鮮度の基準は焙煎日
コーヒーらしい風味は生豆に熱を加えて【焙煎】することで生まれます。
焙煎豆は加熱・乾燥処理された状態に当たるので、飲食しても害がないという意味での消費期限は長めに設定されることが多いです。
また、焙煎時に発生するガスとコーヒーポリフェノール(クロロゲン酸類とその化合物)を含有し、それらには酸化を抑える作用があることから、数時間とか数日で飲めないほどダメになってしまうというようなものではありません。
さらに、見た目の変化もあまりないこともあいまって、一般的にコーヒー豆や粉の新鮮さと風味の関係については注目されにくいポイントとなっていますが、他の食品と同じように時間と共に風味は劣化して行くものなので、適切に保管して頂くことでより長くお楽しみ頂けるようになります。
密封して冷暗所が基本
バリア性が高い容器
熱・光・空気・水分を遮断する性能が高い素材と構造を持つものがおすすめです。
例:瓶・缶・タッパーなど
当店のオンライン販売で使用している保存袋は、コーヒー用の中でも特に高い保管性能が確保されています。(ガス抜きバルブ、チャック、内側アルミ蒸着仕様)
真空処理可能なものを使うとより長持ちしますが、焙煎後の豆から徐々に吹き出して来るガスの圧力に耐えられる強度が必要です。
新鮮な期間の目安
常温・冷暗所保存の場合(20℃前後)
- 豆の状態 ⇒ 焙煎日から2~3週間ほど
- 粉の状態 ⇒ 焙煎日から1~2週間ほど
冷蔵庫(5℃前後)の場合
- 豆の状態 ⇒ 焙煎日から2ヵ月ほど
- 粉の状態 ⇒ 焙煎日から1ヵ月ほど
冷凍庫(-15℃前後)の場合
- 数か月~数年
※当店基準で香りや味の劣化が少ないと思われるおよその期間についてお示ししたものです。
それぞれの期間を過ぎたらおいしくない、飲めないという意味ではありません。
工場などで窒素充填・真空パッケージ(酸化防止処理)などが施された製品に関してはこの限りではありませんが、開封した時点からは同様です。
冷蔵・冷凍庫から頻繁に出し入れする際は、豆の温度が大きく上下したり、湿気を帯びて結露が起きたりしないようご注意下さい。
冷えた豆をそのままドリップに使っても問題ありませんが、粉量が数十、数百gとなるような場合には湯温が奪われ、狙いよりも抽出温度が低下してしまう可能性が出て来るので、常温に戻るの待つか器具の予熱を入念に行うといった対策をお考え下さい。
エージング(熟成)
上記のような成分の酸化や散逸が抑えられた適切な保存状態においては、成分の熟成(エージング)作用が働くことで風味にも変化が表れます。
焙煎直後の香ばしさ(苦味・スモーキーさ・ロースト香)やメリハリのあるシャープな味わい(酸味・穀物臭・青臭さ)が次第に落ち着いて、全体的に一体感を帯びたまろやかさが感じられるようになって行くことから、数日~1週間程度の期間を置いたものを好まれる方が多いようです。
特に浅煎り豆、極深煎り豆の焙煎直後の風味には尖った印象が感じられやすいため、2週間~1ヵ月といった長期間とされるようなケースもありますが、適切な保管状態を保った上でなら十分においしく召し上がって頂ける範囲です。
当店では焙煎直後からでも良好な風味をお楽しみ頂けるように、それぞれの生豆や焙煎度に合わせた火の通し方をしています。
エージングによる風味の変化については、基本的に自然な変化による楽しみ方の一つと考えていますので、こちらで意図した期間を設けるといったことはしていません。
鮮度と抽出、風味の関係については以下の関連記事にて詳しく解説していますので、ご興味のある方はご覧ください。
消費期限
製造・販売元ごとの基準や方法によって異なります。
当店では鮮度を重視しているため、密封・冷暗所保存をお願いした上で1ヵ月と設定させてもらっています。
良好な保管状態を保って頂ければ、それ以上でもお召し上がり頂くに当たって問題はないものです。
豆か粉かで日持ちが変わるのはなぜ?
豆を挽いて粉にした時点から表面積が増大し、豆の中に蓄えられていて酸素の侵入を防いでいた炭酸ガスなどの気体成分も放出されてしまうことによって急速に劣化が進みます。
数十分という単位でも、そのような野ざらしに近い状態で放置されると揮発や酸化によって美味しさの素になる風味成分が減少して行きます。
香り、酸味、甘み、苦みなどの豊富な成分から生まれる複雑さといった風味を感じにくくなり、特に油脂分の酸化が進むと鈍く淀んだ風味や嫌なすっぱさ(フルーツ系の爽やかな酸味とは別の成分)が表れて来ます。
そして、酸化や炭化した成分から来る雑味や苦みも際立って感じられるようになります。
元はどんなに高級、高品質な豆であっても劣化すれば不味くなるものですし、お手軽な普及帯(コモディティークラス)で新鮮なものの方が美味しく感じられるという場合もあり、このようなことは日常的にコーヒーに限らず体験されている方も多いのではと思います。
腐敗による食中毒の危険はほぼないとされる食品ですが、人によっては胸やけや胃もたれ、吐き気といった体調不良を引き起こすことは十分ににありますので、適切に保管して頂き出来るだけお早めにお召し上がり頂くのが良いと思います。
豆に滲む油やコーヒに浮かぶ油膜は何?
全てのコーヒー豆には植物性の油脂分が含まれています。
焙煎という加熱によって固体だった脂質も溶けて液状の油となり、生豆では固く閉まっている繊維質もほぐれて豆が膨らみます。
すると、豆の内側から徐々に表面に滲み出て来るようになります。
焙煎度が深煎りになるほど豆の膨らみが大きくなることで内部に隙間(通り道)が多くなっているので、油が滲み出て来る量も多くなります。
元々の油脂分の量には生豆の種類によっても若干の違いがあります。
焙煎度で「深煎り」と呼ばれる、繊維質が脆くなって砕ける段階(二ハゼ)、を迎えたところから「フルシティー < フレンチ < イタリアン」という順に滲み出る量が増えて行き、焙煎中からもその変化は目に見えるようになります。
焙煎度が「浅煎り」「中煎り」と呼ばれる「ライト < シナモン < ミディアム」くらいだと、焙煎後に時間が経ってもそのような変化は見られません。
油の状態から鮮度を判断する方法と注意点
油はコーヒーに元々含まれている風味にとっても大事な成分で、それが見た目に表れるかどうかは焙煎度や抽出方法によってケースバイケースです。
つまり、油が滲んでいる・油膜が見える=劣化した状態ではないということです。
「油が滲んでいるかどうか?」は、深煎り豆から滲む量が焙煎直後と比べてどれくらい増えたか、によってだいたいの経過日数が分かるという程度の指標です。
油から新鮮さを判断するには「新鮮な植物油の特徴が失われていないか?」を見る必要があります。
- サラッとした感じでネバネバしていない
油は酸化するにつれ粘度が上がっていくため
- コーヒーらしい良い香りがあり、香りが弱かったり、鈍く淀んだような匂いがしたりしない
油は香気成分が溶け込みやすい香りの貯蔵庫
油は酸化すると独特の腐敗臭を発する
見た目や感触で分かるほどドロドロした感じや、嫌な匂いが感じられるようでしたら、召し上がるのは避けた方が良いと思います。
また、抽出後のコーヒーの液面に油膜が浮いて見えるケースについてですが、そもそもの焙煎度や挽き目、抽出方法によって「油の見えやすさ」が違うため判断が難しいところです。
上記と同じく、かき混ぜた時にサラッと溶けず分離したまま固まっていたり、コーヒーの香りの中にどこか嫌な匂いを含んでいないかという点に注意してみましょう。
※近年は生豆の精製段階で発酵を強く促す方式を用いることで豆の個性を際立たせたものが増えており、商品自体の特徴として発酵臭が感じられるものもあるので、良い悪いの区別が難しくなっています。「ナチュラル・ファーメンテーション・アナエロビック・マセレーションなど」
コーヒーの腐敗とは、油が酸化した過酸化脂質の増加が主な原因です。
過酸化脂質は体に悪く、その摂取量によっては胸やけ・胃もたれ・下痢などの症状を引き起こす場合があります。
商品を購入される際は、以下の基準を参考に出来るだけ鮮度に配慮された商品を選択するようにしてもらえたらと思います。
- 焙煎日が明記されている
- 消費期限まで猶予がある
- 密封性・遮光性・遮熱性の高いパッケージが使用されている
※関連記事:コーヒー豆・粉の選び方は?
抽出後のコーヒーの保管と温め直し
コーヒーは抽出液となった状態からも急速な劣化が起こっています
特にホットコーヒーはその熱によって酸化、加水分解をはじめとする成分の化学反応や揮発が進行しやすく、良好な風味を生む変化ではないことから、数分単位で劣化していることになります。
だからと言って、お店でもない限り淹れてから自然に冷める程度の数十分を気にする必要はありませんが、冷めないようにウォーマーなどを使って高温状態を維持するような保存方法は風味から見ると良いとは言えません。
断熱性が高く密閉出来るボトルやサーバーを使う方法は数時間ほどであれば有効ですが、熱による成分の劣化はどうしても避けられません。
数時間、数日単位での保管の際は、抽出後に出来るだけ早く冷却する、つまりアイスコーヒーにすることで劣化を抑えるという方法があります。
それを密封容器に入れて冷蔵庫で保管しておくと1週間ほどは風味を保てます。
温めなおしの際は、小鍋や電子レンジなどを使い弱い熱でゆっくり温度を上げ、60℃~70℃までを目安に行ってもらうと風味が損なわれにくくなります。