽しんで頂くための「お店」として不十分と考え、その追究から他には見られない特色を生み出すべく研鑽を重ねています。
屋内環境(インドア)が一般的な喫茶店やカフェなどのコーヒー店と比較すると、野外環境(アウトドア)では気象条件をはじめとする自然環境が不安定であることや作業に必要とされる設備・インフラ(電気・ガス・水道・通信)といった抽出環境が不安定なこと、また調理出店に関わる規約や規制も時と場所によって異なることなどから、高品質なコーヒーサービスをご提供することを目的とする場合に乗り越えなければならない障壁は多大となります。
またそのような観点ではなく、露店という形態自体に対して懐疑的な意見をお持ちの方もいらっしゃるようですので、当店についてご理解頂くためにお答えしておきたいと思います。
当店は野外テント内という屋内より厳しい環境で活動することを選択してスタートしています。
2010年当時はコーヒーを楽しむ場所としてアウトドアをイメージされる方はごく少数だったと思います。
偶然ではありますが、近年のコロナ禍の影響による価値観の変容によって、そこにも注目が集まるようになったことに伴って「アウトドアコーヒー」という言葉が認知され始めたことから、二つ目の疑問に当たる社会環境という障壁は乗り越えられつつあると感じています。
先に述べた「場所」という自然環境を含む大きな障壁については、それを織り成す様々な要素・条件がコーヒーとその体験についてどのような影響を与えるのか?そういった本質的な仕組みについて、時として厳しい自然が引き起こす様々な問題を通じて今なお学ばせてもらっています。
肉体的にも精神的にも様々な囲いによって守られたインドア環境では気が付きにくいことも、外に出て囲いのない環境にさらけ出されてみると否応なく気付かされることがあります。
自らの五感を通じて感じ取った体験をコーヒー作りやお店作りにフィードバックし続けながら、私たちとコーヒー、そして自然とのつながりを深く感じて頂けるような空間を多くの方々ご提供して行きたいと考えています。
※関連記事:上手にドリップするには? – 応用編【圧力】が「おいしい淹れ方」の鍵・まとめ –
アウトドアでの「コーヒー」とは?
アウトドアでのコーヒー体験をご提供する店として求められる価値とは?という観点において優先度の高いものを吟味し、全体としてのパフォーマンス(ワークフロー含む)と品質向上や作業の効率化を図っています。
注目されやすい抽出作業に関して例を挙げると、一般的なコーヒースケールや温度計を用いた計測・調整作業を店頭では行わず、独自の代替手段を用いることもその一つです。
現代的なコーヒー店のモデルやそのマニュアルに忠実な工程やサービスをお示しすることは、お客様の安心感やドリップ技術の周知につながるということは承知しています。
ですが、特にアウトドアにおいてそれがお客様や自身が求めるサービスなのか?というと、その優先度は低く、よりその場の環境に適する価値を生み出すことが求められていると肌身で感じることがあります。
アウトドアと一口に言っても、当然ながら小春日和のいかにも快適そうな場面ばかりではなく、春夏秋冬、好天悪天、山中から海辺、ビル街まで様々な場面があります。
その中でも、冬場の冷たい風が強く吹き付けるような日をイメージしてもらうと分かりやすいのではと思います。
冷たい風が金属製のドリップポットやドリッパーがお湯から熱を急速に奪って行き、乾燥した地面から埃を舞い上げ紙コップまで飛ばされそうなほどです。
そのような状況でドリップを行わなければならない時、インドア環境と同じように蓋のないドリップポットを使って温度計を抜き差ししては眺たり、コーヒースタンドとスケール上にセットしたドリッパーやサーバーを隙間だらけの状態で放置したまま抽出するという方法を取ったとすると、果たしてどのようなコーヒーが出来上がるでしょうか?
そして、それを受け取ったお客様はどこでどのようにして召し上がるのでしょうか?
その状況はご想像にお任せしますが、そこにお客様も私自身も求めていたものはなく、もっと他の方法が必要なことは明らかだと思います。
このようなことは、アウトドアにおける基本的な品質と体験のつながりを表す一例に過ぎません。
変化の大きい屋外環境でコーヒーサービスをご提供するための安定的で衛生的な環境をいかにして維持出来るか?
ただ、その解決策を見出すだけでも、コーヒー、お店、人、自然そのものについて深く広く学んでいかなければならないと思います。
こうした様々な問題解決を通じて長年培ってきたノウハウは多くありますが、ビジネスに当たって競合店も年々増えて来る中では当店の独自性を自ら守る必要に迫られていることから、誠に恐縮ですがここでその解決策の一つ一つをご紹介することは控えさせて頂きます。
ご来店の際には、自然体でコーヒーを楽しんで頂けるようお店全体に散りばめられた数々の創意工夫についても一緒に味わって頂ければ幸いです。
※関連記事:About us