2024/12 「抽出レシピとマーカーの関係」項を追加
2024/12 計算&チャート生成アプリとしてバージョンアップ
2024/8 「ドリンクレシオ」という用語を導入
※参照:水出し・氷出しコーヒーの作り方は? – 抽出時間問題の解決編
11/7 新ステージの自動化ツールを鋭意製作中(公開は未定)
9/27 数値化によって求めるものとは?項を更新
9/1 ブリューレシオについての詳細を追記
8/27 SCAゴールデンカップとは?項を追記
8/14 グラフ上のポイント(赤丸)のデータ一覧が正常に表示されていなかったバグを修正
8/12 コントロールチャートのIdeal Zoneとレシオラインについての解説を追記
8/10 抽出メモの入力フォームを追加
- 抽出条件と風味傾向の関係について客観的に把握したり、正確な情報として伝達したり出来ます。
- フォームにTDS濃度、分量の測定値を入力。※要 Brix/TDS濃度計&スケール
- 下部のGenerateボタンを押すと、収率やブリューレシオをはじめとする抽出状態を表す計算結果が表示されます。
- 同時に、チャート内にマーカーがプロットされます。
- マーカークリックでツールチップの表示/非表示を切り替え。
- 初期値による計算結果は、「Ideal Zone(理想的な範囲)」のほぼ中心を示すように設定してあります。適宣変更して下さい。
- 値を変えて計算を繰り返すとグラフ上には全てのマーカーが残ります。各レシピについての様々な比較が出来るので、レシピ作りの試算用としてお使い頂くことも出来ます。
- Resetボタンで全ての結果をクリア。初期値に戻ります。
- チャートをダブルクリックすると元の表示形式に戻ります。
- 生成されたチャート画像の保存方法:保存したいマーカー(複数可)をクリックしツールチップを表示する。チャート右上コントロールバーの左端📷️ボタンをクリック。※データベースへの保存機能は正式版で提供予定
- スマホの場合は標準ブラウザで横画面表示を推奨
- お気に入り・ホーム画面に登録してもらうとすぐ使えます
- 弊社で入力内容を保管したり、何らかの形で利用したりすることはありません。
- 用語の説明や計算方法の詳細については記事下項や以下の記事も合わせてご参照下さい
Brewing Control Chart Generator
(g)
(g)
(%)
1 :
1 :
解説:Coffee Brewing Control Chart

Brewing(醸造)
- コーヒーの場合は「抽出」と同義
- コーヒー抽出コントロールチャート
TDS(総溶解固形分)濃度
- TDS濃度(%) = 成分量 ÷ 抽出量 × 100
- 抽出されたコーヒー量と溶解している成分量の比率
- TDS:Total Dissolved Solidの略語
- Brix濃度というショ糖の含有率を測定する機器を用いる場合、その測定値をおよそ0.8倍することでコーヒー抽出液の成分含有率に近い値が得られる
Extraction Yield(収率)
- 収率(%) = 成分量 ÷ 粉量 × 100
- 粉量と粉から抽出液中に取り出された成分量の比率
- Extraction=エキス・抽出・収斂
- Yield=収率・収量
- コーヒーの場合、まとめてEYや収率などと呼ばれる
- 最大27%前後 ※酵素などの促進用添加物を使用しない場合
Strong(濃い)⇔ Weak(薄い)
- 抽出液中の成分量が水量に対して多めか少なめか
- このチャートでは、中心のIdeal Zoneを基準として高いか低いか
Over-extracted(過抽出)⇔ Under-extracted(未抽出)
- 粉中の可溶性成分の総量に対して、抽出液中に溶け出した成分量が多めか少なめか
- このチャートでは、中心のIdeal Zoneを基準として高いか低いか
- コントロールチャートにおける収率は、レシピの持つ総合的な抽出能力を示す役割だけでなく、成分の構成比率に基づいた風味傾向を示す役割も兼ねた指標となっています。
その前提は、コーヒーの抽出工程は各成分ごとの「溶解度(水への溶けやすさ)の違いを利用した分離方法」を土台としていることにあります。
未抽出側の風味傾向:
水に溶けやすく抽出初期に拡散し終える酸味、微量の塩味と甘味、弱い苦味の限られた成分で構成された風味となる。多くの人にとって酸味よりでスッキリとした味わいを感じさせる状態。
収率18%を下回る辺りから、酸味だけが目立ち物足りなさを感じ始める。
過抽出側の風味傾向:
水に溶けにくく抽出後期にかけて拡散する強い苦味、渋味、油分が加算された多様な成分で構成された風味となる。多くの人にとって、苦味よりでコクと複雑さを持った味わいを感じさせる状態。
収率22%越えた辺りから、余計な雑味が目立ち飲みにくさを感じ始める。
Ideal Zone(理想的な範囲)
- TDS(1.15~1.45%)& 収率(18~22%)
チャートの出典元となる研究内で実施されたサンプル調査の結果から統計的に得られた範囲とされています。
理想的と表現されてはいますが、この評価は、あくまでも全体の分布状況から見た中央値や最大公約数的な値の範囲を表すものです。
それを理想という言葉で定義した点については、明らかに主観的な価値観が介在しています。
定義のあり方に議論の余地が残されていることは、実際、年代や地域の異なる発信団体によって若干異なるケースがあることからも伺い知ることが出来ます。
下記「ゴールデンカップとは?」項にある、2023年現在のSCAが示している値も若干変更されています。
また、エスプレッソ式コーヒーの一般的なTDSは8~11%ほどとされており、このチャートの範囲には含まれていません。
Brew Raito(ブリューレシオ)
- Coffee to Water Ratio(粉量と注水量の比率)
- グラフ右上の枠外に並んでいる「1:x」という値
- x = 注水量 ÷ 粉量
- ブリューレシオライン(ここでの仮称)
抽出結果をグラフ上に積み重ねた際に右斜めの直線状に表れる、ブリューレシオとTDS・収率の関係
レシピと抽出結果(マーカー)の関係

- 基本ポイント:挽目・分量・温度・時間
- 応用ポイント:圧力(撹拌・浸透圧・水圧・気圧)
- ベクトル:レシピの異なる抽出結果を比較する際、マーカーの移動方向と距離を視覚的に表すための矢印
- 標準的なレシピ調整方法:
- 目的と照らし合わせ、調整ポイントを一つに絞った上で値を変更する。
- 変更前と変更後のマーカーを比較し、その移動方向と距離を把握する。
- 風味を比較し、レシピの変化による影響度を多角的に確認する。
ベクトルが一つだけなので、変化の予測や確認が行いやすい基礎的な手順です。
- 高度なレシピ調整方法:
図に記載されていない移動方向(左右・左上右下)への調整を意図的、かつ正確に行うこと。
複数ポイントの値を同時に変更した際、チャート上には複数のベクトルが存在することになります。
その場合、「各ベクトルを合わせた合成ベクトル(相互作用)を予測した上で目的の結果を導く」という、複雑な手順を正確に実行するためのノウハウが求められます。
抽出環境など各ケースによって、単一のベクトルでさえ毎回全く同じとはならないため、意図通りのマーカー移動(合成ベクトル)を実現することは、常に困難な挑戦となります。
複雑な相互作用を内包する抽出の仕組みには、理解が進んでいない関係性や正確で統一的な言語化がなされていないノウハウも多いことから、レシピ調整の不安定さ、説明の曖昧さといった形で現れる「抽出のブレ」という障壁は、私達の前に今なお立ちはだかったままとなっています。
上図の導入は、障壁の形(問題)を具体的に可視化する、というプロセスに当たり、その克服に向けたロードマップのはじめの一歩です。
Dri-Navi - version1.1(最新β版)
ブリューレシオが招きやすい誤解と注意点
フォームの計算結果には、よく似てはいるものの微妙に異なる二つの比率が示されています。
- 粉量と抽出量(出来高)の比率(ドリンクレシオ)
- 粉量と注水量(投入量)の比率(ブリューレシオ)
- 抽出量 ≒ 注水量 – 抽出中に器具類や粉に吸水された量
※いずれも単位は質量(g)
抽出方法によっては、抽出量や注水量をはっきり区別して計測出来ない場合があったり、計算したい内容によっては、その差分が重要になる場合があったりします。
特に、何気ない会話の中では表現が曖昧になりやすい言葉なので、混同しないように注意が必要です。
また、チャート右上には小さい文字で「注水量:1Ⅼ=963g・抽水温度:93℃」という記載があります。
水1Lの重さは1000gでは?という疑問を持たれる方もいらっしゃると思いますが、その値は「水温4℃:1ml/1g」を根拠として日用の範囲では支障ない程度に簡略化された表現です。
水は温度が高くなると質量当たりの体積が大きくなる(密度が低くなる)ので、本来は一気圧93℃時の質量は963gであり、その値を用いていることが明示されています。
体積ベースの測定値を用いる場合、目盛りが正確な容器を使っていたとしても単位変換の際には注意が必要です。
学術的な研究においては、抽出をはじめとする実験、計測、論証などの施行条件には必要に応じて科学的に客観的かつ正確な値(方法)を用いるということが最低限の前提となっています。
ブリューレシオラインは、そういった科学的に正当な条件を整えることによって得られた結果(データ)から導かれていることから、「物理的な法則性」を示しているということが言えます。
そして、確かな法則性を持つということは、導かれた式に従がって逆算する(あるいは予測する)ことも可能ということなので、チャート上に記載のない条件についても具体的な値を読み解くことが出来るようになります。
例)
- ブリューレシオ ⇒ 1:17 = 粉量:963
- 粉量(g) ⇒ 約57g
- 推定抽出量 ⇒ 867g (78℃ ⇒ 水密度0.973g/ml ⇒ 約0.89L )
- 粉量(g):抽出量(g) ⇒ 1:15
- TDS:収率 ⇒ 1:15.6 (レシオラインの角度を表す)
このように上記フォームとは逆の計算手順を踏むことで、ブリューレシオの値を元に粉量や抽出量を導き、およそのTDS・収率と風味傾向まで予測するということも論理的には可能です。
理論というものは、利害関係のない第三者の検証による裏付けが可能であり、どこで誰がやっても結果が同じになる(普遍性を持つ)という事実を持って、はじめて信頼性が担保されていると言えます。
それが出来ない点が、誰かの主張する根拠の希薄な経験則や仮説、あるいは、メディア上の解説などでよく見られるホームズ&ワトソン形式(あらかじめ決まった結論に誘導する予定調和型)の問答記事との明確な差異であり、情報源として利用する際には線引きを必要とする境界の一つになります。
しかし、実際の場面で濃度計測まで行うケースはごく稀であり、そもそも濃度計をお持ちでないことの方が普通です。
当然ですが、上記のような線引きを日常のコーヒーシーンにまで持ち込むような真似は煙たがられるものです。
むしろ、日常に溶け込むことが求められるコーヒービジネスにとっての科学は、そのイメージほど相性が良くない領域であることは否めません。
実際、日本では科学の領域がコーヒー業界の表舞台に立つことはなく、理科の範囲でもやっとです。
なので、ブリューレシオという言葉に触れるのは、逆算手順を元にした「簡単な分量比率の計算だけで抽出結果(濃度感)のおおまかな予測を立てる方法についての解説」の中となる場合が多いのではと思います。
しかし、ブリューレシオを起点に組み立てたレシピによる実際の結果からは、期待ほどの一貫性や再現性が得られない、というケースを体験されている方もまた多いはずです。
なぜなら、その方法はゴールまでの目安作りとして、ある程度の水準までは有効なチャートの使い道の一つに過ぎず、この実験に用いられた抽出条件とは異なる現実の多様な抽出過程について多くを語るものではないからです。
濃度や収率は、ブリューレシオという一つの初期条件のみによって決定されるものではなく、あらゆる抽出条件(生豆・焙煎・鮮度・方式・器具・挽き目・分量・温度・時間・圧力・環境など)の相互作用を一つ一つ積み上げた最終的な結果なので、原理的に予測困難で不安定な値です。
レシピに固定の比率が示されている場合、一見は便利で万能なものに映るかもしれませんが、その数字に頼り過ぎるようになると、「数字を使って計算したところで、結局はケースバイケースで味が変わるなら意味がないのでは?」といった落とし穴にハマる危険性が高まって行きます。
それは、「与えられたゴールだけを先取りして、積み上げ過程をすっ飛ばす習慣が身に付く」という、理解を伴わない学習方法と言い換えることが出来るからです。
その最たる事例が、「透過式のレシピで杯数を変える際、固定のブリューレシオを用いて(レシオラインに沿って)算出された分量を用いてもTDS濃度が安定しない」という、抽出の物理的な構造上避けられない複雑性の障壁に、いとも容易くぶつかってしまうことです。
再現性を高めるためにブリューレシオという数値を御旗として掲げたはずなのに、それを確固とすればするほど再現性から遠ざかって行く、という自己矛盾に陥ってしまう。
この矛盾は、よほど抽出に精通した方でないと適切に対処することはおろか、その存在を認識することさえ難しい関係性だと思います。
どうしても、これまでのコーヒーレシピが指定された杯数ごとに独立性が高い(分量が変わることで風味バランスが崩れやすい)ものとならざるを得なかった理由は、私たちはまだ「何がどうつながっているのか?」という根本的な理論と全体像までは辿り着けていないという背景の中、言わば、手探りでパズルのピースを一つ一つ当てはめている状態だからです。
まとめると、1つのレシピを元にした複数の抽出結果をチャートのような直線的な比例関係に沿うようにコントロールするためには、レシオ以外の条件についても物理的な法則性に則ってそれぞれの値を調整しなくてはならない、という結論になります。
そして、その方策こそが世界中のコーヒー愛好家が長年に渡って追い求ているものの一つですが、このチャートにそこまでの詳細が示されている訳ではありません。
それもそのはずで、このような研究内容は科学の基礎、言わば入口についての話であり、「コーヒー抽出」という現象を司る法則性に触れるためには、理論的にも技術的にも別次元の領域まで踏み込んで行く必要があるからです。
「抽出条件の調整に当たって、事前に正確な予測結果に基づいた精度の高い条件設定を行うことが困難」という私たちの現状は、コーヒー抽出に関わる要素全体を網羅する科学的な理論が未だ確立していないことを裏付ける証左の一つです。
※世間にはコーヒーについての理論や対処法と呼ばれるものも数多くありますが、何十年も前から知られているコツという伝聞情報と感覚的な経験則をツギハギしているだけというものが大半です。
いざ、理論上の整合性や実践上の再現性が疑問視され、真摯な検証に掛けられる機会があれば耐えられない(どこかで破綻してしまう)事例は多々あります。
以下に具体例を挙げますが、それらには精度の不十分さや誇張表現が含まれるというだけで、全て間違いという訳ではありませんし、日常に求められる対処法としては必要十分だと思います。
例:杯数を増やす⇒レシオから算出した値よりも粉量を「少し」減らす・挽き目を「少し」粗くする、といった濃度を下げるための微調整
ある要素の比率を◯:△にすると、誰にとっても必ずおいしいコーヒーが出来る、など
数値化によって求めるものとは?
コーヒーの濃度については、基本的に液体であることと成分の体積が不明であることから「質量パーセント濃度」で表されるのが通常です。
- 質量パーセント濃度(%) = 溶質質量(g) ÷ 溶液(溶質+溶媒)質量(g) × 100
なので
- コーヒー濃度(%) = 成分量(g) ÷ 抽出量(g) × 100
また、水や抽出液の分量については、水の密度「1g/㎤=1g/ml:4℃」に基づいて簡易的に表されます。
コーヒーの世界では、プロの仕事を含むほとんどの場面で、簡便な計算でも事足りる範囲の事象までしか扱わない、というのが基本姿勢になっているので、風味評価に比べ、数値上の細かいズレについては問題視されること自体がありません。
「コーヒーは数字じゃない」といったような思いや立場が主観的な価値観の中に広く存在し、それでも十分に成り立つ幅広い分野であることは確かですが、「コーヒーの中で起こっている物理現象という客観的な事実を追究すること」は別の話であり、どれを選択するしないも個々の自由です。
情報共有に当たっては、このような物事の捉え方や価値観といった基準についても混同しないように注意が必要な所と思います。
※量子論を除くマクロな尺度限定
もし、これまでのコーヒー業界が物理現象を重視する立場だったとしても、より普遍的な理論と高度な技術を土台として日進月歩している分野はこの社会にいくらでもあるという意味では、先進的と言える要素も実際のところはかなり少ない方だと思います。
「コーヒーについてどのように認識したり表現したりするのか?」という議論に際して、そこに数値を用いることが適切かどうかは、あくまで、「精度の水準をどこに合わせるか」いうわずかな立場の違いによるところだけだと思います。
その水準を少し上げると、言葉の定義や要件に従がって上記レシオラインに関する計算で行ったような内容まで考慮する必要が出て来るということになります。
濃度には計測する単位によって様々な表し方があるということもその一つです。例えば、体積単位であれば「体積パーセント濃度(%)」、物質量単位であれば「モル濃度」など。
上記の場合では、体積と質量の関係を表すために「密度(g/Ⅼ)」を用いていますが、液体や気体の体積は温度(と気圧などの圧力)によって変化することも考慮すべき内容に含まれています。
濃度という情報を扱う際には単位表記に気を付けないと言葉の意味や値にズレが生じてしまう恐れがあります。
その上、TDSとBrixの換算値(0.79~0.85辺り)や濃度計の温度補正に関しても近似値や不統一な方法が用いられているので、そもそもの前提から、コーヒーの濃度についての計算や情報共有に多少の誤差を含むことは避けられないということを認識しておく必要があります。
コーヒー抽出プロセスを探究するための現代的な手法においては、コーヒー豆や水や器具類といった物体の運動と性質、および、それらの測定あるいは検証技術についても分野の壁を越えて深く学んで行くことが欠かせなくなって来ています。
ただし、その目的は「細かい数値や表現の違いを追い求めること」ではなく、「コーヒー抽出という複雑で動的なプロセスの再現と共有についての可能性の模索」ではないかと思います。
そして、それ以上は求めることが難しい対象(自然の産物)を扱っていることを胸に留めておけば、商品あるいはノウハウについての誇大広告や自前の経験あるいは理論の中だけで、堂々巡りの迷い道や底なし沼に誘い込まれてしまうような事態も避けられるようになるのではと思います。
ゴールデンカップとは?
SCA(スペシャルティーコーヒー協会)では、コーヒーの中でも「スペシャルティー」という分類に該当する品質とは何かを明確にするため、製造に関わる主な項目ごと(生豆の生産段階だけでなく焙煎・抽出・器具類など)に、その目安となる要件をまとめた標準規格(Standards)が定められています。
現在のコーヒー業界は多かれ少なかれ、この大きな方針に従って形成されたものへと変容して来ています。
🔗SCA : Heritage Coffee Standards
「ゴールデンカップ」とは、ペーパードリップに代表されるプアオーバーやフィルターコーヒーに分類される抽出方式について(主にエスプレッソ式と区別される)、その標準規格を満たしたコーヒーのことを指しています。
ゴールデンカップの要件
- TDS(1.15~1.35%)& 収率(18~22%)
- Brew Raito (Coffee to Water Ratio)⇒ 1:17前後 55 g/L ± 10%
チャート内Ideal Zoneの中心付近を通るラインを追ってみると、1:16から1:18という値につながっています。これらの関係性を根拠として上の値が導かれているようです。
※誤解や曲解を招きやすい点を挙げておきます。
世界中のコーヒーに関する基準や捉え方、ひいては各国や地域ごとの規格や社会制度に至るまで百花繚乱といった時代が長く続いて来たこと。
そして、それを大きな原因の一つとして世界規模でのビジネスや情報共有についての問題(生産地での奴隷制に近い仕組みを含む)を多く抱えることとなり、健全な発展が阻害されていたことも認めざるを得ない事実です。
コーヒー業界の抱える暗い歴史を払しょくするため、「SCAでは基準やルールを示す場合にも科学的な根拠を尊重する立場を取る」という意味合いが含まれていることを象徴的に示す値となっています。
もちろん、SCAという組織の活動を幅広く伝えるためのキャッチコピー的な意味合いも含まれているとは思います。
しかし、こうした経緯を踏まえることなく安易に、「完璧・最高・究極のコーヒー」であるとか、「この範囲でなければならない」といった風に、ありとあらゆるコーヒーに共通する絶対的な評価基準やルールであるかのように喧伝することによって排他的な拡大解釈を促進する向きはふさわしくない(本末転倒)、ということにご留意頂ければと思います。
コーヒー抽出の指標化の発展
このチャートはアメリカのコーヒー研究所(The Coffee Brewing Institute)の所長アーネスト・アール・ロックハート氏によって1957年に発表された正式な論文から抜粋されているものです。
🔗The Soluble Solids in Beverage Coffee as an Index to Cup Quality
TDSや収率という指標による分析手法は、水質や食品の検査で用いられて来た古典的なものですが、70年ほど経った現在もコーヒー抽出についての科学的な基礎を示す研究として有効性を保っており、SCAをはじめとする世界中のコーヒー関連団体などで広く活用されています。
最近の研究によって、濃度と収率の2次元軸だけでは表現や評価の指標としては十分ではなかった要素についての補完が進められています。
特に、近代の精密な機器や分析法を用いて発見された成分や官能試験に基づいて製作された「コーヒーフレーバーホイール」に代表される繊細な風味特性との関連性を見出すべく、コーヒーに特徴的な「苦味の強度」という味覚軸を追加してバージョンアップされた3次元チャートが発表されています。
※フレーバーホイールについては、次のブログ記事で見やすいものがご紹介されています。
🔗山と珈琲、心の一杯:SCAAの新しいコーヒーフレーバーホイールを日本語に翻訳してみた【印刷用PDF付き】
3Dチャートと新たに得られた官能試験の結果を組み合わせることで、抽出状態と苦みや甘み、酸味といった味覚と抽出の関係を、より多角的に読み取ることが出来るようになったとのことです。
そして、「Ideal Zone」や「Under/Over」という表現には、その統計の元となったサンプルの品質や時代、および地域的な背景が反映されている可能性や、時代を経て発展を遂げたコーヒーの多様性との齟齬について疑問が投げかけられていた所もあるためか、品質の可否について示す指標は用いなくなったようです。
🔗3D Coffee Brewing Control Chart 2021 by SCA
ただし、「苦みの強度」をはじめとする味覚情報の数値化については、この研究で行われた試験と同様のコンセンサスを得るための前提条件と環境(あるいはルールとそれに則った訓練)が必要になるため、誰でもどこでも同等の精度を持つ値が得られるというものではありません。
風味の表現や評価の方法において常にボトルネックとなるのが「客観性の担保」です。
それを得ることはコーヒーの世界でも最も難しいことの一つに当たるので、現在も3次元バージョンは傾向を把握するための参考資料として用いられることが多く、実践的な場面では可視化や計算が容易な2次元バージョンが用いられることが多いようです。
コーヒーを様々な角度から「味わう」ためのツール
今回の記事は、「何度も同じ計算するのは面倒だなあ」という個人的な動機から、BingAI(ChatGPT3.5?)を使って計算とグラフ作成を自動化するスクリプト(java)が出来るかやってみた、というストーリーが本筋です。
コーヒー分野においても時代や技術の変遷に伴って新たな捉え方が芽生えることがあります。ChatGPTのようなAIを始めとするコンピューターサイエンスと工学技術の進歩がすでに次の潮流を生み出しつつある現状から、その活用方法を学ぶ機会にちょうど良さそうと思っていたのですが…。
想像以上にAIの対話力が凄すぎて、プログラミング素人の私でも簡単なコーヒー用計算アプリくらいの機能を持つものが一日(そのうちプロンプト≒適切なお願いを考える時間が99%)も掛からず出来てしまったので、無料で公開することにしました。
他の抽出条件や計算結果の保存にも対応することなどなど、また何か思いついたらバージョンアップして行こうと思います。
ちなみに、計算式自体は単純明快で難しいものではないので、最低限の記録や計算機能に限れば、専用ソフトやAIを使わずとも既存の表計算ソフトで十分なものが作れます。
例えば、スマホを始めとする特定機器の専用ソフトにはありがちなことですが、データファイルの入出力機能がなかったり、独自の保存形式が用いられていたりすることで、「その機器を変えたらソフトはおろか保存しておいたデータまで使えなくなってしまった」みたいな経験をされたことはないでしょうか?
そのような残念な事態を防ぐためにも、標準的な形式で保存・閲覧出来ることは大事なポイントと思います。