コーヒーの抽出ってどういうこと?
コーヒー抽出工程の基本的な目的は、「コーヒー豆の持っている風味成分をどれくらい水に溶け出させるのか」という濃度調整です。
ここで、「おいしさを最大限引き出す~」とか、「極上の味わいを~」などといった抽象的で曖昧な表現が思い浮かんだ方は、それらが抽出の目的、あるいは自分以外の方にも提供する飲み物の目的として本当にふさわしいかどうか、改めて考えてみてください。
「何のため?」というゴールが曖昧なままだと、どこからスタートすれば良いかも、どの道を通れば良いのかも定まらないので、ことあるごとに右往左往しているうちに、コーヒーの迷い道や落とし穴(いわゆる沼)にはまって行くことになります。
思い通りのコーヒーがゴールだとした場合、まずはその形を明確に思い描くことで、そこまでのスタート地点と近道というルートが見付けやすくなります。
ただ、具体的な抽出工程についての解説を聞くだけでは身に付きにくいと思いますので、最低限として持っておいた方が良い予備知識や考え方からご紹介して行きます。
前置きが少し長くなりますので、不要と思われる方は、目次の「抽出工程とポイント調整」項までスキップして下さい。
抽出の仕組みから捉え直してみる
コーヒー用の抽出器具にとって第一の目的は、その芳醇なエキスを取り出すために、焙煎豆を細かく挽いた粉から「コーヒー水溶液(抽出液)」を作ることです。
まず、ドリッパーやサーバーなどの容器内でコーヒー粉と水を混ぜ合わせて、コーヒーの成分を水に溶かします。
水に溶けないコーヒー粉が混ざったままでは飲みにくいので、次のような方法で水溶液から粉を分離するのが一般的です。
透過式(とうかしき):ペーパーフィルターなどのろ材を通する濾過(ろか)という分離方法を用い、水溶液からコーヒー粉を取り除く仕組み。
浸漬式:(しんししき):粉が沈むのを待って液体と分離する沈殿法を用い、上澄みを取る仕組み。
このような分離方法の違いによっても抽出過程には違いが生まれるので、水に溶け出す成分にも変化が現れます。いわゆる「淹れ方で味が変わる」の大きな理由の一つです。
コーヒー豆には数百から千を超える多種多様な成分が含まれるとされていますが、それら一つ一つを選別したり、あるいは加工したりすることで風味をコントロールするような、複雑な調理が抽出の目的ではありません。
初心者の場合、「すごい技を駆使する調理」、コーヒー通の場合、「細部まで神経を研ぎ澄ませて風味を創造するもの」といったように思われている方もいらっしゃるかもしれません。
では、次のような視点で器具類や工程を見直してもらったとしたら、果たしてどうでしょうか?
- 膨大な数と種類の成分について、化学的な選別と分離を可能とする構造や過程はどこに存在するのか?
この問いに対する明確な答えを見い出せないのであれば、「分子レベルの緻密な制御は不可能なくらい簡易的な仕組み」を認めない正当な理由もないはずです。
コーヒー豆や抽出液に含まれる成分についての研究は、分析技術の高度化に伴って日々発展していますが、そのような最先端の技術を持ってしても、焙煎や抽出工程中の多岐に渡る物理現象には未解明な部分が多々残されています。
そして、コーヒー業界では、世界的なプロフェッショナルや一流と呼ばれる人たちの間でさえ、ご家庭をはじめ一般的な層まで広く普及している道具や理論が用いられています。
そのような人たちの手法や考え方についても様々な場を通じて公開されていますが、「抽出に関わる基本的なポイントを理解した上で、コーヒー粉から取り出す成分を調整する」という本質部分は共通です。
何が違うのかと言えば、分子レベルとは行かないまでも、どのような種類の成分をどのくらい取り出すかという調理を意図的にコントロールする「知識と技術(ノウハウ)」です。
果たして、これまでの歴史を通じた抽出の変遷をご覧頂いた上でも、次のような認識こそ正しい、という判断に至る方はどれほどいらっしゃるでしょうか?
- 抽出とは、非日常的な道具や技術、感覚を必要とされる高度な調理
どうしても、「こだわりの~」「究極の~」「奥深い~」といったコーヒーにまつわるキャッチコピーに私たちは魅了されやすいことから、実態と乖離したイメージが膨らんでしまうことと思います。
当店の実感としては、抽出に正面から向き合うほど、「特別な力でコーヒーがおいしくなる魔法は存在しない」と痛感するばかりです。
抽出を試みる際に最も大きな壁の正体が、幻想という名の認識の誤りであることに気付かない以上、先に進む道を自力で見つけることも、人から教わることも出来ません。
コーヒーの抽出とは、すでに科学的に明らかとなっている、いくつかの然るべきポイントに注意を傾けてもらえば、どなたでも身に付けられる調理方法の一つです。
基準は自分が感じるおいしさでいい
「自分にはコーヒーの違いが分からないから…」という、一部の人の認識に深く根を下してしまった問題についても、ここではそんなに重要なことではありません。
直接お客様からお話を伺うと、どんな方でも何かしらの風味の違いを感じ取られている場合がほとんどです。
それを誰かに伝えるという段階で、コーヒーには見た目に大きな違いがないことや、風味を表現する言葉遣いに慣れていないことが問題を少しややこしくしているだけです。
自分がおいしいと感じたかどうか分からない人はそうそういないと思いますので、気にせずやってみましょう。
抽出前に確認しておきたいこと
風味の素になる主要な成分は、「生豆」と「焙煎」の段階ですでに決まっています。
コーヒーを作る工程での上流を生豆とすると、それは「栽培」と「精製」の段階で決まっています。
そして、私たちがコーヒーとして飲めるようにする下準備として行う「焙煎」と「製粉(挽き目)」が中流に当たります。
風味への影響度から考えれば、そこまでの品質の方が優先事項となります。
最も下流に当たる「抽出」だけに心血を注いでも、すでに上流、中流で決まっている方向性を大きく変えることは出来ません。
例えば、「いがいがしい苦み・とげとげしい酸味・甘味が感じられない・香りが感じられない」といった味わいを楽しむ飲み物としての魅力に大きく欠ける場合は、抽出以前の品質に原因がある可能性が高いです。
抽出による調整で、「風味の素からどの辺りを引き出すのか」という取捨選択は出来るとしても、それだけでは根本的な解決にはならない場合もある(実感としてはそちらの場合の方が多い)ということです。
さらに、豆・粉のマイナス要素を隠すため抽出に毎回大きな調整を施すことは、余計な労力がかさむ上に、偶発的で限定的な状況でしか通用しない偏った方法論に陥りやすくなるという懸念にもつながります。
また、上で述べたような認識の誤りに関する注意点として、成分抽出に影響を与える要因と、作業や道具、空間といった要因から生まれる実際には影響しない演出的な要因を切り分ける習慣も必要になると思います。
当店は自然の中で五感を通じて楽しんで頂くという、まさにコーヒー以外も含めた総体的な感覚を大事にしているお店です。
それが意図的かどうかや個々人が明確に認識しているかどうかは別として、「感じ方は様々な要素の影響によって変わる」という前提の上にお店のサービスというものは成り立っています。
しかし、それはお作りしたコーヒーの成分や品質とは直接関係のない独立した要素です。
抽出に出来ることと出来ないことを把握し、抽出前には以下を確認することから始めるようにしましょう。
・豆・粉がどのような状態か
・器具類はじめ抽出環境が適切に保たれているか
抽出の基本ポイント【分量・温度・時間】
コーヒーの抽出液は「粉と水」だけから作られ、その99%ほどは水分です。
例えば、ペーパードリップで12gの粉から150gのコーヒーを作ったとして、そのうち粉から溶け出している成分の量はだいたい2gほどになります(水:98.5% + 成分濃度:1.5%)。
抽出を「粉から水に成分を溶かし出す過程」という最もシンプルな形で捉えれば、そこに大きく影響するポイントはたった3つ【分量】【温度】【時間】になります。
ここでも「え?それだけなの?」とか「いちいち計らないといけないの?」と思われる方はいらっしゃると思いますが、どんな豆、器具、人、場所であっても自然の物理的な原理を無視して思い通りのコーヒーを生み出せる魔法は人のイメージの中にしか存在しないので、残念ながら地に足の着いたノウハウを持って臨む以外にありません。
調理を組み立てる順序は、素材に次いで指針(基本ポイント)が決定され、その次に、どのようにしてそれに沿うようにサポートするかという調理方法や器具が決まります。
この優先順位が入れ替わってしまうこと、言わゆる本末転倒が人の思考では起こりやすいことにこそ混乱を招く元凶があります。
指針(基本ポイント)に則って豆、器具、人、場所を活用することを『調理』と捉えると、もし、それらが驚くほどの洗練に到達出来たとしたら「魔法と見分けがつかない」と言える日も来るのかもしれません。
はじめは地道に、それら基本ポイントの関係(バランス)を理解するために、同じ豆・粉と器具だけを使って繰り返しドリップを調整することで、安定して近い風味を再現出来る技術を身に着けましょう。
自分のイメージや感覚や思い込みと実際に起こっていることの間にあるズレを認識し修正出来ている状態が、ご自身で様々なドリップを比較するための最低限の基準となります。
慣れないうちは少し面倒ですが、次第に当たり前で簡単なことに思えて来るはずです。
「淹れる度に、もしくは淹れる人で味が変わるなあ」と感じる方とそうでない方の違いは、この知識と経験があるかないかで生まれます。
ある程度、大まかな傾向がつかめるようになってから「豆による違い」「器具による違い」という段階に分けて理解を進めていくと、何がどう違うのかで混乱することなく自然と応用の幅も広がって行くと思います。
※何かを比較する場合は、前提条件と測定基準が揃っているかを確認しましょう。
※「コーヒーを淹れるだけのことなのに大げさな表現だな」と感じられることもあるでしょうが、自戒を含めて心理的な要因に踏み込むことなくこの問題の根本的な解決はないと考えています。
※関連記事:外でちゃんと淹れられるの? – 当店の特色 –
「カッピング」と「テイスティング」の違いは?
カッピングとは
コーヒーの風味について評価する方法で、スペシャルティーコーヒー協会(またはCOE)が策定する規格に則って行われるものです。
出来るだけ統一された条件の素材・焙煎・製粉・抽出を用いた上で風味の構成要素(五味、香り、口当たりなど)を評価し、指標化されます。
同時に多人数で行ない情報を共有することで客観性を高めることが出来ます。
※詳細は以下ををご参照下さい。
SCA : Protocols & Best Practices
※販売店等で行う個別のチェックでは、いくつかの焙煎プロファイルや焙煎度の豆を用いて比較検討されたりもします。
テイスティングとは
それ以外を表す適当な用語が見当たらないのですが、「カッピング」と以下の行為は切り分けて捉えないと混乱の元になるため、ここでは「テイスティング」と呼ぶこととして使い分けたいと思います。
カッピング以外の抽出方式を経たコーヒー液についての評価においては、風味に特定の傾向を与える各々の豆・粉・器具・手法に合わせた基準や比較方法の策定が求められる。
日常的に話題に上がるのは後者のテイスティングに関する事柄であり、その大半は、あくまで各々の主観的な評価の一つに過ぎないということを意味します。
当店でも取り扱っているような「スペシャルティーグレード」に当たる上位ランクの生豆については、生産や輸出入を専門とする団体・組織ごとに有資格者による「カッピング」が行われています。
それは、「官能評価という方式でいかに客観性を担保するのか?」という問題に対して、世界共通の方法として策定が進められて来たものですが、そこで用いられる手順は至ってシンプルです。
「カップに粉と湯を注いで待つ」
抽出までのプロセスにルールがいろいろあることはありますが、抽出に当たってはドリッパーもフィルターも高品質な道具も熟練の技も一切必要としません。
重要なのは仕様に定められたポイントを守ることだけです。
「カッピング」で目的としているのは「正確さ」を求めるということであり、無関係な要素や変動要因を排除したり整理したりすることで浮かび上がる普遍性を求めるということでもあります。
このような目的の場合は、「世界最高の完璧なドリップこそが世界基準としてふさわしいのか?」と言われると、そうではありません。
逆に、物理的には存在しない「世界」「最高」「完璧」といった架空の物や概念を含み、抽出に作為性や個性が施された特別さ(付加価値)を極力排除しなければ、全ての人にとって共通の基準としては成立しないということです。
おうちや趣味で楽しむのに、そこまでの厳密さが求められることはまずないことですし、いろいろな道具やシチュエーションの組み合わせを自由に選べる面白さがあってこそというものですが、それは必然的に混沌とした状況を生み出す原因として表裏一体です。
誤解のないように付け加えると、考え方や方法について、どちらが良い悪いという話ではありません。
ここで解説する内容は後者の「テイスティング」における基本的なプロセスに当たります。
意図的に風味に特定の傾向を与えて調整する方法。
それを用いて抽出したコーヒーについて、「自身のお好みに合うかどうか?という基準」で評価してもらう方法について整理しています。
本来ならば、豆が違う、粉の状態が違う、そして器具や機種、それに伴う抽出方式や条件まで違った上で出来上がったものについては、各ケースの結果に影響を与えた変動要因が多過ぎるので、それらを正当に比較すること自体が出来ません。
単にそれぞれ別のドリップやコーヒーとして捉えるしかないものです。
しかしながら、それらを無理矢理に良い悪いの一列に並べて比べようとしている事例で溢れているのが現状です。
このような混沌とした状況を目の当たりにして途方に暮れてしまう方が絶えないというのもまた当然の事態なので、「カッピング」とは行かないまでも、出来るだけ混乱を避けるといった程度の目的に沿って共通化された基準があっても良いのではと思います。
それによって、ある程度の客観的な結果が得られるようになれば、その積み重ねが着実にゴールへ導いてくれると思います。
誰もが気軽に行いやすい「テイスティング」が、多くのコーヒー好きの方やご興味を持ち始めた方の求めているものの一つではないかと思います。
また、このような評価に当たっては「正確さ」より「楽しさ」を優先してもらう方が良いと思います。
基本ポイントに慣れて来たら他の好きなポイント、例えば器具のデザインや使い勝手なども加えたりしてご自身の楽しみ方を広げてもらえたらと思います。
ちなみに世界的なドリップ系の大会で評価の対象となるのは、コーヒーの風味や抽出技術だけではなく、コンセプト(企画力)やプレゼンテーション(表現力)、レギュレーションに忠実であること(順応性)を含めた、ご提供するお客様に向けたサービスとしての総合力です。
また、生豆や焙煎に関する評価を決める大会は、専門の有資格者によってそれぞれ別に行われています。
このような事実についても、コーヒーやドリップを学ぶ道のりで迷わないための予備知識として持っておくと良いかもしれません。
冒頭に「ドリップはそこまで厳密ではない」と書きましたが、厳密さにも段階があります。なんでもありの大雑把さから分子・原子レベルの精緻さまで。
今のところドリップで求めることが可能な厳密さは、日常的な感覚の範囲から大きく外れるようなものではないという意味です。
その基準は、ご自身のコーヒーとの向き合い方によって違って良いですし、作っても良いと思います。
よくある失敗と対処法
- 品質があまり良くないか劣化した状態の粉を使っている
→ 関連記事:コーヒー豆・粉の選び方は?
- 風味について影響度が低いポイントに気を取られている
→ まずは最も影響度の高い基本ポイントに着目する
- 粉の量が一定でない
→ 計りを使う。お使いのコーヒーメジャーの容量を確認する
※豆の種類や、豆のままか粉かでも重さは変わります
- 温度が不安定
→ 温度計で確認する。ドリップポット、ドリッパー、サーバーなど器具全体を予熱、保温する
とても変化しやすく、感覚や思い込みによるズレが大きくなりやすいポイントです
- 時間が一定でない
→ 時間を計る。注ぐときの湯量とペースを大きく変えない
注水ごとの湯量やペースの調整は微調整なので、その効果を学んでからでも十分です
- 1杯分が最も難しい
→ 計測・器具の扱いが比較的シビアかつ短時間に手順をこなす必要があることから、余裕のある2杯分以上の方が淹れやすいです。基本的に器具類は杯数分に合わせて扱いやすくなるよう作られています
- お使いのコーヒー粉や器具類の特徴がお好みと合っていない
→【抽出】【挽き目】【焙煎】【生豆】の順に各段階をさかのぼってお好みに合っているかを確かめ、それでもダメという時点で器具を変えると原因が分かりやすくなります
最低限あると便利な道具
- ドリップポット
- 計り、熱湯用温度計、タイマー
- 容量メモリ付きサーバー
現在市販されているコーヒー用の器具であれば、よほど特殊なものや欠陥品でない限り、値段やメーカーに関わらず機能的には十分こと足りるものばかりです。
ペーパーフィルターの場合は「漂白タイプ(白)」を使うことをおススメします。嫌な紙臭さがないものが多いためで、最近の物は「酸素漂白」されているので無害です。
抽出工程とポイント調整
ハンドドリップ(透過式)の抽出例
【】内の値と風味傾向を目安として、お好みで調整してみましょう
【器具類:HARIO V60 ペーパーフィルター】
【焙煎度:5(中深・シティー) 浅い⇒軽め 深い⇒濃いめ】
【挽き目:5(中粗挽き) 粗い⇒軽め 細かい⇒濃いめ】
1:お湯で器具全体を予熱してからフィルターと粉をドリッパーにセットする
【粉量:1杯分13g 少ない⇒軽め 多い⇒濃いめ】
- 工程1.2.5でサーバーやドリッパーに貯まったお湯や濃度の低い抽出液は、余り部分と考え思い切って捨てましょう
2:1投目はお湯を粉全体に染み渡らせるように注水します
【温度:90℃ 低い⇒軽め 高い⇒濃いめ】
【蒸らし時間:30秒 短い⇒軽め 長い⇒濃いめ】
- お湯で粉をほぐし成分を溶け出しやすくする工程
- 見えない部分までしっかり行き渡らせましょう
3:2で膨らんだ粉全体が十分浸る程度に注水します
【注水量:一投につき50g 多い⇒軽め 少ない⇒濃いめ】
- 2投目からの工程前半でコーヒーらしい風味成分の大半が溶け出します
- 1投ごとの注水量とペース配分が抽出時間に反映されます
4:3がサーバーに落ちるまでを数回繰り返します
【抽出量:1杯200g 多い⇒軽め 少ない⇒濃いめ】
5:サーバー内のコーヒーが目的の抽出量になったらドリッパーを外します
【工程2~5までの時間:2分 短い⇒軽め 長い⇒濃いめ】
【濃度:1.3% 低い⇒軽め 高い⇒濃いめ】
- 抽出されたコーヒー全体をかき混ぜて出来上がりです
- 抽出時間や濃さが大きくズレてしまう場合は【挽き目】を調整してみましょう
ポイント調整と風味の関係

同じ粉でも、抽出工程によって図のように風味傾向が変化します。各ポイントの組み合わせ方を変えてお好みを探してみましょう。
スキルアップのために
- 正確に比較して行くために、基本ポイント+豆+器具+感想などの情報をまとめて記録した抽出レシピを作ってみましょう
- レシピ調整による風味の違いを比べる際は、ポイントのどこか1つだけを変える
例えば、工程1の湯温ポイントを変えるとしたら、他は比較前と全く同じにします。そうしないと、風味の差を感じた場合の原因が本当に湯温なのかどうかが判断出来ないからです。少し極端なくらい変える方が違いと傾向が分かりやすくなります
- コーヒーは飲んだ時の温度でも風味の印象が変わります。舌と鼻の感覚には風味ごとに感じ取りやすい温度帯があるためなので、熱い状態~冷たい状態まで確認してみましょう
【分量】を調整する際の注意点
上記の工程表では1杯分の抽出例を挙げていますが、杯数を2杯分、3杯分と増やしたい場合もあると思います。
その際に起こりやすい問題として、それぞれの濃さ(濃度)がバラバラになってしまうことで異なる印象を受ける、という事態があります。ある程度の数やパターンをこなして行くうちに、多くの方がご経験されることと思います。
その原因はいくつかありますが、最も影響が大きいのは「透過式では粉量や抽出量といった【分量】の変化に連動して【時間】が自ずと変化してしまうこと」です。
一般的な対処方法は、粉量をはじめ抽出条件を変えた場合は、改めて新しい抽出レシピ作るというものです。抽出条件を変えることが少ない方は、そのように着実に1つ1つ対処する方法が良いと思います。
この問題についての詳細や少し高度な対処方法について知りたい方は、下記の関連記事をご参照下さい。
ハンドリップ用レシピ生成&ガイドアプリ
当店開発の抽出最適化アプリをご利用頂けます。
各ケースに合わせた抽出レシピ生成のみでなく、全体の実行プランを最後までサポートするガイド機能を搭載しています。
※注
以下のアプリでは、杯数(分量)変更時の濃度変化を抑制することで幅広いケースに対応したレシピを生成する、という目的に合わせて初期値が設定されています。
目標濃度がやや濃い目、抽出時間が長めといった所でレシピの値が若干異なるため、お好みによって調整して下さい。
ドリップに「一番良い」はない
抽出はポイント全体のバランスで成り立っており、1つのポイントの細かい違いだけで風味がガラリと変わる、といったようなことは原理的に起こりません。
言い換えると、風味への影響度が高い要因の値を抽出ごとに安定させることが出来れば、どなたでもどこでも再現出来るということです。
「お湯は~℃、蒸らしは何秒、粉は何グラム、糸のように注ぐ、のの字を書く、落とし切る?切らない?」といったような、よく耳にするワンポイントアドバイスやTips的な情報は、全体像からすればほんの一部分に過ぎません。
それらの値や手法は、作りたいコーヒーやご使用の器具類、豆、粉などの状態に合わせて変えて良いものたちです。
抽出を仕組みから学んで行くと、むしろ変わらない方がおかしい、ということが分かるようになります。
大事なのは値や手法を変えると風味にどんな違いが現れるのかという関係性を理解することであって、こうでなければならない、これが一番、こうすれば必ず美味しくなる、といった、どこの誰にも通じるような決まった答えはありません。(あるかのように言う人がいるだけです。)
答えがないこともあると認めることが、「自分にとっての一番良い」を探す道のりのスタート地点になります。
あまり難しく考えず、「ドリップは好きなようにやる」くらいの気持ちでお楽しみ頂けたらと思います。