コーヒーライフの分岐点
コーヒーの風味の良し悪しには、粉に挽いてすぐにドリップする「挽き立て+淹れたて」という新鮮さが大きく影響します。
さらには、豆を挽いた瞬間にしか味わえない強く甘い香りも存分に楽しんで頂けるようになることから、コーヒーミル(別称:グラインダー)のご使用をおススメします。
ミルが作り出す【挽き目】は【生豆】【焙煎】【ドリップ(抽出)】と並ぶ重要さで、特に抽出液のクリアさや香り立ち、そして何より濃度に大きく影響するポイントです。
その性能差はドリップする過程と出来上がった風味にもしっかりと表れるので、ただ良い製品を使ってもらうだけでご自身で淹れるコーヒーをレベルアップさせてくれる道具です。
また、すでにミルをお使いの上で気を付けてドリップしているはずなのに、以下のようなご経験のある方は、その性能や挽き目の違いが原因として十分に考えられます。
- 同じ豆でもお店で飲んだのと全然違う!?
- 同じ豆でも毎回味が変わっちゃう!?
- 浅煎り豆を使うとおいしく出来ない!?
もし、お気に入りのお店がご近所やオンラインショップにあって高性能なミルで挽かれた新鮮なコーヒー粉がすぐに手に入る、そのような場合にはおうちで下手なミルを使うより良いと言えるほど風味に影響を与えるものです。
ご自身でコーヒーをより自由に幅広く楽しめるようになりたいというご希望をお持ちの方は多いと思います。
それを実現するためには、信頼性の高いミルが必需品です。
抽出の入り口は挽き目から
ご自身でコーヒーを淹れてみたいとなった時、「豆選び」の次に来るのが「豆を挽く」という工程になります。
挽き目の粗さ調整は、全ての抽出に共通する重要な役割を担っています。
はじめに挽き目調整の役割を理解しておくと、なぜ思い通りにならないのか分からずに苦労を重ねるコーヒーライフを送らずに済むようになります。
以下からは順を追って、その役割について解説して行きます。
挽き目と風味傾向の関係
【挽き目:粗い → 軽め 細かい → 濃いめ】
挽き目を変えると粉の平均的な粒子サイズが変わることは明らかですが、コーヒー抽出にとって重要なのは、同じ粉量でも粒子全体の表面積の合計が大きく変化することです。
粉に挽くと表面積が増えるとは、豆一粒を水に浸けた場合に水と直接触れる部分は豆の表面だけですが、それをバラバラに砕いた場合には、もともと豆の内側にあった多くの部分までが水に直接触れるようになるということです。
同じ抽出条件で比較すると、挽き目が細かい方がより早く多くの成分が溶け出すことで濃いコーヒー液に仕上がります。
挽き目と抽出方法の関係
方式や器具ごとに推奨される挽き目がある理由とは何なのでしょうか?
最終的なコーヒーの風味傾向とは、豆の個性という素材に由来する特徴だけでなく、「素材が持つ成分の引き出し方」としての焙煎や抽出方法に由来する特徴も段階的に積み重なった結果です。
そのようにして生まれたコーヒーの風味傾向には、濃いか薄いか、どっしりかスッキリか、ロースト感かフルーツ感かといった代表的な特徴によって分類される「ジャンル」というものがあります。
抽出方式や器具類には得意ジャンルや専用ジャンルがあり、挽き目を含むレシピで用いられる条件の範囲を想定した上でデザインされています。
- 極細引き ⇒ エスプレッソ
- 細挽き ⇒ 水出しコーヒー、モカエキスプレス(マキネッタ)
- 中挽き~中粗挽き ⇒ ペーパードリップ、サイフォン、エアロプレス
- 粗挽き ⇒ ネルドリップ、フレンチプレス
※エスプレッソ・モカエキスプレスは高水圧を用いる抽出方式となっており、その圧力を生み出すために極細挽きの粉が必須となっています
上記はあくまで一般的な例であり、器具が正常に使用可能な範囲であれば、お好みや目的に合わせて柔軟に選択したり、より細かく調整したりすることも出来ます。
ここで言う正常とは、水が粉の中を流れるスピードが速すぎたり遅すぎたりすることで、極端に意図やデザインの許容範囲から外れない範囲に収まっているということです。
挽き目で決めているのは水の流れやすさ
「抽出が正常に行われているかどうか」を判断するためには、抽出とはどういうことを目的として、どういう方法によって行うものなのかという基本的な予備知識を持って臨む必要があります。
まず、抽出方式には2つの大きな区分があることと、その仕組みの違いについてご説明します。
- 透過式 ⇒ 抽出中に粉の層を水が流れ続け、粉の濾過も同時に行う仕組み
- 浸漬式 ⇒ 容器内で粉を水に漬け込んでおき、その後で一気に濾過するか上澄みを取る仕組み
ご家庭で一般的なペーパードリップは透過式に区分されますが、このタイプで特に注意しなければならないポイントが「粉に対する水の流れやすさ」です。
浸漬式は注水による水の流れが結果にほとんど影響しない単純明快な仕組みとなっていますので、ここからの話は「多くの方がつまづきやすい透過式の厄介な問題」に焦点を当てたものとお考え下さい。
挽き目調整によって粉の粒子一つ一つの大きさが変わるということには、上述の粒子全体の表面積の増減によって溶け出す成分の量が変わるだけはなく、粒子と粒子の間の隙間の大きさが変わることで「水の流れやすさ」が変わるという2つの効果があります。
当店ではその流れの速さを重要な指標とし考えており、水が粉とフィルターを通って流れ落ちて来る速さのことを「流出速度」と呼んでいます。
その具体的な値については、以下の要因間の相互作用によって決定されるものなので、ケースバイケースで組み合わせを変えながら最終的に意図した範囲に収まるように調整するための算段を行う必要があります。
この算段を自らの意図で行うのか?
それとも、お店や器具や機械といった他者に任せるのか?
この選択がコーヒーの楽しみを広げて行く上での大きな分かれ道となります。
ミルを手にするということは、自らその算段まで行う選択をするということでもありますので、ここからは、その点をもう少し段階的に解説して行こうと思います。
水の流れやすさが変わるポイント
- 粉の状態(焙煎度、挽き目、微粉量、鮮度、圧密度)
- フィルターのメッシュ、厚み、素材
- ドリッパーと流出口の形状
- 注水方法(量・速度・圧力)
挽き目と流出速度の関係が生み出す風味傾向
- 挽き目:粗 ⇒ 隙間:大 ⇒ 流出速度:早い ⇒ 時間:短 ⇒ 風味: 軽め
- 挽き目:細 ⇒ 隙間:小 ⇒ 流出速度:遅い ⇒ 時間:長 ⇒ 風味:濃いめ
このように、挽き目によってコーヒー液の濃さが変化するという結果には、単に水と触れている面積が変わることだけではなく、触れている時間も変わるという二つの要因が重なり合って影響しています。
当店では、その面積と時間を合わせて「接触機会」と呼んでいます。
ミルを手にしたら「どれくらいの【挽き目】が目的の濃さになりやすいかについて【時間】と照らし合わせながら調整する」ということからはじめてみましょう。
その際、「今は粉と水がどれくらい(しっかりorちょっと)触れているかなあ?」とイメージするだけでも、ドリップ中にご自身が何をどのように行っているかが自覚しやすくなると思います。
ドリップについて、はじめから一つ一つの細かいポイントまで考えてしまうと「面倒だなあ」という気持ちが勝ってしまうこともあると思います。
「ドリップのはじめの一歩は挽き目から」ということを実際の味の変化で体感し、風味が形成され行くおおまかな流れをつかんでおくておくだけも、その後の道のりは自ずとスムーズになって行くこととと思います。
また、表面的な謳い文句に流されないように、物事の基本的な仕組みに意識を向けることが、迷い道や落とし穴にハマらないための予防策にもなると思います。
どんなミルを選べば良いの?
電動 or 手動(手回し)
当然ですが、電動の方が楽で速いです。
ただ、ご家庭では置き場所や騒音、飛び散った粉の掃除が見過ごせない問題となることもあります。
しかしながら、手間が掛からないことが長続きすることにつながるのは間違いないので、最初の一台としては電動がおススメです。
挽き目調整や計量、誤動作防止などの扱いやすさを向上させる機能については電動ならではというところもあります。
とは言え、近年は手動にも非常に高性能なタイプが登場していることにも注目してもらえたらと思います。
それらは一昔前より格段に進歩しており、数人分ならサクサクと素早く挽けるようになっています。さらに、そこから生み出されるコーヒー粉としての品質は、電動業務用の最上位クラスと比べても遜色ないほどというレベルというものもあります。
仕組み自体は単純かつ容量が数十グラム程度のサイズになるので、肝心な歯の精度に集中投資して製造出来ること、そして、粉砕速度が低いので発熱を心配しなくても良いことから比較的安価に製造出来ることが、品質向上の手段としての確実性と経済性に優れている点です。
また、電源のない環境で持ち運ぶことが前提のアウトドア派にとっても、外で淹れる雰囲気を楽しむという段階から、実質的なクオリティーと満足感が揃った段階へのステップアップを可能にしてくれます。
※関連記事:アウトドアコーヒーには何が必要?
歯の精度 - 風味の焦点合わせ
ミル内部には、たくさんの硬い溝を持つ金属盤(Burr:バー)が2枚向かい合わせに配置されています。一方が回転歯となっており、これを回すと固定歯との隙間に豆が送り込まれて砕かれて行くという構造になっています。
風味を引き出すことが最大の目的であるコーヒーミルにとって重要な性能は以下の二点です。
- 粒度の均一性(一粒一粒の大きさが揃っていること)
- 摩擦熱を抑えて風味成分を揮発・劣化させないこと
※業務用の場合は容量や粉砕速度も重要になります
おおまかな風味傾向を決めているのは粒度の均一性なので、歯をはじめそれをコントロールする本体も含めた構造的な精度が非常に重要ということになります。
挽き目の粗さと精度は「成分の水への溶け出しやすさ(接触機会)」を決定付ける重要なポイントです。
どんなミルで挽かれた粉も粒度が完全に均一な訳ではなく、ダイアルで設定した目的の挽き目より成分が溶け出しにくい大きな粒、溶け出しやすい小さな粒がバラバラに混ざった状態です。
これは上記のようなミルの構造的に自然とそうなるものです。
しかし、その大小のバラツキが大きくなるほど、成分の溶け出しやすさがバラバラな粉から出来た抽出液が混然一体の状態となって行くので、本来の狙い通りとは言えなくなります。
風味の複雑さについて、どの程度までをポジティブな立体感や奥深さと捉え、逆にネガティブな単調さやぼやけと捉えるかという評価基準は人によって違います。
しかし、それを生み出している要因には生豆や焙煎だけではなく、挽き目とその粗さの広がり具合という要因も影響しているということを、より多くの方に知ってもらえればと思います。
そして、焦点の合った鮮明な風味や細かい調整までをお望みでしたら、ドリップ以前に【挽き目】が重要と言える原理を理解する必要があります。
代表的な歯の仕様について
以下の様々な要素の組み合わせによって、個々のミルが持つ風味傾向の違い生まれます。
- 溝(切断面)の形状
カット式:粒子の形状が直線的な多角形になりやすい ⇒ 表面積:小
臼式 :粒子表面がざらざらになりやすい ⇒ 表面積:大
これらの違いも成分(特に水溶性繊維質⇒コク)の溶解量に影響すると考えられます。
臼式については、ほぼフジロイヤル製ミルでしか見られない特殊な仕様ですが、モーターの性能とあいまって圧倒的な粉砕速度も合わせ持つことが、特に業務で用いる際の唯一無二のアドバンテージになっている面があります。
溝の細部については、一枚の歯の中でもはじめに粗くする部分、徐々に細かくしていく部分といった役割によって異なる形状に分かれています。
- 歯の形状:フラット(円盤状)・コニカル(円錐状)・ロール(筒状)※工場向け
- 歯の直径:接触面の広さ
- 材質・コーティング:スチール、ステンレス、チタン、セラミックなど
硬度や表面の微細形状、熱についての伝導性や膨張特性、耐摩耗性、耐腐食性などが異なります
- アラインメント:2枚の歯の間隔(粒子が通り抜ける隙間)を常に一定に保てるかどうか
- 回転速度:歯や周りの粒子との接触回数に影響するので基本的に速い ⇒ 粗め、遅い ⇒ 細かめ
浅煎り豆の硬さがコーヒーを変える
近年、ミルの精度向上を目指す動きが活発ですが、それは業界全体で浅煎り豆を使う機会が増えたためです。
浅煎り豆は深煎りのものに比べて密度が高く硬いので、造りが甘くズレが多かったり歯の切れ味が悪いミルでは精確に挽くことが出来ません。
それが大げさではないことは、指で豆を割ってみたり、手回しミルで挽いてみたりしてもらうと驚くほどの違いがあることを体感して頂けると思います。
また硬い豆と硬い歯がぶつかり合うことで摩擦熱もより多く発生することから、風味成分に与えるダメージが大きいという問題点も明確に浮かび上がって来ました。
豆の硬さの違いがどのように抽出に影響しているのかにご興味のある方は、同じミルの同じダイアル設定で挽いた状態を比較してもらうと分かりやすいと思います。
それらは同じであっても、浅煎りの方が平均的な粒子サイズが粗めになっていることが一目瞭然なはずです。
浅煎り豆を使うと成分が溶け出し出にくくなる原因
- 繊維質の密度が高い浅煎り豆の特徴に適した抽出レシピが必要
- ミルの性能によっては挽き目が深煎りに比べて粗めになる
普段は深煎りタイプを多く淹れられている方が初めて浅煎り豆で淹れると、風味が出なくて困惑してしまうということが起こりがちなのは、豆の性質が大きく違うということについてはあまり知られていないためです。
ミルの分かりやすい性能指標の一つでありドリップにおいて重要な調整ポイントでもあることから、その比較について注目してみることをおススメします。
この問題は歯だけではなくミル全体の機械精度が低いものほど顕著に表れます。
浅煎りのコーヒーが見直され始めたのは2000年前後ですが、ご家庭用の器具類に対応製品が出始めたのは2015年辺りなので、それ以前のミルの多くは浅煎り豆を挽くことを想定して作られていないと考えた方が良いと思います。
このように、浅煎り豆の個性を引き出してよりおいしく味わえるようにするためという契機に端を発して、ミルの発展が促されるという大きな流れが生まれています。
具体的には、歯の形状や切れ味、耐久性、それを支持する躯体についての強度、全体の加工精度、組み付け精度など。
また、電動の場合は高トルクかつ低速回転なモーターと制御機構、発熱抑制機構などといったような工業的に高い設計・加工技術や高価な材料が必要とされるようになっています。
※このような発展の途上には、世界的に有名な商用ミルに潜んでいたアラインメント問題などもありました
中挽きってどれくらい? - 挽き目の表記方法を整理する
ペーパードリップでは中挽きから中粗挽きが推奨されることが多いですが、「自分の使っている粗さはこれで合っているのか?」という点は皆さん気になるところのようです。
ただ、私が知る限りでは「挽き目」についての基準はあまり明確とは言えないことから答えに困る質問の一つです。
込み入った話は後にして、「中挽き」をメッシュサイズの国際標準規格になぞらえると、24番~30番辺り、粒子の大きさがおよそ500㎛~800㎛(マイクロメートルorミクロン)の範囲に該当します。
日本の業界規格は「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約」に記されているものになると思いますが、この基準を日常的に目にする機会がまずない上に、もしご覧になったとしても「そういうことだったのか!」とはならないのではと思います。
もう少し実際の目安としやすいように、普段から用いている表現をそれぞれの基準に換算して下記の表にまとめてみました。
一つお断りしておきますと、この表し方は当店調べを元にした、およその範囲をお示しするためのものであり、コーヒー業界で統一的に用いられているものではありません。
※メッシュサイズの国際規格にもいくつか異なるものがありますが、ここではコチラを参照させてもらいました。
挽き目
|
英語表記
|
メートル法
|
メッシュサイズ規格
|
公正競争規約
|
---|---|---|---|---|
極細・微粉
|
Extra fine
|
100μm~300μm (0.1~0.3mm)
|
60~100番
|
上白糖
|
細
|
Fine
|
300~500μm (0.3~0.5mm)
|
30~60番
|
~
|
中
|
Midium
|
500~800μm (0.5~0.8mm)
|
24~30番
|
グラニュー糖
|
中粗
|
Midium-coarse
|
850μm(0.85mm)前後
|
20~24番
|
※SCAカッピング基準
|
粗
|
Coarse
|
800μm~2000μm (0.8~2mm)
|
8~20番
|
白ザラ糖 (ザラメ)
|
ミルの性能とは? - 粒度分布という捉え方
粉の中には細かいものから粗いものまでが含まれているということは上述しましたが、「全体の中でそれらがどのような広がり具合になっているか」について表したものを粒度分布と呼びます。
粒子サイズがミルで設定された範囲に収まっている割合が多いほど、粒度分布においての均一性が高いという評価になります。
逆に分布状況にまとまりがなかったり、時々でまとまり具合が変わってしまったりするものは、均一性が低いという評価になります。
粒度分布の傾向と風味の傾向
- 均一性:高 ⇒ 鮮明・酸味が優位・クリーン・キレ
- 均一性:低 ⇒ 複雑・甘味やコク(質感)が優位・微粉が多い場合は苦みが出やすい
それならばということで、「完全に均一なメッシュサイズで揃えたらどうなるのか?」と気になって来るところですが、そのためには「ふるい分け」というメッシュサイズの異なる歯やふるいなどを使って何段階かの選別作業を行う必要があります。
手間の掛かる作業が増える上に、そこまでするとかえって風味にとってのデメリットが生じる原因ともなります。
実際に粒度が完全に均一な状態とまでは出来ませんが、極端に狭い範囲に絞り込んで抽出したコーヒーについての官能評価は「単調・深みがない・シャープ」といったネガティブな結果になりやすいようです。
その原因には、粉砕や選別に掛ける工程や時間が増えることによって粉が熱や空気にさらされる機会が増えることで、酸化や揮発による成分の劣化が進んでしまった可能性も十分考えられます。
※業務的な観点で見ると「歩留まり」もかなり悪くなってしまいます。
粒度分布にほどほどの広がりが見られること自体は「おいしさ」にとって欠くことの出来ないポジティブな要因として、暗黙の了解が得られている理由かもしれません。
粒度分布の違いはおいしさの多様性?
精度に関する問題についての少し専門的な解説になります。
それぞれのミルが持つ仕様や性能の違いによって、生み出される粉の粒度分布は異なる傾向を示します。
一見した粗さは同じように見えても、その微妙な違いが抽出段階での「水の通り抜けやすさ」や「成分の溶け出しやすさ」に影響することで、風味の違いとなって表れて来ます。
さらには、同じミルの同じダイアル値を使った場合であっても焙煎豆の硬さによって出来上がる粉の平均的な粒子サイズが微妙に異なるということも起こります。
これらのことから、異なる機種や豆を用いると同じ粒度分布を持つ粉を作ることは出来ない、という結論になります。
そして、このズレこそがミルの個性、あるいは商品の性能として様々なバリエーションが生まれる所以なので、一般的に公開される機会はどうしても少ないですが、あらかじめ粒度と風味の関係を知っておかないと対処に苦労する場面が多くなります。
それは異なるミルを用いた際の抽出の再現性、情報伝達にズレを引き起こす原因となっていたり、知っていたとしても様々なミルや豆やフィルターを扱う上では、風味調整を行う上での確認作業が煩雑になるといった所です。
これらは技術的にも現実的な必要性においても、取り払うことが非常に困難な障壁に当たると思いますが、少なくとも挽き目についての統一的で分かりやすい基準が必要と感じています。
ミルの基本性能が丸見えになってしまいますが、メーカーさんにはいくつかの焙煎度の豆をサンプルにした粒度分布のデータを公開してもらいたい所です。
あるいは、ダイアル数値ごとの世界標準規格に準拠した平均粒度、もしくは標準偏差を示してもらうだけでも、ミルの特徴を事前に把握したり挽き目調整を行なったりすることが現状より行いやすくなると思います。
ただそうなる前提として、同様の仕様と水準を備えた機械たちが生み出す風味については、単純に優劣で評価出来るものではないという共通認識も必要とは思います。
※製粉は多くの分野で必要される基礎的な工程なので、その技術はすでに高度に発展しています。
粒度分布は確率統計という分野の手法を用いて一般化された表記が用いられることが多いです。
統計は構成要素の何を見たいのかで表し方が変わります。生データ・平均値・中央値・偏差値などがあり、また分布傾向が単蜂性ではなく複蜂性を持つ場合もあったりします。
示された値や傾向がコーヒーの風味としてどうなのか?ということまで考えると、一概にどれが一番良いといった単純な評価は出来ないのが「おいしさ」の難しい所ではありますが、少なくとも消費者側から見た時にフェアな判断材料の一つになると思います。
微粉とは?
粉への粉砕時に、豆の脆い部分がパウダー状から目に見えないほどの細かさにまで砕けた状態のものを言います。
メッシュサイズ国際標準規格で言うと、だいたい100番(100㎛・0.1㎜)前後だと思います。
※この値については当店独自の表現でコーヒー業界で統一されている基準があるのかは分かりません。
当店では微粉除去を行う場合、メッシュサイズ80番のふるいを
また、微粉に近い極細挽き粉を標準とするエスプレッソでは微粉の基準も異なります。
これは、どんなミルであっても粒子同士や歯との摩擦によって必ず発生してしまいます。
非常に成分が溶け出しやすいためにその割合が多い粉を使ってドリップした場合、コク(質感・ボディー)を感じやすくなります。
それだけならまだ良いのですが、知覚に鋭敏に働く苦みや渋みといった雑味成分までが否応なく溶け出すことで強調されてしまうという厄介な存在です。
また、フィルターのメッシュ(平均的な穴のサイズ)が微粉サイズより大きい場合は、通過した微粉あるいは繊維質と呼べるほど細かい粒子がコーヒー液に多く含まれることで、ほどよいコクと言える範囲を通り越した「舌触りや後味の悪さ」を感じるようになります。
逆にフィルターのメッシュが細かい場合や表面積が小さい(穴の数が少ない)場合は、微粉がその穴をふさぎ水の流れが阻害されることで「目詰まり」を引き起こす原因となります。
目詰まりが起こるとドリップに掛かる【時間】が狙いより余計に長くなります。
ひどい場合には、ドリッパー内で水のスムーズな透過が起こらず浸漬状態が長く続くことになります。
いずれにせよ、意図とはかけ離れたコーヒー液や抽出過程になってしまう原因の一つです。
一般的に広く用いられているタイプのペーパーフィルターは細かいメッシュに当たること、普及価格帯ミルの多くは微粉が多めになることの二つの要因が組み合わさることから、目詰まりは特殊な問題ではなく、常々どこでも起こっていると言えるほど身近なものと言えます。
ダイアル合わせで狙った以上に成分が出過ぎたり、水の流れを阻害したりする微粒子が粉には必ず含まれているという事実を知らないままだと、抽出液内の一部において「過抽出※」を引き起こしているコーヒーやドリップを標準と捉えてしまうことになりかねません。
どんなドリップでも「粉の中で局所的に成分溶解量の差が大きくなること(抽出ムラ)」は望ましい状態ではありません。
微粉量を調整するための対策や器具
これも昔から存在しており、多くは微粉除去に適したメッシュサイズの「ふるい」を使うものです。
ただ、その手間が増えたり抽出全体の調整が複雑になったりすることからあまり普及していません。
そこで費用を掛けても、あらかじめ微粉対策が施された高性能な製品を使うことで調整に掛かる手間や心配を省いてしまうのも選択肢の一つと思います。
吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。
過抽出・未抽出ってどういうこと?
実は、上で挙げた現象「目詰まりを起こして抽出時間が長くなったことで濃いめのコーヒーになってしまった」ということを「過抽出」と表現するのは間違った使い方です。
このように表現してしまうと、濃度にはどこかに絶対的な基準値があるかのような誤解を招きやすい点が特に問題となります。
ですが、この辺りのことについてもう一段階正確な捉え方のご参考となるよう、あえて触れました。
過抽出(オーバーエクストラクション・スStrong)・未抽出(アンダーエクストラクション・Weak)という言葉は本来、「収率(Extraction Yield)」という基準に付随して用いられる表現方法です。
粉の分量に対して抽出された成分量を測定し、それを比率(%)で表したものが収率です。
単に狙いの収率より高いか低いかを表す用語なので、それ自体に風味の良し悪しとかおいしい・おいしくないとかいう意味はありません。
風味について、あるいは抽出結果について客観的に捉えて行くためには、「収率」「濃度」といったデータと感覚的な「官能評価」を組み合わせて総合的に判断して行く必要があります。
「Golden Cup」と呼ばれるスペシャルティーコーヒー協会が推奨する目安値というものが以下のように示されています。
- 55 g / L±10%
- 粉1:水16前後
- 収率18~22%
しかしながら、豆・粉の状態や抽出条件によって収率は変化し、それに伴って濃度や成分比も変化するという全体の関係性を理解することなく、一部の用語や値だけを見て単純に判断したり評価したり出来るものではないということでもあります。
透明性を求めて THREE FIELD - KIRIMAI ※追記
ミルの仕組みと風味の関係については、特にエンジニアリング(工学)からの視点と技術が不可欠な分野です。
これまで、ことコーヒーに関する製品については、その謳い文句の根拠とする技術的な詳細について公開されるケースは多くありませんでした。
いわゆるブラックボックス状態、あるいは根拠不明の透明性が低い状態が通常だったということです。
それでも業界内では十分な説得力を持ち、なおかつ売れる需給関係が成り立っていたからですが、そのような風潮は徐々に過去のものとなりつつあります。
新しく日本の業界トップの方たちが関わって立ち上げられたメーカーで開発されているミルの製品ページにおいては、原理や構造についても分かりやすく解説されていますのでご紹介させてもらいます。
トップバリスタによる比較動画
ご家庭用電動ミルの価格別評価
機械精度が求められる工業製品の場合は、価格がおよその性能を表す基準になり得ます。
- 数千円辺り → 取り合えず挽ける下位クラス → 粒度にばらつきが目立ち、尖った雑味を感じる
- 1万円辺り → 普及帯の中位クラス → ぼやけた印象。気にしなければ問題なし
- 5万円辺り → 中挽き、粗挽きではプロも使うクラス → クリアな風味を感じるに十分な精度。毎日何杯も飲む方ならコスト面でも最適解
- 10万円辺りまで → エスプレッソ用の細挽きまで対応する最上位クラス → 精緻な調整が可能
これ以上の価格帯もありますし、商品によっては基本性能以外の様々な便利機能の付加や大容量化・高効率化、あるいは開発費やブランド価値などによって価格が押し上げられているといったこともあります。
逆に、某国製のコピー商品と疑わしき格安製品などもあったりします。
上記評価はそのようなものについてまで言及したものではなく、ホッパー容量~200gくらいまでのもについて2021年までの私の経験をもとにした主観です。
ご使用目的に合わせてご参考にして頂ければと思います。
※ご参考までに、当店ではイベント出店用に「フジローヤル みるっこ」「Comandante C40」、オンライン販売用に「Baratza Forte BG」を使用中
細かい性能や機種ごとの仕様にご興味のある方は下記リンク先をご参照下さい