ドリップって一体何してるの?
ドリップ(抽出)の基本的な目的は、コーヒー粉の持っている風味成分を注いだ水にどれくらい溶かし出すのか、という濃度調整です。
「何をするための調理なの?」というスタート地点があやふやなままだと、ことあるごとに右往左往してしまうために迷い道や落とし穴(いわゆる沼)にはまりやすくなります。
まずはそこをはっきりさせることが、「自分の好きなコーヒーを作る」というゴールまでの確かな近道になります。
その理由について説明すると、予備知識としてコーヒー業界の背景に触れる必要があるために前置きが少し長くなりますので、不要な方は下記の「ドリップ工程とポイント調整の効果」項までスキップしてご覧下さい。
抽出の仕組みから捉えてみる
コーヒー用の抽出器具にとって第一の目的は、その芳醇なエキスを取り出すために、焙煎豆を細かく挽いた粉から「コーヒー水溶液(抽出液)」を作ることです。
そして、その水溶液から細かいコーヒー粉だけを取り除くことによって飲みやすくするために、簡易な濾過機能を備えるものが一般的となっています。
コーヒー豆には数百から千を超える風味の素となる成分が含まれるとされていますが、それらを濾過抽出するに当たっては、その一つ一つについて選別したり、あるいは変化させたりすることで、細部に渡って抽出液の風味をコントロールするような複雑な調理までを目的とするものではありません。
そのように聞くと、初心者の方の中には「なんとなく何かすごいことしてる気がしてた」とか、コーヒー通の方の中には「経験が足りない、考えが浅い」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、「巣溶液中に含まれる膨大な数と種類の分子・イオンについての化学的な選別を可能とする構造や工程はどこに存在するのか?」という視点で器具類や調理工程について改めて見直してもらえば、「そんな緻密な制御は不可能なほどに簡易な仕組み」を認めて頂けるのではないかと思います。
コーヒー豆や抽出液に含まれる成分についての研究は、ここ数十年の間に分析技術の高度化に伴って日々発展していますが、焙煎や抽出工程中に起こっている複雑多岐な物理現象には未解明の部分が多々残されています。
風味を楽しむ日用品を提供することを主とするコーヒービジネスにおいて、商品についての科学的な側面への理解は必要不可欠の要素には当たらず、もっと人肌に近い要素の方が購買動機につながりやすいことから、消費者はもとより業界内の供給者側に至るまで、その周知が進むほどの強いインセンティブは働きません。
それが、過去から現在まで一貫して変わらない状況と率直に思います。
コーヒー業界では、世界的なプロフェッショナルや一流と呼ばれる人たちの間でさえ当然のように、一般的な層にも広く普及している道具や理論が用いられています。
その手法についても様々な場で公開されていますが、それらの事例においても本質的に示されていることは、「抽出に関わる基本的なポイントを理解した上で、成分全体から取り出す部分を意図的に決定するための手段」という、言われてみれば当然とも受け取れる内容です。
果たして、ドリップにまつわる過去からこれまでの数多の事例と変遷を一通りご覧頂いた上でも、「ドリップとは日常からかけ離れた特別な道具や技術、感覚を必要とする高度で難解な調理である」という認識こそが正しいと判断する方がどれほどいらっしゃることでしょうか?
どうしても、「こだわりの~」「極上の~」「奥深い~」といったコーヒーにまつわるキャッチコピー、および、「豆や器具類、手法、個人の特別さ」をアピールするための付加価値に私たちは魅了されやすいことから、実態と乖離したイメージだけを膨らませてしまうことは避け難いとも思います。
しかし、当店の実感においては、ドリップという調理に正面から向き合うほどに「特別な何かが現れてコーヒーをおいしくしてくれる魔法(※ユニコーン)は存在しない」と痛感することばかりです。
そして同時に、ドリップは私たちの暮らしに自然と溶け込むほど身近なものであるということも。
ご家庭で、あるいはご自身でドリップを行おうとする時に最も大きな障壁となるのは、事実に即していないイメージ(ここでは幻想という意味)を作り出す認識の壁ではないかと思います。
コーヒーのドリップは、素材から成分を取り出すためのごく自然な仕組みと、科学的にすでに明らかとなっている然るべきポイントに注意を傾けてさえもらえれば、どなたでも自分のお好みに合わせて調整することが出来る範囲の技術です。
※完璧な存在という空想や伝説に惑わされる人々の行動へ向けた自嘲を込めた皮肉表現。国外の業界話でたまに見かけるジョークの一つ。
基準は自分が感じるおいしさでいい
「自分にはコーヒーの違いが分からないから…」という、一部の人の認識に根を深く下してしまった問題についても、ここではそんなに重要なことではありません。
直接お客様からお話を伺うと、どんな方でもどこかしらに風味の差を感じられている場合がほとんどです。
それを誰かに伝えるという段階において、コーヒーには見た目に大きな違いがないことや、風味を表現する言葉遣いに慣れていないことが問題を少しややこしくしているだけです。
自分がおいしいと感じたかどうか分からない人はそうそういないと思いますので、気にせずやってみましょう。
ドリップ前に確認しておきたいこと
風味の核心となる成分は【生豆】と【焙煎】までの段階ですでに決まっています。
次に、それらの成分の「溶け出しやすさ」を決めるのが粉の【挽き目】です。
コーヒーを作る工程で最も上流にある【生豆】は生産、精製によって決まります。
そして、私たちがコーヒーとして飲めるようにするための下準備としての【焙煎】【挽き目】が中流域に当たります。
まずはそこまでの品質が、風味への影響度の高さから見た場合の優先事項となります。
最も下流に当たる【抽出(ドリップ)】だけに心血を注いでも、上流側ですでにで決まった方向性を大きく変えるようなことは出来ません。
例えば、「いがいがしい苦み・とげとげしい酸味・甘味が感じられない・香りが感じられない」といった味わいを楽しむ飲み物としての魅力に大きく欠ける場合は、ドリップ以前の品質にも原因がある可能性が高いです。
ドリップによる調整で風味のどの辺りを目立たせるか目立たせないか、という選択はある程度出来るとしても、それだけでは根本的な解決にはならない場合もある(実感としてはそちらの場合の方が多い)ということです。
さらに、豆・粉のマイナス要素を隠すためにドリップに毎回大きな調整を加えるようなことは、余計な労力がかさむ上に、偶発的で限定的な状況でしか通用しない偏った方法論に陥りやすくなるという懸念にもつながります。
また、上で述べたような気付かないうちにもインプットされて来る様々な情報の扱い方に関する注意点として、ドリップにおいて成分抽出に影響を与える要因と、作業や道具、空間といった要因から生まれる実際には影響しない演出的な要因とは切り分けて捉える習慣も必要になると思います。
当店は自然の中で五感を通じて楽しんで頂くという、まさにコーヒー以外も含めた総体的な感覚を大事にしているお店です。
それが意図的かどうかや個々人が明確に認識しているかどうかは別として、「感じ方は様々な要素の影響によって変わる」という前提の上にお店のサービスというものは成り立っています。
しかし、それはお作りしたコーヒーの成分や品質とは直接関係のない独立した要素です。
ドリップで出来ることと出来ないことを把握し、ドリップ前には以下を確認することから始めるようにしましょう。
・豆・粉がどのような状態か
・器具類はじめ抽出環境が適切に保たれているか
ドリップ共通の基本ポイント【分量・温度・時間】
コーヒーの抽出液は「粉と水」だけから作られ、その99%ほどは水分です。
例えば、ペーパードリップで12gの粉から150gのコーヒーを作ったとして、そのうち粉から溶け出している成分の量はだいたい2gほどになります(水:98.5% + 成分濃度:1.5%)。
ドリップを「粉から水に成分を溶かし出す過程」という最もシンプルな形で捉えれば、そこに大きく影響するポイントはたった3つ【分量】【温度】【時間】になります。
ここでも「え?それだけなの?」とか「いちいち計らないといけないの?」と思われる方はいらっしゃると思いますが、どんな豆、器具、人、場所であっても自然の物理的な原理を無視して思い通りのコーヒーを生み出せる魔法は人のイメージの中にしか存在しないので、残念ながら地に足の着いた正攻法を持って臨む以外にありません。
調理を組み立てる順序は、素材に次いで指針(基本ポイント)が決定され、その次に、どのようにしてそれに沿うようにサポートするかという調理方法や器具が決まります。
この優先順位が入れ替わってしまうこと、言わゆる本末転倒が人の思考では起こりやすいことにこそ混乱を招く元凶があります。
指針(基本ポイント)に則って豆、器具、人、場所を活用することを『調理』と捉えると、もし、それらが驚くほどの洗練に到達出来たとしたら「魔法と見分けがつかない」と言える日も来るのかもしれません。
はじめは地道に、それら基本ポイントの関係(バランス)を理解するために、同じ豆・粉と器具だけを使って繰り返しドリップを調整することで、安定して近い風味を再現出来る技術を身に着けましょう。
自分のイメージや感覚や思い込みと実際に起こっていることの間にあるズレを認識し修正出来ている状態が、ご自身で様々なドリップを比較するための最低限の基準となります。
慣れないうちは少し面倒ですが、次第に当たり前で簡単なことに思えて来るはずです。
「淹れる度に、もしくは淹れる人で味が変わるなあ」と感じる方とそうでない方の違いは、この知識と経験があるかないかで生まれます。
ある程度、大まかな傾向がつかめるようになってから「豆による違い」「器具による違い」という段階に分けて理解を進めていくと、何がどう違うのかで混乱することなく自然と応用の幅も広がって行くと思います。
※何かを比較する場合は、前提条件と測定基準が揃っているかを確認しましょう。
※「コーヒーを淹れるだけのことなのに大げさな表現だな」と感じられることもあるでしょうが、自戒を含めて心理的な要因に踏み込むことなくこの問題の根本的な解決はないと考えています。
※関連記事:外でちゃんと淹れられるの? – 当店の特色 –
「カッピング」と「テイスティング」の違いは?
カッピングとは
コーヒーの風味について評価する方法で、スペシャルティーコーヒー協会(またはCOE)が策定する規格に則って行われるものです。
出来るだけ統一された条件の素材・焙煎・製粉・抽出を用いた上で風味の構成要素(五味、香り、口当たりなど)を評価し、指標化されます。
同時に多人数で行ない情報を共有することで客観性を高めることが出来ます。
※詳細は以下ををご参照下さい。
SCA : Protocols & Best Practices
※販売店等で行う個別のチェックでは、いくつかの焙煎プロファイルや焙煎度の豆を用いて比較検討されたりもします。
テイスティングとは
それ以外を表す適当な用語が見当たらないのですが、「カッピング」と以下の行為は切り分けて捉えないと混乱の元になるため、ここでは「テイスティング」と呼ぶこととして使い分けたいと思います。
カッピング以外の抽出方式を経たコーヒー液についての評価においては、風味に特定の傾向を与える各々の豆・粉・器具・手法に合わせた基準や比較方法の策定が求められる。
日常的に話題に上がるのは後者のテイスティングに関する事柄であり、その大半は、あくまで各々の主観的な評価の一つに過ぎないということを意味します。
当店でも取り扱っているような「スペシャルティーグレード」に当たる上位ランクの生豆については、生産や輸出入を専門とする団体・組織ごとに有資格者による「カッピング」が行われています。
それは、「官能評価という方式でいかに客観性を担保するのか?」という問題に対して、世界共通の方法として策定が進められて来たものですが、そこで用いられる手順は至ってシンプルです。
「カップに粉と湯を注いで待つ」
抽出までのプロセスにルールがいろいろあることはありますが、抽出に当たってはドリッパーもフィルターも高品質な道具も熟練の技も一切必要としません。
重要なのは仕様に定められたポイントを守ることだけです。
「カッピング」で目的としているのは「正確さ」を求めるということであり、無関係な要素や変動要因を排除したり整理したりすることで浮かび上がる普遍性を求めるということでもあります。
このような目的の場合は、「世界最高の完璧なドリップこそが世界基準としてふさわしいのか?」と言われると、そうではありません。
逆に、物理的には存在しない「世界」「最高」「完璧」といった架空の物や概念を含み、抽出に作為性や個性が施された特別さ(付加価値)を極力排除しなければ、全ての人にとって共通の基準としては成立しないということです。
おうちや趣味で楽しむのに、そこまでの厳密さが求められることはまずないことですし、いろいろな道具やシチュエーションの組み合わせを自由に選べる面白さがあってこそというものですが、それは必然的に混沌とした状況を生み出す原因として表裏一体です。
誤解のないように付け加えると、考え方や方法について、どちらが良い悪いという話ではありません。
ここで解説する内容は後者の「テイスティング」における基本的なプロセスに当たります。
意図的に風味に特定の傾向を与えて調整する方法。
それを用いて抽出したコーヒーについて、「自身のお好みに合うかどうか?という基準」で評価してもらう方法について整理しています。
本来ならば、豆が違う、粉の状態が違う、そして器具や機種、それに伴う抽出方式や条件まで違った上で出来上がったものについては、各ケースの結果に影響を与えた変動要因が多過ぎるので、それらを正当に比較すること自体が出来ません。
単にそれぞれ別のドリップやコーヒーとして捉えるしかないものです。
しかしながら、それらを無理矢理に良い悪いの一列に並べて比べようとしている事例で溢れているのが現状です。
このような混沌とした状況を目の当たりにして途方に暮れてしまう方が絶えないというのもまた当然の事態なので、「カッピング」とは行かないまでも、出来るだけ混乱を避けるといった程度の目的に沿って共通化された基準があっても良いのではと思います。
それによって、ある程度の客観的な結果が得られるようになれば、その積み重ねが着実にゴールへ導いてくれると思います。
誰もが気軽に行いやすい「テイスティング」が、多くのコーヒー好きの方やご興味を持ち始めた方の求めているものの一つではないかと思います。
また、このような評価に当たっては「正確さ」より「楽しさ」を優先してもらう方が良いと思います。
基本ポイントに慣れて来たら他の好きなポイント、例えば器具のデザインや使い勝手なども加えたりしてご自身の楽しみ方を広げてもらえたらと思います。
ちなみに世界的なドリップ系の大会で評価の対象となるのは、コーヒーの風味や抽出技術だけではなく、コンセプト(企画力)やプレゼンテーション(表現力)、レギュレーションに忠実であること(順応性)を含めた、ご提供するお客様に向けたサービスとしての総合力です。
また、生豆や焙煎に関する評価を決める大会は、専門の有資格者によってそれぞれ別に行われています。
このような事実についても、コーヒーやドリップを学ぶ道のりで迷わないための予備知識として持っておくと良いかもしれません。
冒頭に「ドリップはそこまで厳密ではない」と書きましたが、厳密さにも段階があります。なんでもありの大雑把さから分子・原子レベルの精緻さまで。
今のところドリップで求めることが可能な厳密さは、日常的な感覚の範囲から大きく外れるようなものではないという意味です。
その基準は、ご自身のコーヒーとの向き合い方によって違って良いですし、作っても良いと思います。
よくある失敗と対処法
- 品質があまり良くないか劣化した状態の粉を使っている
→ 関連記事:コーヒー豆・粉の選び方は?
- 風味について影響度が低いポイントに気を取られている
→ まずは最も影響度の高い基本ポイントに着目する
- 粉の量が一定でない
→ 計りを使う。お使いのコーヒーメジャーの容量を確認する
※豆の種類や、豆のままか粉かでも重さは変わります
- 温度が不安定
→ 温度計で確認する。ドリップポット、ドリッパー、サーバーなど器具全体を予熱、保温する
とても変化しやすく、感覚や思い込みによるズレが大きくなりやすいポイントです
- 時間が一定でない
→ 時間を計る。注ぐときの湯量とペースを大きく変えない
注水ごとの湯量やペースの調整は微調整なので、その効果を学んでからでも十分です
- 1杯分が最も難しい
→ 計測・器具の扱いが比較的シビアかつ短時間に手順をこなす必要があることから、余裕のある2杯分以上の方が淹れやすいです。基本的に器具類は杯数分に合わせて扱いやすくなるよう作られています
- お使いのコーヒー粉や器具類の特徴がお好みと合っていない
→【抽出】【挽き目】【焙煎】【生豆】の順に各段階をさかのぼってお好みに合っているかを確かめ、それでもダメという時点で器具を変えると原因が分かりやすくなります
最低限あると便利な道具
- ドリップポット
- 計り、熱湯用温度計、タイマー
- 容量メモリ付きサーバー
現在市販されているコーヒー用の器具であれば、よほど特殊なものや欠陥品でない限り、値段やメーカーに関わらず機能的には十分こと足りるものばかりです。
ペーパーフィルターの場合は「漂白タイプ(白)」を使うことをおススメします。嫌な紙臭さがないものが多いためで、最近の物は「酸素漂白」されているので無害です。
ドリップ工程とポイント調整の効果
ハンドドリップ型透過式の抽出例
【】内の値と風味傾向を目安として、お好みで調整してみましょう
【器具類:HARIO V60 ペーパーフィルター】
【焙煎度:5(中深・シティー) 浅い⇒軽め 深い⇒濃いめ】
【挽き目:5(中粗挽き) 粗い⇒軽め 細かい⇒濃いめ】
1:お湯で器具全体を予熱してからフィルターと粉をドリッパーにセットする
【粉量:1杯分12g 少ない⇒軽め 多い⇒濃いめ】
- 工程1.2.5でサーバーやドリッパーに貯まったお湯や濃度の低い抽出液は、余り部分と考え思い切って捨てましょう
2:1投目はお湯を粉全体に染み渡らせるように注水します
【温度:90℃ 低い⇒軽め 高い⇒濃いめ】
【蒸らし時間:30秒 短い⇒軽め 長い⇒濃いめ】
- お湯で粉をほぐし成分を溶け出しやすくする工程
- 見えない部分までしっかり行き渡らせましょう
3:2で膨らんだ粉全体が十分浸る程度に注水します
【注水量:一投につき50g 多い⇒軽め 少ない⇒濃いめ】
- 2投目からの工程前半でコーヒーらしい風味成分の大半が溶け出します
- 1投ごとの注水量とペース配分が抽出時間に反映されます
4:3がサーバーに落ちるまでを数回繰り返します
【抽出量:1杯150g 多い⇒軽め 少ない⇒濃いめ】
5:サーバー内のコーヒーが目的の抽出量になったらドリッパーを外します
【工程3~5までの時間1分30秒: 短い⇒軽め 長い⇒濃いめ】
【濃度:1.5% 低い⇒軽め 高い⇒濃いめ】
- 抽出されたコーヒー全体をかき混ぜて出来上がりです
- 抽出時間や濃度(感覚的な濃さでOK)が大きくズレる場合は【挽き目】を調整してみましょう
ポイント調整と風味の関係
同じ粉でも、抽出工程によって図のように風味傾向が変化します。各ポイントの組み合わせ方を変えてお好みを探してみましょう。
スキルアップのために
- 正確に比較して行くために、基本ポイント+豆+器具+感想などの情報をまとめて記録した抽出レシピを作ってみましょう
- レシピ調整による風味の違いを比べる際は、ポイントのどこか1つだけを変える
例えば、工程1の湯温ポイントを変えるとしたら、他は比較前と全く同じにします。そうしないと、風味の差を感じた場合の原因が本当に湯温なのかどうかが判断出来ないからです。少し極端なくらい変える方が違いと傾向が分かりやすくなります
- コーヒーは飲んだ時の温度でも風味の印象が変わります。舌と鼻の感覚には風味ごとに感じ取りやすい温度帯があるためなので、熱い状態~冷たい状態まで確認してみましょう
【分量】を調整する際の注意点
上記の工程表では1杯分の抽出例を挙げていますが、杯数を2杯分、3杯分と増やしたい場合もあると思います。
その際に起こりやすい問題として、それぞれの濃さ(濃度)がバラバラになってしまうことで異なる印象を受ける、という事態があります。ある程度の数やパターンをこなして行くうちに、多くの方がご経験されることと思います。
その原因はいくつかありますが、最も影響が大きいのは「透過式では粉量や抽出量といった【分量】の変化に連動して【時間】が自ずと変化してしまうこと」です。
一般的な対処方法は、粉量をはじめ抽出条件を変えた場合は、改めて新しい抽出レシピ作るというものです。抽出条件を変えることが少ない方は、そのように着実に1つ1つ対処する方法が良いと思います。
この問題についての詳細や少し高度な対処方法について知りたい方は、下記の関連記事をご参照下さい。
ドリップに「一番良い」はない
ドリップはポイント全体のバランスで成り立っており、1つのポイントの細かい違いだけが風味をガラリと変えてしまうようなことは起こりません。
言い換えれば、風味に関して影響度が高い要因について毎回近い状態で安定させることが出来れば、どなたでもどこでも再現出来るということです。
「お湯は~℃、蒸らしは何秒、糸のように注ぐ、のの字を書く、落とし切る?切らない?」といったような、よく耳にするアドバイスやTips的な情報は全体像から見るとほんの一部分のことに過ぎません。
そして、それらの要因は作りたいコーヒーやご使用の器具類、豆、粉の状態に合わせて変えて良いことであり、抽出の仕組みを知って行けば、むしろ変わらないと言う方がおかしなことだと分かるようになります。
大事なのは変えたら風味にどんな影響が現れるのかという関係性を理解することであって、どのポイントにもこうでなければならないとか、こうすれば誰にとっても必ず美味しくなるといった決まった答えはありません。
答えがないこともあると知ることが、ご自身にとっての「一番良い」を探す道のりのスタート地点です。
あまり難しく考えず「ドリップはお好みに合わせて調整するもの」といった気持ちでお楽しみ頂けたらと思います。