フィルターの役割
最大の役割は、「コーヒー抽出液とコーヒー粉を分離すること」です。
理由は、口の中でざらつく細かい粉が混ざったままだと、何はともあれおいしく感じられないからです。
それは当然の前提とした上で、おそらく皆さんがご興味を持たれているのは以下のような疑問の答えではないかと思います。
フィルターはコーヒー抽出液の風味に対してどのような効果を与えるのか?
コーヒーの抽出工程は、大きく分けて以下の3段階に区分されます。
- 水の浸透
- 成分の溶解
- スラリー濾過
①と②の工程は、コーヒー粉に含まれている成分を水に溶け出させるために、ドリッパーなどの容器内で水と粉を混ぜ合わせる工程を指しています。
そのようにして、液体と固体(+気体)が混合状態になったもののことをスラリーと言います。
そのコーヒースラリーをフィルターに通すことで、そこから狙いの要素(コーヒー抽出液)だけに絞って取り出す過程が、③の濾過に当たる工程となります。
フィルターを日本語に訳すと「濾材(ろざい)」です。
もし、コーヒーフィルターとは、そのコーヒー豆の特徴や風味を損なうであろう成分を自動的に選別して、その時の自分が求めていない要素だけを100%取り除いてくれるものだったとしたら、まさに理想的と言えます。
しかし、そんな魔法のような特殊能力とはかけ離れた、ずっと単純で大雑把な仕組みによって成り立っているのが現実です。
なので、コーヒー抽出における濾過とは、「どんな仕組み」で「どのような現象が起こっているのか」を知る、ということが、抽出という過程でフィルターが果たす役割と、結果としての風味の関係を理解することへとつながっています。
言い換えると、魔法や特殊能力が使えない普通の人でも、それらを理解するだけで、フィルターを使いこなして思い通りに抽出をコントロールする術は身に付けられる、ということです。
3つの要素が持つメッシュサイズ
私たちの普段のコーヒーの楽しみ方では、濾過して取り出されたもの(コーヒー抽出液)の風味について吟味しますので、ここで問うべきことは以下の二点です。
- スラリーの中からフィルターを通したいものと通したくないものは何か?
- フィルターは何を基準に通すものと通さないものを区別しているのか?
粉体と抽出液が区別される固液分離の基準は「それぞれの粒子の大きさ」です。
粉の大半は目に見えるほどの大きさなので粒子として認識しやすいですが、抽出液を構成する水分子や成分分子(イオンなども含む総溶解固形分:TDS)も全て細かい粒子の集まりと捉えると分かりやすくなると思います。
抽出を左右する3つのメッシュサイズ
- コーヒー粉:
ミルによって粉砕される際のサイズには大小のバラつきが生じます。
ミルのダイヤルで設定したサイズより粗挽きのものから、パウダー状ほどの「微粉」、目に見えないほどの「繊維質」と呼ばれる範囲のものまで含まれています。
この粒径のバラツキ具合のことを「粒度分布」と言います。
- 成分分子:
原子の様々な組み合わせによって大小や形状をはじめとする性質の違いが生まれます。
分子単独で存在するものばかりではなく、水に溶けた際に電離してイオン化するもの。様々な形態で一塊になったり、つながり合ったりしてコロイド化するもの。
また、水に溶けずに分離するものなどもあります。
粉に比べてはるかに小さいので粒子として目には見えませんが、コーヒーの味、色、香りの素となっている物質は、数百~千種類ほどに及ぶとされています。
- フィルターの穴:
フィルターは、植物や石油、鉱物、金属などの素材を加工して細かい塊や細長い繊維状にしたものを絡み合わせた生地から作られます。
このような生地が持つ無数の隙間のこともメッシュと呼び、そのサイズは「粒径・目開き」と表記されます。
比較的にペーパー、ネル、陶器(セラミックス)タイプのフィルターでは、メッシュサイズのバラツキが大きくなります。
濾過に関わる、これら3つの要素ともにメッシュサイズに大小のバラツキがある結果、フィルターを通れる粒子と通れない粒子は、特定のサイズという境界線で明確に分断されるものではなく、それらが重なり合うゾーン「境界領域」の中で確率的に示されるものとなります。
仕組みと現象について整理してみると、問うべきことがより具体的に見えて来ます。
- 境界領域に当たるメッシュサイズはどれくらいか?
- 境界領域に当たる一部の粒子とは何か?
- その粒子が抽出液に含まれる量によって、風味にはどのような変化が生まれるのか?
これらの疑問についての答えがフィルターの効果であり、お好みや目的によって様々なフィルターを使い分けたい場合に求めるべき情報になります。
また、ものによっては使い勝手まで大きく異なることも、ご選択に当たっての理由になると思いますので、それらも含めて代表的なものについてご紹介して行きます。
ドリップって奥が深い? - フィルターで分離してみる
スラリー(液体と固体の混合物)を分離する方法についても様々な種類があることを例に挙げて解説してみます。
フレンチプレスやトルココーヒーなどの古典的な浸漬式では「上澄みをすする」という飲み方をすることがあります。
この方法は、「水に対する粒子の浮きやすさ(比重)」という性質の違いを選別の基準とする「沈殿法」と呼ばれるものです。
この記事では、「粒子の大きさ(粒径)」の違いを利用した濾過という分離方法に焦点を合わせるため、沈殿法には触れていません。
しかし、厳密にはペーパードリップのような透過式でも、比重という性質の違いは「白い泡」や「粉」の水中での動き方の違いとして、目に見える部分に表れています。
重さや形といった性質の他にも、電気的な性質(電荷)を踏まえて、様々な化学反応を利用する分離方法(凝析・塩析)などがあります。
また、スラリーの状態を良く見てみると、あらゆる抽出方式には「半透過式」もしくは「半浸漬式」と呼ぶ方がふさわしい抽出過程が含まれているということが分かります。
「コーヒーは奥が深くて良く分からない」となってしまう理由の一つは、無数の素材が何から何までごちゃまぜ状態のスラリーから、唯一の正解やおいしさ、あるいは、単純で誰でも分かりやすい説明といったようなものを、無理矢理に導き出そうとしてしまうことです。
人の価値判断を一種のフィルターと捉えると、それはまさに変幻自在で、何を通し何を通さないかという基準は、杓子定規のように決まっているものではありません。
そもそも材料や過程についてよく分かっていない時点で、抽出の最適解について客観的な判断を下したり、求めたりしようとする段階からは程遠い場所にいるという点も考え合わせれば、その挑戦は、何の道具も命綱も持たずに、自ら底の見えない落とし穴に飛び込むような危険な行為と言えます。
上記は一つの例ですが、抽出工程では様々な粒子のそれぞれに異なる性質によって複雑な現象が起こっていることは確かです。
それは「情報のスラリー(混合物)」とも見ることが出来る状態なので、それぞれの現象や対象に合わせて情報を濾過(フィルタリング)して取り出してやることで、見えやすくしてから観察してみましょう。
その後、それらがどのようにつながっているのかという関係性を紐解いて行きます。
例え無理矢理であっても、人が何らかの答えを求めて止まないのは心理的な不安を埋めるためですが、その隙間をつなぐ強固で理路整然とした道が見つかったなら、その方がずっとスッキリと安心した気持ちでコーヒーを楽しめるのではないかと思います。
抽出とは何か?
朴訥とコーヒー哲学を語りはじめそうなほど字面がかっこいい疑問ですが、ここでは端的に用語の意味について整理してみましょうという意味です。
コーヒー分野において「抽出」という言葉は、粉からコーヒーエキスを取り出して一杯のカップになるまでの全ての工程をまとめた総称として使われています。
しかし、本来の意味は「混合物に特定の物質を溶かす作用のある溶媒を加えて溶質を分離する操作」とされおり、物質ごとの溶解度の差を利用して成分を分離する方法を指します。
つまり、「コーヒーの抽出」とは「本来の抽出」に加えて様々な分離方法が組み合わされた一連の製造工程ということです。
通常のコーヒー抽出は、対象(粉・成分・水)もごちゃまぜの上に、工程(フィルターを含む器具・分離方法)もごちゃまぜの状態です。
そこで何が起こっているのかと改めて問い直そうとした場合、一般的な理工系の知見を持っていたとしても、なかなか捉えどころない(感覚的に奥深いとか芸術的と表現されがちな)ものに映ってしまうのは無理もないことと思います。
コーヒー抽出液の作成工程
- 抽出工程:コーヒー豆・粉(混合物)から水(溶媒)に溶けやすい成分(溶質)を水溶液として取り出すこと
- 分離工程:濾過分離⇒コーヒー粉(個体)とコーヒー抽出液(液体)の混合物を特定の粒子サイズ以下が通る濾紙を通して分離し、コーヒー抽出液を取り出すこと
抽出方式によって異なる分離方法の違いについてまとめると、以下のような関係となっています。
- 濾過:粒度の差 → フィルター
- 沈殿:比重の差 → 浸漬 > 透過
- 抽出:溶解度の差 → 透過 > 浸漬
成分の分離方法には、それぞれの目的に適した様々な種類があり、生産から一杯のカップになるまでの全ての工程を通じて欠かすことの出来ないプロセスです。
コーヒー分野の言葉には本来の意味とは異なったり、混同されたりした形で慣習的に定着してしまっているものが多々あります。
この問題が、「抽出」という現象を理解したり、その情報を伝達したりする上での障壁を生み出す原因や、論理の核心部分になるにつれて精神論や感覚的な想像で覆い隠されてしまうという不毛な風潮から脱却出来ない原因の一つなので、当店の解説ではその点にも出来るだけ配慮しているつもりです。
言葉やイメージ(印象)に惑わされないこともコーヒーについて学ぶ上で大事なことだと思いますが、もっとストレートに表現すれば、「目の前の現象そのものを捉えること」が何よりの近道と思います。
フィルターの仕様
メッシュサイズ
基本的にスラリーからコーヒー粉を除去することを目的とするコーヒー用フィルターのメッシュサイズは、粉の中でも細かい方の粒子、いわゆる微粉サイズ(10μm~100μm前後)に合わせて作らています。
なので、微粉と同じくらいから大き目の粒子は通れず、それよりも小さい粒子は通れるくらいの無数の隙間が空いた形状の生地が用いられます。
一般的なコーヒーフィルターのろ過の種類は、対象メッシュサイズを10μm以上とする「粗濾過」と呼ばれる範囲に当たります。
多くのフィルターは細い糸のような繊維状の材料を絡み合わた構造で出来ているため、穴(フィルターのメッシュ)のサイズを完全に均一に加工することは難しく、大小のバラツキを持っています。
厚み
繊維素材から作られるフィルターは、それが折り重なることによって層が形成されることで厚みを持ちます。
粒子から見た場合、フィルターの厚みは通り道の分岐の数と距離に当たります。
層が厚くなるほど、分岐の数が増え距離は長くなり、複雑に曲がりくねった道筋になって行くので、粒子がフィルターにひっかからずに通り抜けられる量と速さは低下します。
また、フィルターの「表面積」とは、円錐や台形、ひだのあるなしといった外面の形だけを指すのではなく、上記のような構造を持つ層の内部までを全て含めて粒子が触れられる部分という意味になります。
フィルターに触れた時にざらざらした感じになっているものが多い理由は、クレープと呼ばれる「凹凸」を形成することで表面積を大きくするための素材や加工法が用いられているからです。
そうした濾過能力を高める工夫によって、微粒子が引き起こす口当たりの悪さや、目詰まりによる濾過速度の減衰を防ぐことが出来るようになります。
金属製についても、例えば2枚重ねにしたり、ステンレスたわしのような形状にしたりといった層を形成するための工夫によって若干の効果が得られます。
コーヒーフィルターの指標
この2点を総合すると、フィルターに関する重要な指標とは、水・成分・粉それぞれの粒子の通り抜けやすさ、ということが言えます。
水の粒子(分子)サイズは非常に小さいので、吸水される分を除けば、大抵のメッシュ(目開き)は通り抜けます。
しかし、コーヒー成分・粉の粒子は大小様々なので、フィルターのわずかな仕様の違いによって境界領域の範囲が変わることで、通り抜けられるものと通り抜けられないものはケースごとに異なります。
どれくらいのサイズ、速さ、量を分離出来るのか?
フィルターがコーヒーの風味を変化させる理由は、このような「ろ過性能」の違いです。
では、コーヒー抽出に適したフィルターの濾過性能とは、どれくらいの範囲なのでしょうか?
普段、私たちがコーヒー粉の挽目と呼んでいるメッシュサイズは以下の通りです。
- 最も細かいケース ⇒ 100~300μm前後(代表例:エスプレッソ式)
- 最も粗いケース ⇒ 800μm~1.2mm前後(代表例:フレンチプレスやネルドリップ式)
そして、コーヒースラリーを構成する水・成分・粉の大小関係について、客観的な基準に則ってまとめてみたものが下の表です。
粒子サイズを表にして見比べてみると、コーヒー粉、成分、フィルターの三要素が持つメッシュサイズが重なる境界領域に当たるものとは、「中サイズの粒子」であることが判明します。
水分子や大きめの粉といった粒子については、ほぼ通る⇒100%、ほぼ通らない⇒0%、という分離度合いがハッキリしたので、このテーマにおいては議論の対象から除外出来ます。
この当たり前のようなポイントも、確かな数値という証拠に依って整理することで、「もしかしたら~かもしれない…」という仮定のループから抜け出せる、という意味で重要です。
では、中サイズの粒子の中にも、さらに細かい大小の区分がある、という次の議論の段階に進んでみましょう。
フィルターの効果、およびミルの性能に関しても様々な議論がありますが、その本質的なテーマとは、「中サイズの粒子が抽出過程と風味に与える影響」ということが言えるようになりました。
これまでをまとめると、コーヒフィルターの効果を示す最も重要な指標とは、「中サイズの粒子についての濾過性能」という結論が導かれます。
さらに歩みを進めると、境界領域の範囲のメッシュサイズは、成分の分子や塊としてのサイズから推測すると、およそ数μm~数十μmという所まで絞り込んで間違いないのでは?、という一つの疑問が浮かび上がってきました。
この疑問の答えは、これまでのコーヒー分野の情報を探しても見つかりません。
答えが簡単には見つからないからこそ、探求や議論のテーマと呼べるのではないでしょうか?
粒子サイズ表
サイズ | 単位(m) | SI接頭語 | 透過性 | |
---|---|---|---|---|
水分子 | 極小 | 10⁻¹⁰ | A:オングストローム | 通る |
成分の大半 | 小 | 10⁻⁹ | n:ナノ | 通る |
コーヒーオイル 繊維質 | 中 | 10⁻⁹<10⁻⁶ | n~μ:ナノからマイクロ | フィルターの仕様で変わる |
微粉 | 中 | 10⁻⁶ | μ:マイクロ | フィルターの仕様で変わる |
コーヒー粉 | 大 | 10⁻³ | m:ミリ | 通らない |
フィルターをろ過性能という指標で捉える
工業製品として広く流通する商品ともなれば、仕様に極端なバラツキがあっては皆が困るので、その範囲を一定以内に収めることで安定した品質を保つための規定や規格に則って製作されるのが通常です。
その際、粒径や粒度分布、粒子の通過量といった濾過性能についての表し方にもいくつかの異なる方法があります。
工業分野では粒度測定器から得られた計測値や、粒子のランダムな動きをより定量的に捉えるために確率統計という手法を用いることで得られた推定値で示される場合が多いです。
つまり、コーヒーフィルターの効果というテーマについて、より発展的な形で議論を進めるためには、フィルターの濾過性能を示すくつかの指標を議論のステージに載せて行かなくてはならない、ということです。
個人的には、素材やメッシュサイズ、厚み、共通サンプル使用時の濾過性能を示す代表的な値といった、フィルターという商品として至極真っ当な仕様をメーカーさんに明記してもらうことが、「おいしいコーヒーフィルター」にまつわる誤解や混乱を終息させるためには不可欠の措置と考えています。
仕様による4つの効果まとめ
抽出される中サイズ粒子の量による効果
1.【微粉・繊維質:少 → 軽め(クリーン)】
【微粉・繊維質:多 → 濃いめ(ざらつき・コク)】
濾過工程を通じた風味形成に関して最も影響度が高い要素
コーヒー粉の中で細かい粒子の割合が高くなるほど成分の収率は上がりますが、同時に、スラリー中の粉と水の流れに不安定な挙動を生み出したり、フィルターの濾過能力を大きく奪うことで濾過速度の著しい低下を招いたりする原因にもなります
3つのメッシュサイズ、抽出時間、風味のバランス関係を非常に複雑なものとし、いまなお一貫した理解と定式化への試みを拒む厄介な要素です
2.【オイル:少 → 軽め(キレ・さっぱり)】
【オイル:多 → 濃いめ(コク・まろやか・芳香)】
コーヒーオイル:生豆が元々持っている油分
鎖状に連なった分子構造を持ち分子量・サイズとも大きいことから高分子に分類されることもある ※詳細下記
透過式の流量と時間(濾過速度)による効果
3.【メッシュ(目開き):細 → 時間:長 → 濃いめ】
【メッシュ(目開き):粗 → 時間:短 → 軽め】
4.【厚み:厚 → 時間:長 → 濃いめ】
【厚み:薄 → 時間:短 → 軽め】
注水量と時間が同じ場合、フィルターによって通り抜けられる粒子の量が変わるならば、自ずと落ち切るまでの時間も変わるという結果になります。
透過式でフィルターを変更する際には、時間変化による成分溶解量の変化も別に考慮する必要があるということを意味します。
ドリッパーとの適合と圧力について
細かい仕様についてはメーカーや商品ごとに異なるため、効果の大きさもそれぞれです。
また、ドリッパーの形状に合わせて作られているものについては適合をご確認下さい。
理由は、そもそも使いにくいということと、ドリッパーの形状やリブ(凹凸)によって生まれるフィルターとの隙間が多いか少ないかという要素でも水の流れ方が変わってしまうからです。
ドリッパー内でフィルターの形状が歪んでしまうと、抽出状態に部分的な偏り(抽出ムラ)が生まれやすくなります。
また、ドリッパーの壁面にフィルターが密着した部分は、基本的に固体・液体・気体にかかわらず成分を透過しなくなります。
つまり、濾過面積が小さくなって濾過能力が大きく低下するということなので、下部の流出口付近の密着していない部分に流れが集中し、目詰まりが起こりやすい状態になります。
【リブ:高 → 濾過速度:早い → 時間:短】
ドリッパーとフィルターの仕様は、メーカー側の意図した組み合わせによって、その性能と風味傾向が再現されやすい状態になります。
ただし、現在の所はフィルター仕様にメッシュサイズや厚みなどの細かい情報が記載されているものはほぼありません。
同様に、コーヒーの挽目について単位が統一されたメッシュサイズや粒度分布で表す、という表記方法も一般的とは言えません。
残念ながら、個々の抽出環境が持つ濾過能力について、客観的な判断を下すために必要な最低限の情報さえどこにも示されていないのが現状です。
ドリッパー、フィルター、ミルについての議論は昔から盛んで、各々についての見解は詳細に至るまでもっともながら、「それらを組み合わせた場合はどうなるの?」というテーマに踏み込もうとすると、結局のところは堂々巡りに陥ってしまい議論が進展しない、という現状について、疑問をお持ちになったことはないでしょうか?
その理由は、答えに辿り着くために必要な情報(共有されるべき前提条件)が欠落したまま、結論を導こうとしているから、と言う他ありません。
また、この段階で詳細に触れることは差し控えますが、「圧力という抽出条件によって水や成分の通り抜けやすさは変わる」、ということについてもご一考頂ければと思います。
関連記事:濃度がブレない抽出レシピの作り方 -ハンドドリップのデメリットを知る-
コーヒーが甘いと感じるのはなぜ?
- コーヒー豆の成分の中で糖質って何?
- 繊維質って何?
- まろやかって何?
- コクって何?
私たちがコーヒーをおいしいと感じる時、「甘い」「コクがある」といった感覚は、数ある風味の中でも特に重要な要素と思います。
上の疑問は、その理由について考える場合に良く挙げられるものになります。
コーヒー豆は、植物の種を原材料とし、それを幾重にも加工(精製)して作られたものです。
繊維質とは、その細胞壁や細胞膜を構成している多糖類に分類される、いくつかの炭水化物(主にセルロース、ヘミセルロース、リグニン)についての総称です。
精製・焙煎・製粉、抽出という過程を通じて分解されたり結合されたりを繰り返す中で、非常に多くの形態を取ることになります。
その中でも、目に見えないほど微細化されたものや水に溶けやすい性質を持っているものは、溶解のうち「コロイド状に分散する」という形でフィルターのメッシュを通り抜けやすくなります。
粒子が細かく親水性が高いものは、風味に粘性(コクやボディー、シルキー)をもたらし、粒子が大きく親水性が低いものは異物感(ざらつき・いがいがしさ、ドライ)をもたらす原因となります。
そして、ここがややこしい所なのですが、日本語の糖質や糖類という言葉からは、砂糖のような「甘み」を持ったものを連想してしまうという点です。
しかし、糖類の中でも甘みの呈味物質に当たるのは、単糖類(フルクトース、グルコースなど)を始めとする少糖類(スクロースなど)に分類される一部であり、名前が示す通りに小さな分子に属するものたちです。
イメージとしては、単糖類が重合したものが少糖類で、次に多糖類となり、さらに大きな分子の塊(高分子)になったものが繊維質というように区分されています。
そして、多くの場合は少糖類以上に大きな塊になって行くと、水に溶けにくくなり、人が感じる甘みもなくなって行きます。
元の素材は、どの区分でもほぼ同じ単糖類なので、上記の連想を単なる勘違いと言い切れない所がややこしい理由です。
また、コーヒー生豆の段階では、元来の成分として、ショ糖をはじめとするいくつかの甘味を持った少糖類が含まれています。
しかし、それらは焙煎段階での熱による分解、結合によって97%ほどが失われ、抽出段階を経て最終的にコーヒーに含まれている割合は、抽出量の0.3%以下となってしまいます。
そして、それは人の舌では甘みとして知覚出来ない量とされています。(閾値以下)
※コーヒーの濃度や収率についての話で登場するBrix値とは、水溶液中のスクロース(ショ糖)の含有率を表した糖度のことですが、それは抽出液にほぼ含まれていないということなので、そのままの値ではコーヒーの濃度と一致しません。
そこで、コーヒーの濃度を正確に表すために、抽出液中の総溶解固形分(TDS)とBrixの間にある相関関係を調査する研究が行われた結果、次の計算式が導かれました。
コーヒーのTDS濃度 ≒ Brix濃度 × 0.8
これらことから、現在も「コーヒーの甘さはどこから来るのか?」という疑問についての答えは大きな謎となっていますが、仮説としては以下の説が有力のようです。
- 浅煎り豆(焙煎度が低く熱による成分変化が途上段階)の場合は、焙煎豆でも少糖類の残存率が比較的高い(8%ほど)ため、深煎り豆(1%ほど)と比べて感知出来る可能性が高いのでは?
- フルーツ系やカラメル系の甘さを想起させる香り、油脂分や繊維質がもたらす粘性、それらと人間の感覚器官の反応や認識が複雑に絡み合って生み出される総合的な知覚として甘みやコクと表現されているのでは?
コーヒー抽出液中でコロイドを形成する大きな分子には、繊維質の素になる多糖類の他にもタンパク質やそれと糖類の複雑な化合物であるメラノイジン、カラメル、コーヒーオイルなどがあります。
さらには、メラノイジン・カラメル、ポリフェノール類の一種であるクロロゲン酸との複雑な化合物は、総じて褐色物質と呼ばれる物質へと変成して、コーヒーの特徴的な色味、香り、苦み、コクを形成する素材の一部になって行きます。
※これらの化合物やその反応過程は、多くの加熱食品中で見られる一般的なものです。
ただ、非常に複雑で多岐に渡る反応物質を生み出すため、現在のところは専門的な化学分析においても全容の解明までは難しいそうです。
材質ごとの特徴まとめ
ペーパー
木材や植物の繊維で作られた紙
材質:パルプ製が多い(主成分はセルロース)
- 【メッシュ:細 → 時間:長 → 濃いめ】
- 【厚み:中 → 時間:中 → ほどほど】
- 【微粉・繊維質量:少 → 軽め(クリーン)】
- 【オイル量:少 → 軽め(キレ・さっぱり)】
口当たりについて最もクリーンに仕上がるため、どのような種類のコーヒーでも飲みやすくしてくれる万能型。
加えて、価格が安いことやゴミ捨て、保管といった扱いも楽なことから日本では最も一般的に使用されている。
リンスって何?やらなきゃいけないの?
リンスとは、ドリップ前にフィルターに湯通しをして洗うことです。
ペーパーフィルターには漂白(白)と無漂白(未晒し・茶)の二種類が販売されており、それらには木材パルプに含まれるセルロースやリグニン、色素をどれだけ取り除いたものか、という違いがあります。
リンスの目的は、その残留成分から生まれてしまう紙臭さを抑えることと言われていますが、2023年現在の漂白タイプ商品であれば、もともと無味無臭なものが多いので、その場合に認められる効果は「プラシーボ効果」という、心理的な現象によるものです。
特に、日本では無漂白(未晒し・茶)タイプの方が体や環境に良いという昔の商品広告によって作られたイメージが今日でも購買動機につながっているようですが、2023年現在の漂白方法は、「漂白剤」から「酸素漂白」という体にも環境にも無害なものに大半が変わっています。
そして、無漂白(未晒し・茶)タイプでも紙臭さを感じないものが増えています。
コーヒーに穀物臭や青臭さといった植物由来の風味を伴う原因の一つには、焙煎度がかなり浅い豆(かつ失敗焙煎のもの)を使用しているケースが挙げられます。
そのようなケースに該当する場合は、発生原因が豆によるのか、フィルターによるのかを区別した上で対処する必要があります。
※フィルターの特徴はメーカーや商品ごとに異なるので要確認。
当店ではHARIO純正、CAFEC(三洋産業)のアバカシリーズ、いずれも漂白タイプを使用することが多いです。
当店では抽出前に念入りに湯通しを行っているので、リンスについてご質問頂くことが多いですが、その目的は他にあります。
フィルターとドリッパーの中心軸のズレや浮き上がりを防止することと器具類の予熱・洗浄を同時に行うためです。
アウトドアでは気温や地形によってドリップ環境が不安定になりやすく、風が強いとフィルターが飛んで行ってしまったり、埃などが舞い込んで来たりすることもあります。
特に、器具類の温度低下によるスラリー温度と抽出後のコーヒー温度への影響は無視出来ないほど大きくなります。
また、状況によってはフィルターがドリッパー内部で変形した状態になってしまうことがありますが、粉の層や水の流れがいびつになることで意図した透過状態が妨げられる原因の一つです。
アウトドアでは、刻々変化する環境を把握しながら適切に対処して行く必要に迫られますが、抽出に係わる対処をまとめて素早く行うための方法として、フィルターはじめとする器具類への湯通しを必須の工程としています。
スラリーの温度変化による影響を除けば、もともと紙臭さのないフィルターについては、リンスのあるなし一つに神経や議論の時間を割く価値があると言えるほど、誰でもハッキリ感じ取れる風味の違い(成分抽出への影響)を生み出すポイントではないと思います。
コーヒー抽出では、ご自身の目的とする結果に対して、その過程で必要なものは何かを判断出来るノウハウを身に付けて行くことが大事と思います。
ネル
植物の繊維で作られた布。語源は英語のフランネル
材質:綿(コットン)製のものが多い
- 【メッシュ(ベースの生地):粗 → 時間:短 → 軽め】
- 【厚み:厚 → 時間:長 → 濃いめ】
- 【微粉・繊維質量:中 → ほどほど(クリーン・コク)】
- 【オイル量:多 → 濃いめ(コク・まろやか・しっかり)】
メリット:ベース生地のメッシュが粗目であることからコーヒーオイルや繊維質が若干通り抜けやすくなることで特に口当たりまろやかさやコク、香りが増加する傾向があります。
メッシュは粗目ながらも、素材はペーパーと同じく植物の繊維をより合わせて出来ているため、その一本一本の糸が持つより微細な多孔質構造による吸着作用もフィルターとしての機能を果たします。
厚手のベース生地とその表面を毛羽立たせた起毛層によって多段階の濾過層を形成することで、ざらつきを感じさせるほどの微粉についてはほどよく吸着つつ、他の多くの成分が透過するため、上記の風味傾向に加えて口当たりのクリーンさも両立する優れた特徴をコーヒーにもたらすと考えられます。
デメリット
使用後に水洗いで粉を洗浄しなければならないこと。そして、保管の際は繊維に残った微粉や成分の腐敗を抑えるために冷蔵しておく必要があります。
新品や乾燥保管された状態のネルフィルターを使用する際には、事前に煮沸し、濾過能力を低下させる糊や固着した成分などの不純物を落としておきます。
こまめに洗浄、煮沸して丁寧に扱うことで数十回程度は再利用可能ですが、洗い落とせない微粉による目詰まりがひどくなったり、起毛が抜け落ちたりすることから吸着性が落ちて行くので、状態を見ての交換が必要となります。
フィルターの状態が変化するということは、それぞれのネルの状態に合わせたレシピ調整が出来ないと抽出の再現性が保てない、ということを意味します。
これが、ネルが玄人向けと言われる理由の一つです。
※店主は風味や作成工程も含めたネルドリップ愛好家で、営業においても独自に調整したネルフィルターを用いていたのですが、コロナ禍を経た現在、安全性とコストも含めた様々な判断からペーパードリップへ変更しています(ネル愛好家の方には申し訳ないです)。
新品ネルは抽出前にコーヒー液を加えて煮沸する?
- 保管時の形状を保つための食品用の糊が付着している
- 使い始めはネルの繊維が持つ吸着力が強く、抽出初期の主要な成分が多めに吸い取られてしまう
- あらかじめ別のコーヒーの成分を少し吸わせることで吸着力を落とす
ネルドリップの世界には「ネルを育てる」という表現がありますが、それはこの手法を応用する中で生まれた経験則を表したものではないかと考えられます。
- 水洗い後もネルには微粉とコーヒーオイルが吸着されたまま残りやすい
- 目的の風味傾向から見て程よい吸着力を判断し、その状態を保つようにする
- フィルターを反復利用するという特徴から、以前の抽出の残り香を活かす手法も生まれているが、衛生面や再現性の面から見た問題を抱えている
メタル(金属)
材質:ステンレス製が多い
以下のような様々なタイプが存在しているため、効果について一概には言えません。
- 2重メッシュなど、細かい(10μm前後)ものと粗い(数十μm)ものといった異なるサイズを組み合わせているもの
- パンチメッシュタイプで穴の位置や大きさ、数について調整されているもの
- 部分的にメッシュの数や大きさが異なるもの
- 茶こしのようなもの(数百μmほど)
代表例として、プアオーバー型の製品やフレンチプレスで使用されることが多い粗目(100μmほど)のタイプの特徴を挙げます。
- 【メッシュ:粗 → 時間:短 → 軽め】
- 【厚み:薄 → 時間:短 → 軽め】
- 【微粉・繊維質量:多 → 濃いめ(ざらつき・コク)】
- 【オイル量:多 → 濃いめ(コク・まろやか・しっかり)】
メッシュ径が比較的大きく、濾過層として働く厚みがない。
加えて、素材自体にも吸着性がほぼないため濾過速度が速い。
微粉やコーヒーオイルなども含む、あらゆる成分が通り抜けやすいことから、コクやざらつきといった口当たりや舌触りとして触感的に感じる風味が目立つ。※濃い薄いとは異なる
ドリッパー+フィルターという構造(一体型)が多く、水洗いすれば再利用可能なので、器具類の数を減らせる(フィルターを買い求めなくて済む)というのもメリットの一つ。
長期使用で目詰まりが発生することがありますが、煮沸洗浄することで緩和出来ます。
セラミックス(陶磁器)
材質:土(無機化合物の集合)を高温で焼き固めたもの
セラミックス製フィルターの多くは、素材によるメッシュの粗さを補うためと、強度的にも十分なものとなるように他のタイプに比べて数倍以上の厚みを持っています。
抽出中にフィルターの形状を保つ必要がないため、ドリッパー兼用タイプが多くなっています。
フィルターとしての性能は材質や製法によって様々ですが、コーヒー抽出用に作られたものの性質としては全般的にネルと近く、風味特性や目詰まり問題についても原理的に同様な結果になると言えます。
風味としては金属とネルの中間に当たる傾向ですが、特に使用の初期段階では、粗めのメッシュサイズと成分吸着力の強さが反映されたスッキリ目の味わいに仕上がりやすいという特徴があります。
長期使用後の目詰まり対策としては、陶器の耐熱性を活かし、オーブンなどで焼くことで詰まった成分を炭化させ砕けやすくしてから、水洗いして取り除くという方法があります。
セラミックスフィルターの魔法は子供だまし?
セラミックス製フィルターには、コーヒー用途以外にも水質浄化や土質改良など、その多孔質構造から生まれる濾過性能を利用した様々な製品があります。
その中には、「遠赤外線効果」や「水活性化効果」といった感じの、一見もっともらしい風味や健康に対する特殊効果を謳ったものが散見されますが、それらについては、原理もその効果による風味変化も当店には確かめられなかったのでお答え出来ません。
余談:
そんな効果は物理的に存在しないので分からなくて当たり前なのですが…。
大げさな表現やプラシーボ効果と水に流せる程度の可愛らしい事例は、氷山の一角に過ぎません。
現実としては、いくら突っ込んでも「いたちごっこ」になるだけと(個人的な経験上も)言えるほど、コーヒー業界とも親和性が高く、計り知れないほどの市場価値を持っているのが疑似科学やスピリチュアルマーケティングの世界なので、深入りするつもりはありません。
それらは、ある程度の知識や経験を持っていることを逆手に取った手法なので、「大人だまし」と言う方が的確ではないかと思います。
不織布
繊維をランダムに絡ませてシート状にしたもの
材質:コーヒー用としてはポリプロピレン・ポリエチレンなどの石油由来の化学繊維が多い
用途:ドリップバッグや個包装型水出しパックのフィルターとして使われることが多い
- 【メッシュ:細 → 時間:長 → 濃いめ】
- 【厚み:中 → 時間:中 → ほどほど】
- 【微粉・繊維質量:少 → 軽め(クリーン)】
- 【オイル量:中 → ほどほど】
一本一本の繊維素材自体の吸着性が低く、メッシュは細かめながらも若干成分が通り抜けやすい。
そのため、同等のメッシュサイズと厚みを持つペーパーと比べた場合のろ過速度はやや速くなる。
また、無味無臭で水溶性はないので食品向けの素材としての安全性、熱圧着出来るなどの加工性や強度といった面に優れる。
成分の中でも粒子サイズの大きい繊維質やコーヒーオイルの透過性を考慮して、部分的に大きめのメッシュ加工が施されたものもある。
そのようなタイプはペーパーと金属フィルターの中間ほどの風味傾向を示し、コクとクリーンさが両立したまろやかな口当たりに仕上がることから味わいにおいておススメ。
生地自体は高性能ながらも、不織布製のフィルターや使い捨てドリップバッグという商品となると割高感が強いことや、素材が化学繊維であるという点も、日用に向くペーパーの代替とまではなりにくい理由かもしれません。
混成タイプ ‐ 高機能性フィルター「Sibarist」とは?
ペーパーと不織布のハイブリッド
ブリュワーズカップというコーヒー抽出の世界大会があり、そのチャンピオンと工業デザイナーがコラボ開発したということで注目を集める特殊なフィルターがあります。
「Sibalist」という製品の何が特殊かというと、ペーパー(セルロース)と不織布(化学繊維)の混成生地によって製作されているという点です。
混成割合やメッシュサイズ、厚みといった仕様には、いくつかのバリエーションがあるようですが、抽出過程に現れる大きな特徴が、ろ過速度(流出速度)がペーパーに比べて速いことです。
それぞれの特徴については先述の通りなので、ここまでご覧頂いた方ならば、それが「誰にとっても美味しくなる」という意味ではないことも、「なぜそういう結果になるか」という関係についてもすんなりご理解頂けるのではないかと思います。
上記のブランド的価値や使った結果どうなるといった解説はメディア上で散見されると思いますが、製品の特徴が生まれる理由やその製作プロセスに着目されるケースはあまりありません。
また、この記事では豆の焙煎度による濾過能力への影響にまでは触れていないので、補足として、それとの関係性に踏み込んだ解説を加えて行こうと思います。
現在の世界では、コーヒーの風味評価は浅煎り豆(Light roast)を基準に置いて行われています。※国際的なカッピングルールの一つとして定められているため
浅煎りコーヒーを中心に置いた視点で捉えないと、このフィルターの製作目的や存在意義、議論の内容は分かりづらいところがあると思います。
浅煎り豆は深煎り豆に比べて繊維の密度が高いため、比重が高く(水に沈みやすく)、吸水性が低い(成分が溶け出しにくい)という性質があります。
浅煎り粉粒子の成分溶解曲線や挙動といった抽出過程での特徴に対して、それをコントロールしようとする抽出者の意図が合わさることで、次のような事態が連鎖的に発生しやすくなります。
- 成分溶解量(収率)を上げるために挽目を細くする
- 同様の目的でスラリーに撹拌を加える
- スラリー内で、沈降速度が速い細かい粒子が率先してフィルター内面を埋め尽くし、目詰まりを引き起こす
- ろ過速度が急激に低下して、抽出後半にかけての抽出時間が長くなる
- 意図した収率より上がってしまうため、強い苦味や渋味を伴う過抽出傾向の風味に仕上がる
一般的に、浅煎りでは深煎りに比べて目詰まりの影響が大きくなるため、一連の現象が引き起こす問題への対処を取り入れた抽出方法が求められます。
そのような対処を不慣れな方にまで求める事自体が、そもそもおかしな話ではあるのですが、そのような無理を通そうとした結果が、サードウェーブの名のもとに国外資本のコーヒー店が一気に業界を席巻しようとしていた時期の混乱です。
ようやく、抽出技術からではなく、フィルターの濾過性能という根本的な原因に着目した解決策を提示する製品が登場して来たというのが、このようなタイプの製品についてのおおまかな背景ではないかと思います。
細めの挽目や微粉を含む、あるいは水に沈みやすいといった粉の状態でも、短時間で目的の抽出量と濃度に到達させるというレシピが可能になるため、そのコーヒーからは豊かなボディーとクリーンさが両立した風味を楽しめるようになります。
対面効果としては、国内のペーパ一ドリップで一般的な中深煎り、中粗挽き程度の粉をそのまま用いると未抽出傾向になりやすい、という点に注意が必要になるので、事前に製品の傾向や意図を理解しておくことが本領を発揮させる近道になります。
使い捨てフィルターとしては価格が高過ぎるとも思いますが、ご興味ある方は一度お試し下さい。
ネルとのハイブリッドタイプ
このタイプは、日本ではネル文化が発展した経緯があるためか、かなり昔から販売されています。
私の知る限りでは、セルロース(あるいは不織布)とコットンの混成生地があり、個人的に使用した経験のあるごく一部の製品についての感想としては、若干ネルっぽいコクが増すかな、という印象です。
やはり、こちらのタイプも価格との折り合い問題が難点かもしれません。
おそらくですが、今後も意欲的な製品開発の中で、様々な混成フィルターが登場して来ることと思います。
そのような製品に出会った際は、制作者の意図と仕様に着目してみると面白い発見があるのではないかと思います。
ドリップバッグの特徴と種類
ドリップバッグとは、透過式抽出の利便性の向上を目的として、不織布製のフィルター兼用の袋に1杯分の粉を詰めたものと、厚紙製の折りたたみドリッパーを一体化させたもの。
昔から一般的に使われて来たタイプは、フィルターの形状が箱型のため、底面積が大きく上からの水流は四つ角に分散することになる。
また、粉量は10g弱と少な目であることも相まって、通常の器具を使った抽出と比べて成分を十分に溶け出させることが難しく、風味が軽めになりやすい仕様となっている。
仕様から生まれるデメリットを補うため、抽出初期は透過式プロセスながら、中盤からはカップに貯まって来る抽出液にフィルターごと粉が浸かる浸漬式プロセスに移行することで、注水方法を意識せずとも未抽出傾向になり過ぎないように工夫が施された独特な方式となっている。(元祖ハイブリッド式)
近年は、粉量を増やして上置き型(カップオンタイプ)とし、より透過式を忠実に再現したタイプや、フィルター形状を円錐型としたタイプなども登場しているが、使い勝手の面や価格が割高といった理由から一部の愛好家向けとなっている。
※当店のドリップバッグではこのタイプの上置き型を採用(手製作する時間がないため販売休止中)