焙煎度別・抽出レシピの基本パターン – 抽出温度の落とし穴

目次
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    抽出レシピの役割と扱い方

    抽出レシピとは、あるコーヒーを作るに当たって使用する主要な抽出条件について記録したリストを指します。

    例)

    1. 豆の種類:ブラジル セラード地区 ○○農園産
    2. 焙煎度:深煎り(フルシティロースト)
    3. 器具:カリタウェーブ
    4. 温度:90℃
    5. 分量:粉12g 注水量220g
    6. 時間:2分30秒(蒸らし30秒3投)

    このような抽出レシピを用いる理由は、料理レシピやモノ作りの手順書と全く同じで、多くの人の間で「作り方」を情報として共有し、再現しやすくするためです。

    レシピという言葉は、材料表、設計図、完成予想図、製造工程表、注意書きなどをまとめた総称ですが…

    今のところ、その記述形式については個人の裁量に任されており、業界規則や定型というものは存在しません。

    また、コーヒーレシピ作りは一部のプロだけが可能な特殊技能という訳ではなく、古今東西の愛好家さんたちの間でも日々作り出されています。

    みんながイメージする一般的なものから、有名なもの、マイナーなものまで含めれば無数に存在します。

    豆・器具・インターネットなど、モノと情報の流通が多様化した現代…

    初心者の方が、いざ自分に合ったものを探したり、作ったりしようとコーヒーの世界に足を踏み入れる際、何より、その情報量の多さに圧倒されて尻込みしてしまうかもしれません。

    現在のコーヒー作り自体が、生産方法や風味傾向、価格といった面での多様化が進んでいることは事実です。

    そもそもの選択肢が少なかった過去の状況より、どれが良いか悪いか(おいしいかおいしくないか)という評価を決めることに関しても、複雑なプロセスと幅広い理解が求められるようになっています。

    どの豆・レシピが自分の求めるコーヒーに合ってるの?

    おそらく、このような種類の疑問が、抽出レシピに関する中で最も現代的な悩みに当たるのではないかと思います。

    ほとんどの方は、はじめからご自身の狙い通りにレシピを組み立てられる訳でもなければ、個性的で緻密にデザインされたレシピを必要とする訳でもありません。

    そこで既存のレシピに頼ることになる訳ですが、その扱い方を間違えると、期待した結果とは真逆という事態さえ起こり得ます。

    特に、専門店のような細部までデザインされたスペシャルなレシピになるほど、ご家庭のような変動的な環境においては使えなくなる(理論的な整合性や実践的な再現性を得ることが難しくなる)ケースが多くなります。

    • 自分の好みにバッチリ合ったコーヒーを作りたい
    • 自分でいろいろなコーヒーを作れるようになりたい

    では、このようなコーヒー好きの自然な願望をスムーズに叶えるためには、どうすれば良いのでしょうか?

    テンプレートを使って楽々レシピ作り

    レシピ情報の共有、および実践におけるズレという問題は、様々なコーヒーに関する情報共有についての根本的な問題の一つです。

    この問題に対して、人の手で無限に近い個別ケースまで完全に対応する手段を構築しようとしても、膨大なコスト(資源・費用・時間)が必要となるため実現は不可能です。

    有効性が高く、実践可能な解決策の一つとしては、「定型・ひな型(テンプレート)」の構築が挙げられます。

    テンプレートの役割は、誰でも使いやすい形まで下準備を整えておくことです。

    蓄積された様々な情報から、基礎となっている共通部分のみを抜き出し(ノイズや装飾も除去)、すっきり整理した形で記録しておきましょう、という情報共有(あるいはモノ作り)において無駄なコストを省く知恵です。

    独創性や革新性を感じる抽出レシピだったとしても、絶対に変わることのないコーヒーの自然な(物理的な)性質に沿った「基本の型」の上に成り立っているものです。

    その正確で便利なテンプレートさえ、誰もが簡単に見つけられるようになれば、様々なレシピを目的別や特徴別に分類したり、各ケースに合わせて上層部だけを組み立て直したりするといった応用段階の作業も、現状に比べてずっと楽になります。

    つまり、コーヒー抽出ノウハウの向上を目指すには、レシピの指す基本的な用語を理解した上で、「抽出レシピの上手な扱い方」を習得することが、知識の面でも、技術の面でも近道になるということです。

    経験やなんとなく、どこかで聞いたことがあるから、有名だからといった感覚的な指針に沿っていたレシピの扱い方を見直したい場合…

    以下の基本テンプレートと照らし合わせ、本当に自分に合ったものを見つけることから始めてみましょう。

    抽出レシピの中心軸は焙煎度

    コーヒーの風味の特徴について表す場合、基軸となる要素は「苦味と酸味」です。

    この評価軸が基礎(大カテゴリ)に当たる根拠は、次のような「果実の種としての性質」に由来します。

    種子に蓄えられているフルーツ系の成分(酸)と甘味成分(糖類)は、焙煎度が深くなるつれて徐々に減少し、香ばしさを伴う苦味成分へと変化して行きます。

    この「トレードオフの関係」が、コーヒーの味作りにおいて基礎中の基礎となる違いだからです。

    そして、その違いは主として「焙煎度」によって決定されるという事実が、コーヒーの作り方というプロセスから見ても、風味への影響度から見ても、最初に見るべき指標としてふさわしいと言える(レシピ分類における最も大きなカテゴリとして成立する)根拠です。

    • 焙煎度:コーヒー生豆に熱を加えることで、どれくらいまで成分変化が促されたものかを示す代表的な指標

    焙煎過程における風味変化

    浅煎り(1ハゼ前後):酸味が優位

    深煎り(2ハゼ前後):苦みが優位 

    成分の化学的変化だけでなく、植物の繊維で出来た物質としての密度や硬さといった性質も同時に変化して行きます。

    浅煎り(1ハゼ前後):硬く重い(密度高)

    深煎り(2ハゼ前後):脆く軽い(密度低)

    同じ生豆であっても、焙煎度が異なる場合には抽出対象となる成分や成分溶解の進行速度が変わります。

    その変化は、誰の目にも(口にも)明らかな違いとして現れ、色合いや風味といった仕上がり具合に強く反映されています。

    冒頭で解説したように、コーヒーレシピを決定する根拠には、お好みやオリジナリティーによる細かなアレンジ(中小カテゴリに属する上層部の差異)を許容するだけの柔軟性は残されているものの…

    全体を俯瞰してみた場合、まずは焙煎度を軸として収束するラインが浮き彫りとなります。

    それだけ、焙煎度という指標は最終的な風味傾向との相関が強い支配的な要因であり、その基準を元に考えなければ、あらゆる既存のレシピも抽出のコツも適合し得ないということです。

    レシピの基本パターンと調整幅の制約

    コーヒーの風味に影響を与えている要因をざっと思い浮かべるだけでも、生豆の生産・輸送・保管・焙煎・製粉・抽出の各段階が挙げられ、さらに細かい分類まで列挙すれば、軽く数十項目を越える数になります。

    では、抽出レシピの作成に当たっては、毎回そのフローチャートを原点まで遡り、全ての項目について適切な条件を設定して行く作業が必要ということなのでしょうか?

    もし、「レシピとは、抽出に関わるあらゆる要因の組み合わせ方によって、生み出されるコーヒーの数だけ存在し、わずかな条件設定のズレでさえも全く異質な風味を醸し出すもの」といった感じに仰々しくお伝えした上で、細心の注意を払うように促されたとしたら…

    計り知れない奥深さに誰もが恐れおののいてしまうことでしょうが、ご安心頂いて大丈夫です。

    このような論法(レトリック、あるいは説明の仕方)は、コーヒーの世界でも比較的よく見られる宣伝文句(あるいはブランディング)ですが…

    条件ごとの結果に対する影響度(各パラメーターの重み付け、あるいは係数)」という要素を無視しているとしたら、それらは現実とのつながりを失った単なる言葉の羅列です。

    マーケティングの常とう手段として、「無限の可能性(多種多様な選択肢)を錯覚させることで、消費者を誘導すしやすくするタイプ」は、私たちの認識の脆さを突いた、特に初心者に対して効果絶大の手法です。

    おそらく、「大半の方にとってコーヒーと科学的なノウハウ(知識と技術)の関係に触れる機会はほとんどない」という状況こそ、そのような事態が蔓延する原因の一つではないかと思います。

    焙煎度が示す物理化学的な性質と、人の味覚という生物学的な仕組みに沿って描かれる、自然で明確なパターンを認識する

    今記事では、抽出の基礎を身に着けないと見えづらい、「抽出レシピのパターン」について整理した上でテンプレート化してみました。

    「コーヒー作り用の便利な下敷き」として使ってもらえれば幸いです。

    また、複数のレシピを扱う際、以下の親子関係に基づいた整理を行っておくと、イメージ通りに新たなレシピを組み立てることが出来るようになると思います。

    1. 焙煎度 ⇒ 基本パターン(テンプレートレシピ)
    2. 1に微調整を加えた派生型 ⇒ 応用パターン(バリエーションレシピ

    関連記事:コーヒー用語集 – 焙煎について

    焙煎度別:抽出レシピテンプレート

    中煎り~中深煎り

    現在の日本で最も多くの方に親しまれているコーヒー豆の焙煎度は、風味傾向において酸味と甘みとコク、華やかさと香ばしさのバランスがほど良い中深煎り前後です。

    氾濫する情報の波の中では、浅煎り派、深煎り派の両極から聞こえて来る強い主張や特殊ケース、希少価値が際立つのはさもありなんですが、実際のところ、静かにその中間に落ち着く方が圧倒的な多数派です。

    そして、「食文化に根差した味の好み」というものは、誰かに言われたからといって簡単に変わるものではないので、「他の人はどうしてるんだろう?」といった不安をお持ちのようでしたら、その点もご安心頂いて大丈夫です。

    国内の実態を踏まえ、最も支持層の多い「中深煎り用レシピ」を仮に標準値(50%)としてグラフ化

    この標準値はあくまで便宜的に設定したものですが、グラフを通じて比較することで、数値や言葉だけだとレシピごとの違いが把握しづらかった点が改善され、焙煎度が異なる場合、標準レシピと比べて各項目の値はどれくらい違うのか?という変化が、直感的に分かりやすくなります。

    グラフ内の項目は、抽出レシピの中でも核心部分となる、「基本&応用ポイント:豆からの成分溶解量に大きく寄与する条件(大カテゴリと中カテゴリ)」に絞ってまとめています。

    グラフの見方

    • 緑色に見える部分が多い:濃いめ(溶け出す成分量が多い抽出条件)
    • 緑色が少ない:軽め(溶け出す成分量が少ない抽出条件)

    抽出レシピの値の厳密性について:

    レシピの数値は目安とお考え下さい。

    そもそもの素材が、多種多様な品種と育成環境という自然の生み出す農産物であることや、技術や設備も不十分な体制・流通経路も多分に含まれる中で一杯のカップに至るまでの工程を鑑みれば、それがまるで精密な工業製品と同等であるかのように扱うことには無理があります。

    まして、それぞれのケースでレシピ外の抽出条件(豆や器具・環境など)が異なることも大前提として存在する以上、「情報共有のために示された目安値」という役割までに留めておくのが妥当ではないかと思います。

    なので、数度、数秒や数mlといった小さな違い(実際には問題にならない誤差の範囲)に着目する前に、誰でもはっきりと感じ取れるであろう大きな違いを生み出す条件から注目してみましょう。

    余談ですが、「こだわる」という言葉には、”細部まで追究する”といった肯定的な意味と、”小事に執着する・拘泥する”といった否定的な意味の両面があります。コーヒー分野は可視化しにくい部分が多く、自ずと後者へ傾倒しがちになるので注意しましょう。

    抽出条件についての補足

    • ハンドドリップ透過式 ペーパーフィルター
    • 比較しやすいよう分量(粉量と抽出量)は全て同じ条件としています

    焙煎度

    • 3:ミディアム 4:ハイ 5:シティー

    目的

    • バランスの良い万能型
    • ある程度、過不足なく成分を溶かし出しつつ、誰でも飲みやすい範囲に収める

    方向性

    • 満遍なくほどほどに
    • 濃度(TDS値):1.3%前後
    • 収率:20%前後

    ※SCA基準のゴールデンカップ:(細かい話は抜きで)おいしいと評価する人が多い範囲

    関連記事:コーヒーの可視化と計算を可能にするブリューレシオ・TDS濃度・収率とは? – 抽出コントロールチャート生成アプリ

    微調整の一例

    • 深煎り・浅煎りのパターンと比較して、お好みに近づくようにレシピの値や器具を変えてみる
    • バイパス注水:濃すぎると感じた場合など、単純に全体の濃度を下げれば飲みやすくなることもあるため、少しづつ抽出液にお湯を足して薄めてみる

    ※透過式の構造的な不安定さ:

    風味傾向が万人向けだからと言って、その方が技術的に簡単という訳ではないことには注意が必要です。

    主にハンドドリップと呼ばれる透過式抽出法は、「調理法としての仕組み自体が不安定」という、焙煎度やコーヒー豆の種類とは直接関係のない問題を抱えています。

    それは、「気付かない所で~過ぎてしまっていた」といった事態を容易く引き起こす、という意味であり、私たちが「レシピと風味」という因果関係の迷路に陥りやすくなる根本的な原因です。

    挽き目:中挽き~中粗挽き
    50%
    分量:粉量13g 抽出量200g
    50%
    温度:水温90℃ スラリー温度85℃
    50%
    時間:2分30秒
    50%
    圧力:撹拌は控えめ 注水回数:5投(蒸らし1×30秒 + 本注水4×30秒)
    50%

    深煎り

    焙煎度

    • 6:フルシティー 7:フレンチ 8:イタリアン

    目的

    • 力強いコク(ボディー・質感)とキャラメル系の甘さ、香ばしさ(ロースト感)を味わう

    方向性

    • 中温中時間
    • 浅煎りのもに比べ、豆の繊維が脆く界面活性物質の量が多いことから、成分全体が溶け出しやすい
    • やや低めの温度にすることで苦みを抑え、甘味やコクを静かにゆっくりと溶かし出すイメージ
    • 雑味としては、強い苦味や焦げ感、ざらつきが出やすい(抽出由来とは限らない)、
    • 過抽出傾向にならないように成分溶解量を減らす(収率を下げる)

    ※結果的に中煎り~中深煎りレシピと同程度の濃度に収まります

    微調整の一例

    • 苦みやいがいがしさ、舌触りのざらつき(雑味)が強いと感じた時は、レシピの湯温を下げる、もしくは、それらの成分が溶けやすくなる抽出後半のみ湯温を下げる
    • 時間が長くなった結果として、上と同様の傾向が見られる場合は挽き目を粗くする
    • よりボディー感を味わいたい時は粉量を増やす、もしくは時間を長めにする
    • コーヒーオイルを透過させやすいネルや金属メッシュといった粗めのフィルターと組み合わせることで質感、香味を加えてみる
    • ポイント調整をより低温・長時間方向に向けることで、より苦みを抑え甘さを際立たせる(常温・低圧・数時間という条件が一般的な、水出し方式の特徴に近付けるということ)
    挽き目:中粗~粗挽き
    35%
    分量:粉量13g:抽出量200g
    50%
    温度:水温85℃ スラリー温度80℃
    40%
    時間:3分 注水回数:5投(蒸らし1×30秒 + 本注水4×38秒)
    65%
    圧力:意識して撹拌を抑える
    25%

    浅煎り

    焙煎度

    • 1:ライト 2:シナモン

    目的

    • 華やかな香りと果実系の甘酸っぱさに表れる、それぞれの豆が持つ個性を楽しむ

    ※生豆のグレードがスペシャルティー以上にランクされるものは、多様な成分を含む傾向があります(特に、果実系の酸味やフローラル系、スパイス系の香味)

    浅煎りは、それらの生成が最も活発になる段階に当たるため、生豆の持つ個性が表れやすいとされています

    方向性

    • 日本で一般的な中~深煎り向けのレシピ(コーヒー抽出のイメージ)とは、目的とする味わいも抽出プロセスも相反する点に要注意
    • 高温短時間
    • 深煎りのものに比べ、粉の繊維が硬く締まった状態で、水抜けが悪く成分も溶け出しにくい(収率が上がりにくい)
    • 特徴である強い香りと酸味を十分に引き出した上で、コクをプラスして土台を作るイメージ
    • 雑味としては、渋み、えぐみ、穀物臭が出やすい(抽出由来とは限らない)
    • 未抽出傾向にならないように粉からの成分溶解量を増やす(収率を上げる)

    ※結果的に中煎り~中深煎りレシピと同程度の濃度に収まります

    ※高収率タイプ(緑色の面積が大きい)レシピの注意点

    推奨されるのは、粉自体が高品質(生豆・焙煎・挽き目・保管状態の全て)な場合のみ

    元々、過度な酸味や苦味、渋みといった雑味成分が少ない焙煎豆を使用するという、ややハードルの高い前提条件が必須です

    逆に言えば、焙煎度に依らず、低レベルな豆には低収率タイプの方が適合しやすいということが言えます

    微調整の一例

    • 全体的に物足りない、あるいは酸味に偏っていると感じた際は挽き目を細くする
    • 同様の目的で撹拌を強めてみたり、蒸らし時間や全体の時間を長く(3~4分)してみたりすることで濃度を上げる
    • 酸味や渋みなどのとげとげしさが強い、甘みが少ないと感じた時は、挽き目を粗くする。もしくは湯温を下げる
    • 時間調整が上手く行かない場合(ドリップポットによる注水に慣れていない、水抜けの悪い器具類を用いている、微粉量が多いために目詰まりを起こしやすいなどの理由)、浸漬式器具で4分前後を目安に抽出してみる

    ※酸味成分は水に溶けやすいので、酸味だけを減らす増やすという調整は、抽出の仕組みとして難しいです

    一般的な対処法としては、全体の濃度を下げるのが最も簡単(バイパス法でも可)

    中級者以上向けとして、水に溶けにくく抽出後半に溶解量が増えて来るコク、苦味を追加することによって目立ちにくく(マスク)するといった、味覚上のバランス調整をおすすめします

    挽き目:中挽き~中細挽き
    60%
    分量:粉量13g:抽出量200g
    50%
    温度:水温95℃ スラリー温度90℃
    75%
    時間:2分15秒 注水回数:4投(蒸らし1×45秒 + 本注水3×30秒))
    55%
    圧力:粉全体に注水・撹拌する
    75%

    投入回数(注水分割数)ってどう決めるの?

    ハンドリップ用レシピ生成&ガイドアプリ

    当店開発の抽出最適化アプリをご利用頂けます。

    各ケースに合わせた抽出レシピ生成のみでなく、全体の実行プランを最後までサポートするガイド機能を搭載しています。

    ※注

    記事内のレシピは1杯用の代表例です

    以下のアプリでは、杯数(分量)変更時の濃度変化を抑制することで幅広いケースに対応したレシピを生成する、という目的に合わせて初期値が設定されています。

    目標濃度がやや濃い目、抽出時間が長めといった所でレシピの値が若干異なるため、お好みによって調整して下さい。

    補足:抽出工程中の温度変化について

    温度バーにある「スラリー温度」という言葉については、はじめて目にされる方がほとんどだと思います。

    • スラリー:固体と液体の混合物
    • コーヒースラリー:コーヒー粉と水が混ざった状態

    この用語は、現在のコーヒー業界では工学系のごく限られた分野でしか使われないものです。

    しかし、スラリー温度こそ抽出中の成分溶解プロセスにおいて本質的に重要な値です。

    一言にコーヒーの温度と言っても、それが抽出プロセス中のどこを指すのかで意味が変わります。

    もし、説明する人と受ける人、レシピや温度計が、それぞれに異なる部分を指しながら、ひとまとめに「温度」と呼んでいたとしたら…

    そこにズレがあると気付かない限り、いつまで経っても共通の理解に辿り着くことはないでしょう。

    そして、このようなすれ違いは、コーヒーの世界でもごくありふれた出来事であるために見過ごされがちです。

    いざ、抽出のことをもっと知りたいとなった時には、一つ一つの要素を識別するための言葉を学ぶというステップが、必ずあなたを次のステージへ導いてくれます。

    例えば、以下のような疑問を持たれたことはないでしょうか?

    • 沸したお湯って何度くらい?それをドリップケトルに移したら何度くらいになるの?
    • ドリッパー内(あるいは浸漬状態)の温度って、時々でけっこう変わってるのでは?
    • 抽出液が飲み頃の温度になるように調整するには?

    さらには、ケトルやドリッパー、サーバーは何製がいいの?ペーパーリンスはいるの?ちょうどいい抽出量や時間の決め方って?などなど。

    抽出に関して、よく投げかけられる疑問の数々は、その源流を辿れば「温度(より根本的には成分溶解に消費されるエネルギー:熱量)」に端を発する場合が多いです。

    つまり、それらの答えの多くは「スラリー温度の変化」にあると言っていいと思います。

    温度管理の起点はスラリー温度

    もう少し具体的な例を挙げながら解説して行きます。

    ドリップの準備から終了までの全工程を通して、水は以下のような異なる器具を段階的に経由するのが一般的です。

    ポット(やかん)⇒ドリップケトル ⇒ドリッパー  ⇒ サーバー ⇒ カップ

    それぞれの条件にもよりますが通常の抽出環境では、ポットなどで湯沸かしをしてから次の器具への移し替えを行うごとに、その水から熱は大きく奪われ、少なくとも5℃程度づつ温度が下がって行きます。

    例えば、以下のような環境でお湯の移し替えを行う場合、あっという間に10~20℃といった範囲で温度が急落してしまう、ということが起こることもあります。

    • 冷えた器具、あるいは金属をはじめとする冷えやすい器具を用いている
    • 気温が低い時期や場所。風を受ける場所
    • 抽出時間や準備時間が長い
    • 1、2杯分程度の少量抽出(準備する湯量も少ない)

    抽出中だけなく、準備から飲んでいる間までの各段階で、コーヒーに関わる温度は変化し続けています。

    つまり、「注水温度をはじめとする抽出工程中の温度管理は、スラリー温度を把握し、それを起点とした加減を行わなければ正しく成立しない」という結論になります。

    実は、抽出工程中の温度変化が最終的な風味に及ぼしている影響は、とても大きなものです。

    しかし、室内の安定的な温度環境を暗黙の前提とする一般的な解説において、スラリー温度とその管理方法について言及されることは、まずありません。

    先に述べたように、このポイントは業界内でさえ理解も周知も進んでいないからです。

    イメージと異なる抽出結果、あるいは不安定な再現性の原因を探るプロセスの中で、その重要性に反して、なかなか意識に上がりにくいポイントとなっている理由です。

    コーヒーメーカーよりハンドドリップの方がおいしいのはなぜ?

    工程中の温度変化の影響を表す代表的な例としては、機械式コーヒーメーカーとハンドドリップの比較が分かりやすいと思います。

    それぞれの注水温度をよく見てみると、それらがスタートからゴールまで一定に近いのか、それとも徐々に低下していくのか、という違いがあります。

    では、どちらが良いのか?

    コーヒーらしさを生み出す主要な成分は工程前半に溶け出すため、1投目の早い段階(蒸らし)でスラリー全体を目的温度に到達させるのが理想です。

    この点は機械でも手動でも同じですが、それぞれの熱の伝わり方も考慮して条件を整えたり、必要な対策を施したりして安定させることで再現性が向上します。

    最もシンプルな実践方法として、十分な湯通しによる器具類の予熱がおすすめです。

    苦味、雑味成分は工程後半にかけて溶け出しやすくなって行きますが、それは出来るだけ抑えたいというのが普通の感覚だと思いますし、多彩なフレーバーやクリーンカップを重視する業界での評価もその傾向が強いです。

    ハンドドリップでは、上記の水の経路と抽出時間に従がい工程後半になるにつれて注水温度が徐々に低下して行くパターンを描くのが通常です。

    成分の種類ごとの溶け出しやすさから見た場合、無意識ながらも注水パターンと希望の抑制効果の関係が一致する傾向にあるため、クリーンやスッキリ、まろやかといった印象が得られやすくなります。

    結果的に、「ハンドドリップはおいしい」という評価が広まることになります。

    これに反して、機械式(この場合は電気湯沸かし式ドリップケトルも含む)の多くは、湯沸かし部と注水部が直結しているため、工程後半にかけても注水温度が一定に近いパターンを描きます。

    すなわち、ハンドドリップとは逆で希望に沿った抽出結果になりにくいということです。

    このような物理的な違いが、「コーヒーメーカーよりハンドドリップで丁寧に(工程と時間を掛けて)淹れてもらったものの方がおいしい」と評価されて来た、いくつかの理由の一つです。

    機械式でその希望に沿った注水温度のパターンを描くためには、別途に多段階の温度調整機構を設ける必要があります。

    もちろん、メーカーさんの多くはこの問題を認識されているので、対策済みの機種も過去にいろいろ発売されています。

    しかし、それらを日常生活の中で目にする機会があまりない、という状況になっていることには、以下のような現実的な理由があります。

    注水温度や速度、分量といった抽出条件(パラメーター)について、細かい制御を行う機械的な仕組みを備えることは技術的に難しくないが…

    ⇒ 設計・製造・操作の工数が増えて複雑になる

    ⇒上級者やプロ向けの機種とせざるを得ない

    ⇒ 生産ロットが少ない

    ⇒ 高価となり普及しない

    このようなギャップは需要と供給の間には必ず存在するものですが、ハード的には「枯れたノウハウ」と呼ばれるものだったとしても、それらを扱うソフト的なノウハウの方に障壁がある場合に起こりやすくなります。

    例えば、自動車の運転やロボットの動きを自動化する際、機械部分よりも自律的に最適な選択を判断するための制御部分の開発に多大な困難がある、といったところです。

    ここではこれ以上の詳細には触れませんが、ご興味のある方はコーヒーの温度変化と風味の関係、生産から消費に至るまでの様々な段階で使用さている機械類について調べてみるのも面白いと思います

    関連記事:おいしいコーヒーの淹れ方は?応用編② – 収率・伝え方の注意点・AI

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