フィルターの役割
最大の役割は「抽出過程でコーヒー液と粉を分離すること」です。
理由は、ざらつくだけの細かい粉が混ざったままだとおいしく感じられないからです。
おそらく、皆さんがご興味を持たれているのは、そんな当然の話ではなく以下のような疑問の答えではないかと思います。
フィルターはコーヒー抽出液の風味に対してどのような効果を与えるのか?
コーヒーの抽出工程は大きく「①浸透②溶解③濾過」の3段階に分けられます。
①と②の工程では、成分を水に溶解させるためにドリッパーなどの容器内で水と粉が混ぜ合わせます。
そのような状態になった液体と固体の混合物のことを「スラリー」と言います。
このコーヒースラリーをフィルターに通すことで、狙いの要素に絞って取り出す過程が濾過に当たる工程となります。
フィルターを日本語に訳すと「濾材」です。
ここで、フィルターが風味を損なったり、自分が求めてなかったりする要素だけを勝手に選別して100%取り除いてくれるのであれば話は単純なのですが、実際にはそんな理想的で特殊な機能は持ち合わせおらず、ずっと大雑把な造りになっています。
コーヒー抽出における濾過とは「どんな仕組み」で「どのような現象なのか」を理解するということが、フィルターが異なる場合に抽出過程に起こる変化と風味の関係を知ることへとつながっています。
3つの要素が持つメッシュサイズ
私たちの普段のコーヒーの楽しみ方では、濾過して取り出されたもの(コーヒー抽出液)の風味について吟味しますので、ここで問うべきことは以下の二点です。
- スラリーの中からフィルターを通したいものと通したくないものは何か?
- フィルターは何を基準に通すものと通さないものを区別しているのか?
粉体と抽出液が区別される固液分離の基準は「それぞれの粒子の大きさ」です。
粉の大半は目に見えるほどの大きさなので粒子として認識しやすいですが、抽出液を構成する水分子や成分分子(イオン含む)も全て細かい粒子の集まりと捉えると分かりやすくなると思います。
抽出を左右する3つのメッシュサイズ(粒径)
- コーヒー粉:ミルによって粉砕される際のサイズには大小のバラつきが生じます。
そこにはパウダー状ほどの「微粉」、目に見えないほどの「繊維質」も含まれています。
- 成分分子:原子の様々な組み合わせによって大小の差があります。
粉に比べてはるかに小さいので粒子として目には見えませんが、コーヒーの味、色、香りの素となっているものです。
- フィルターの穴:主に植物や石油から作られた細長い繊維素材を絡み合わせ、無数の隙間を持つ生地が作られます。
このようなタイプのフィルターのメッシュサイズ(粒径・目開き)は全て同じではなく大小のバラつきがあります。
これら濾過に関わる3つの要素「粉・成分・フィルター」ともメッシュサイズに大小のバラツキがある結果、通れる粒子と通れない粒子については明確な境界線で区別されるものではなく、それらが重なり合う範囲で確率的に示されるものとなります。
仕組みと現象について整理してみると、問うべきことがより具体的に見えて来ます。
- 境界範囲に当たるメッシュサイズはどれくらいか?
- 境界範囲に当たる一部の粒子とは何か?
- その粒子が抽出液に含まれる量によって、風味にはどのような変化が生まれるのか?
これらの疑問についての答えがフィルターの効果であり、お好みによって使い分けたい場合に求めるべき情報になります。
また、器具としての使い勝手が大きく違うこともご選択に当たっての理由になると思いますので、それらも含めて代表的なものについてご紹介して行きます。
ドリップって奥が深い? - フィルターで分離してみる
スラリー(液体と固体の混合物)を分離する方法についても様々な種類があることを例に挙げて解説してみます。
フレンチプレスやトルココーヒーなどの古典的な浸漬式では「上澄みをすする」という飲み方をすることがあります。
この方法は、「水に対する粒子の浮きやすさ(比重)」という性質の違いを選別の基準とする「沈殿法」と呼ばれるものです。
この記事では、フィルターで行う濾過という「粒子の大きさ(粒径)」を利用する分離方法に焦点を合わせるため、比重という粒子の性質を利用した分離方法には触れていません。
しかし、厳密にはペーパードリップのような透過式でも、その性質は「白い泡」や「粉」の動き方といった形で目に見える部分に表れています。
スラリーの状態から捉えると、あらゆる抽出方式には「半透過式」もしくは「半浸漬式」と呼ぶ方がふさわしい抽出過程が含まれいるということが分かります。
「コーヒーは奥が深くて良く分からない」となってしまう理由の一つは、何から何までごちゃまぜの状態の材料から、強引に答えを導き出そうとしたり、単純な説明を求めたりしようとすることです。
上記は一つの例ですが、抽出工程では様々な粒子のそれぞれに異なる性質によって複雑な現象が起こっていることは確かです。
それは「情報のスラリー(混合物)」とも見ることが出来る状態なので、それぞれの現象ごとに情報を濾過(フィルタリング)して取り出し、見えやすくしてから調べてみましょう。
その後、それらがどのようにつながっているのかという関係性を紐解いて行きます。
すると、ごちゃまぜのままではよく分からなかったことであっても、徐々にその正体が明らかになって行きます。
抽出とは何か?
個人的なコーヒー哲学を語りはじめそうなほど字面がかっこいい疑問ですが、ここでは用語の意味について整理してみましょうという意味です。
コーヒー分野において「抽出」という言葉は、粉からコーヒーエキスを取り出して一杯のカップになるまでの全ての工程をまとめた総称として使われています。
しかし、本来の意味は「混合物に特定の物質を溶かす作用のある溶媒を加えて溶質を分離する操作」とされおり、物質ごとの溶解度の差を利用して成分を分離する方法を指します。
つまり、「コーヒーの抽出」とは「本来の抽出」を含む様々な分離方法の組み合わせによって構成される一連の工程ということです。
通常のコーヒー抽出は、対象(粉・成分・水)もごちゃまぜの上に、工程(フィルターを含む器具・分離方法)もごちゃまぜの状態です。
そこで何が起こっているのかと改めて見直そうとすると、一般的な理工系の知見を持っていたとしても、なかなか捉えどころない(感覚的に奥深いと表現されがちな)ものに映ってしまうのは無理もないことと思います。
コーヒー抽出液の作成工程
抽出工程:コーヒー豆・粉(混合物)から水(溶媒)に溶けやすい成分(溶質)を水溶液として取り出すこと
分離工程:濾過分離⇒コーヒー粉(個体)とコーヒー抽出液(液体)の混合物を特定の粒子サイズ以下が通る濾紙を通して分離し、コーヒー抽出液を取り出すこと
抽出方式によって異なる分離方法の違いについてまとめると、以下のような関係となっています。
- 濾過:粒度の差 → フィルター
- 沈殿:比重の差 → 浸漬 > 透過
- 抽出:溶解度の差 → 透過 > 浸漬
成分の分離方法には、それぞれの目的に適した様々な種類があり、生産から一杯のカップになるまでの全ての工程を通じて欠かすことの出来ないプロセスです。
コーヒー分野の言葉には本来の意味とは異なったり、混同されたりした形で慣習的に定着してしまっているものが多々あります。
この問題が、「抽出」という現象を理解したり、その情報を伝達したりする上での障壁となり、論理の核心部分を精神論やオカルト的な妄想でカバーしようとする不毛な風潮を生み出す原因となってしまっている事例も少なくありませんので、当店の解説ではその点にも出来るだけ配慮しているつもりです。
言葉やイメージ(印象)に惑わされないこともコーヒーについて学ぶ上で大事なことだと思いますが、もっとストレートに表現すれば、「目の前の現象そのものを捉えること」が何よりの近道と思います。
フィルターの仕様
メッシュ
個々の穴の平均的な粒径(メッシュサイズ)
基本的にコーヒー用フィルターのメッシュサイズは微粉サイズに合わせて作らており、微粉とそれ以上大きい粒子は通れず、それより小さい粒子は通れるくらいの穴が無数に開いた状態になっています。
多くのフィルターは細い糸のような繊維状の材料を絡み合わせることで出来ているため、穴(粒子の通り道)のサイズは完全に均一ではなく一定範囲内でバラツキがあります。
※粒径の計り方や粒度分布の表し方にもいくつかの異なる方法がありますが、数値で表す場合は確率統計による平均値を指すことが多いです
厚み
繊維で出来たフィルターは、それらが折り重なることによって層が形成されるため厚みを持ちます。
粒子から見た場合、厚みは通り道の数と距離になります。
層が厚くなるほど、通り道の数が増え、距離は長く曲がりくねったものになって行くので粒子が通り抜けられる量と速さに影響します。
フィルターの「表面積」とは、円錐や台形、ひだのあるなしといっ外形だけはなく、層の内部まで全て含めた粒子が触れられる部分という意味になります。
フィルターに触れた時にざらざらした感じになっているものが多い理由は、クレープと呼ばれる「凹凸」を形成することで表面積を大きくするための素材や加工法が用いられているからです。
そうした濾過能力を高める工夫によって、微粒子が引き起こす口当たりの悪さや濾過速度の減衰を防ぐことが出来るようになります。
金属製についても、例えば2枚重ねにしたり、ステンレスたわしのような形状にしたりといった層を形成するための工夫によって若干の効果が得られます。
効果
この2点を総合して、フィルターの性質を表す指標は「水・成分・粉それぞれの粒子の通り抜けやすさ」と言えます。
水の粒子(分子)サイズは非常に小さいので大抵のメッシュは通り抜けます。しかし、成分・粉の粒子サイズには、フィルターの仕様によって通り抜けられるものと通り抜けられないものが出て来ます。
簡潔にまとめると、以下の大小関係に表せます。
粒子サイズの大小関係
水(極小) < 成分の大半(小)< コーヒーオイル(中)≦ 微粉・繊維質(中) < 粉(大)
三つのメッシュサイズが重なる境界領域に該当するのが「中サイズの粒子」です。
フィルターの効果、およびミルの性能に関しても様々な議論がありますが、本質的なテーマは「中サイズの粒子の量が抽出過程と風味に与える影響」と言えます。
仕様による4つの効果まとめ
抽出される中サイズ粒子の量による効果
1.【微粉・繊維質:少 → 軽め(クリーン)】
【微粉・繊維質:多 → 濃いめ(ざらつき・コク)】
濾過工程を通じた風味形成に関して最も影響度が高い要素
コーヒー粉の中で細かい粒子の割合が高くなるほど成分の収率は上がりますが、同時に、スラリー中の粉と水の流れに不安定な挙動を生み出したり、フィルターの濾過能力を大きく奪うことで濾過速度の著しい低下を招いたりする原因にもなります
3つのメッシュサイズ、抽出時間、風味のバランス関係を非常に複雑なものとし、いまなお一貫した理解と定式化への試みを拒む厄介な要素です
2.【オイル:少 → 軽め(キレ・さっぱり)】
【オイル:多 → 濃いめ(コク・まろやか・芳香)】
コーヒーオイル:生豆が元々持っている油分
鎖状に連なった分子構造を持ち分子量・サイズとも大きいことから高分子に分類されることもある ※詳細下記
透過式の流量と時間(濾過速度)による効果
3.【メッシュ:細 → 時間:長 → 濃いめ】
【メッシュ:粗 → 時間:短 → 軽め】
4.【厚み:厚 → 時間:長 → 濃いめ】
【厚み:薄 → 時間:短 → 軽め】
注水の量と時間が同じ場合、フィルターによって通り抜けられる粒子の量が変わるならば、自ずと落ち切るまでの時間も変わるという結果になります。
透過式でフィルターを変更する際には、時間変化による成分溶解量の変化も別に考慮する必要があるということを意味します。
ドリッパーとの適合と圧力について
細かい仕様についてはメーカーや商品ごとに異なるため、効果の大きさもそれぞれです。
また、ドリッパーの形状に合わせて作られているものについては適合をご確認下さい。
理由は、そもそも使いにくいということと、ドリッパーの形状やリブ(凹凸)によって生まれるフィルターとの隙間が多いか少ないかという要素でも水の流れ方が変わってしまうからです。
ドリッパー内でフィルターの形状が歪んでしまうと、抽出状態に部分的な偏り(抽出ムラ)が生まれやすくなります。
また、ドリッパーの壁面にフィルターが密着した部分は、基本的に固体・液体・気体にかかわらず成分を透過しなくなります。
つまり、濾過面積が小さくなって濾過能力が大きく低下するということなので、下部の流出口付近の密着していない部分に流れが集中し、目詰まりが起こりやすい状態になります。
【リブ:高 → 濾過速度:早い → 時間:短】
ドリッパーとフィルターの仕様は適合する組み合わせによって、メーカー側の意図した性能(水と成分の通しやすさ)を発揮する状態となります。
現在の所は、フィルター仕様にメッシュサイズや厚みなどの細かい情報が記載されているものはほぼありません。同様に、コーヒーミルにも粉の粒度をメッシュサイズで表す習慣もありません。
残念ながら、抽出環境が持つ濾過能力について客観的に表すために必要な最低限の情報さえ欠如している状況です。
ドリッパー、フィルター、ミルについての議論は昔から盛んですが、結局は堂々巡りに陥っているケースが大半であることについて疑問をお持ちになったことはないでしょうか?
その理由は、答えを出すために必要な情報がどこにも示されていないから、と言う他ありません。
また、【圧力】という抽出条件の変化によっても、「水や成分の通り抜けやすさ」は変わるということについてもご一考下さい。
関連記事:濃度がブレない抽出レシピの作り方 -ハンドドリップのデメリットを知る-
コーヒーが甘いと感じる理由って?
- コーヒー豆の成分の中で糖質って何?
- 繊維質って何?
- コクって何?
私たちがコーヒーをおいしいと感じる時、「甘い」「コクがある」といった感覚は、数ある風味の中でも特に重要な要素だと思います。
上の疑問は、その理由について考える場合に良く挙げられるものになります。
生豆は植物の種を加工して作られています。
繊維質とは、その細胞壁や細胞膜を構成しているいくつかの多糖類と呼ばれる炭水化物(主にセルロース、ヘミセルロース)についての総称です。
精製・焙煎・製粉、抽出という過程を通じて分解されたり結合されたりを繰り返す中で、非常に多くの形態を取ることになります。
その中でも、目に見えないほど微細化されたものや水に溶けやすい性質を持っているものは、溶解のうち「コロイド状に分散する」という形でフィルターのメッシュを通り抜けやすくなります。
粒子が細かく親水性が高いものは、風味に粘性(コクやボディー、シルキー)をもたらし、粒子が大きく親水性が低いものは異物感(ざらつき・いがいがしさ、ドライ)をもたらす原因となります。
ここがややこしい所なのですが、糖類という言葉からは「甘み」をもたらす砂糖のようなものを想像される方もいらっしゃるのではと思います。
糖類の中でも甘みの呈味物質は単糖類(フルクトース、グルコースなど)を始めとする少糖類(スクロースなど)と分類されるもので、名前の通り比較的小さな分子に属します。
※コーヒーの濃度や収率についての話で登場するBrix値とは、水溶液中のスクロース(ショ糖)の含有率を表した糖度のことです
単糖類が重合したものが少糖類で、次に多糖類となり、さらに大きな分子の塊(高分子)という分類になったものが繊維質(食物繊維など)です。
そして、多くの場合は大きな塊になるにつれて水に溶けにくくなり、甘みもなくなって行きます。
また、コーヒー生豆中には元来の成分としてショ糖を主としていくつかの少糖類も含まれているのですが、焙煎工程の熱によって97%ほどが分解されてしまうことで、最終的な抽出液の成分中に含まれる割合は0.3%ほどとなり、それは人の舌では甘みとして知覚出来ない量とされています。
これらことから、現在も「コーヒーの甘さはどこから来るのか?」という疑問についての答えは大きな謎となっており、仮説としては、香り、油脂分や繊維質からの粘性(コク)などが複雑に絡み合って生み出される総合的な知覚(風味)である、という説が有力とされています。
コーヒー抽出液中でコロイドを形成する大きな分子には、繊維質の素になる多糖類の他にもタンパク質やそれと糖類の複雑な化合物であるメラノイジン(腐食酸)、カラメル、コーヒーオイルなどがあります。
メラノイジン・カラメル、ポリフェノール類の一種になるクロロゲン酸との複雑な化合物は総じて褐色物質と呼ばれ、コーヒーの特徴的な色味、香り、苦み、コクの素になっている成分です。
※これらの化合物やその反応過程は、多くの加熱食品で見られる一般的なものです。
ただ、非常に複雑で多岐に渡る反応物質を生み出すため、現在のところは専門的な化学分析においても全容の解明は難しいそうです。
材質ごとの特徴まとめ
ペーパー
木材や植物の繊維で作られた紙
材質:パルプ製が多い(主成分はセルロース)
- 【メッシュ:細 → 時間:長 → 濃いめ】
- 【厚み:中 → 時間:中 → ほどほど】
- 【微粉・繊維質量:少 → 軽め(クリーン)】
- 【オイル量:少 → 軽め(キレ・さっぱり)】
口当たりについて最もクリーンに仕上がるため、どのような種類のコーヒーでも飲みやすくしてくれる万能型。
加えて、価格が安いことやゴミ捨て、保管といった扱いも楽なことから日本では最も一般的に使用されている。
リンス:ドリップ前にフィルターに湯通しして洗っておくこと
ペーパーフィルターには漂白(白)と無漂白(未晒し・茶)の二種類が販売されており、それらには木材パルプに含まれるセルロースやリグニンをどれだけ取り除いたものかという違いがあります。
リンスの目的は、この残留成分から生まれてしまう紙臭さを抑えることと言われていますが、最近の漂白タイプにはもともと無味無臭なものが多いので、その場合の効果はありません。
また、日本では未晒しタイプの方が体や環境に良いというイメージから購買動機につながっているようですが、近年の漂白方法は「酸素漂白」という体にも環境にも無害なものとなっています。
コーヒーに穀物臭や青臭さといった植物由来の風味を伴う原因の一つには、焙煎度がかなり浅い豆を使用していることが挙げられます。そのような場合には、発生原因が豆によるのかフィルターによるのかを区別した上で対処する必要があります。
※フィルターの特徴はメーカーや商品ごとに異なるので要確認。
当店ではHARIO純正・三洋産業のアバカのいずれも漂白タイプを使用することが多いです。
また、当店では抽出前に念入りに湯通しを行っているので、リンスについてご質問頂くことが多いですが、その目的は他にあります。
フィルターとドリッパーの中心軸のズレや浮き上がりを防止することと器具類の予熱・洗浄を同時に行うためです。
アウトドアでは気温や風、地形によってドリップ環境が不安定になりやすく、埃なども舞っています。特に温度変化による影響は無視出来ないほど大きいものです。
また、状況によってはフィルターがドリッパー内部で変形した状態になってしまうことがありますが、粉の層や水の流れもいびつになることで正常な透過が妨げられる原因になります。
それらへの対策をまとめて素早く行う方法として、フィルターはじめ器具類への湯通しを必須の工程としています。
ネル
植物の繊維で作られた布。語源は英語のフランネル
材質:綿(コットン)製のものが多い
- 【メッシュ(ベースの生地):粗 → 時間:短 → 軽め】
- 【厚み:厚 → 時間:長 → 濃いめ】
- 【微粉・繊維質量:中 → ほどほど(クリーン・コク)】
- 【オイル量:多 → 濃いめ(コク・まろやか・しっかり)】
メリット:ベース生地のメッシュが粗目であることからコーヒーオイルや繊維質が若干通り抜けやすくなることで特に口当たりまろやかさやコク、香りが増加する傾向があります。
メッシュは粗目ながらも、素材はペーパーと同じく植物の繊維をより合わせて出来ており、その一本一本の糸が持つ微細な多孔質構造による吸着作用もフィルターとしての機能を果たします。
厚手のベース生地とその表面を毛羽立たせた起毛層という多段階の濾過層を形成することで、ざらつきを感じさせるほどの微粉についてはほどよく吸着つつ、他の多くの成分を透過するため、上記の風味傾向に加えて口当たりのクリーンさも両立する優れた特徴をコーヒーにもたらすと考えられます。
デメリット
使用後に水洗いで粉を洗浄しなければならないこと。そして、保管の際は繊維に残った微粉や成分の腐敗を抑えるために冷蔵しておく必要があります。
新品の状態や乾燥保管した後に使用を始める際には、事前に煮沸して糊や固着した成分などの不純物を落とします。
たまに煮沸するなどして数十回程度は再利用可能ですが、洗い落とせない微粉による目詰まりがひどくなったり、起毛が抜けて吸着性が落ちたりすることは避けられないので、状態を見ての交換が必要になります。
フィルターの状態が変化するということは、それぞれのネルの状態に合わせたレシピ調整が出来ないと再現性が保てないということを意味します。
これが、ネルが玄人向けと言われる理由の一つです。
※当店は元々、独自に調整したフィルターを用いてのネルドリップを行っていましたが、現在はコロナ禍のためペーパーに変更中です。
新品を抽出前に煮沸する時にはコーヒー液を加えるのが良いとされている理由
- 使い始めはネルの繊維が持つ吸着力が強い
- 抽出初期の主要な成分が多めに吸い取られてしまう
- あらかじめ別のコーヒーの成分を少し吸わせることで吸着力を落としておく
ネルドリップの世界には「ネルを育てる」という表現がありますが、それはこの手法を応用する中で生まれた経験則を表したものではないかと考えられます。
- 水洗い後もネルには微粉とコーヒーオイルが吸着されたまま残りやすい
- 目的の風味傾向から見て程よい吸着力を判断し、その状態を保つようにする
- フィルターを反復利用するという特徴から、以前の抽出の残り香を活かす手法も生まれているが、衛生面や再現性の面から見た問題を抱えている
セラミックス(陶磁器)
材質:土(無機化合物の集合)を高温で焼き固めたもの
フィルターとしての性能は材質や製法によって様々ですが、コーヒー抽出用に作られたものの性能は全般的にネルと近く、風味特性や目詰まり問題についても原理的に同様と言えます。
陶器の耐熱性を活かした目詰まり対策として、オーブンなどで焼くことで詰まった成分を炭化させ砕けやすくして取り除くという方法があります。
また、セラミック製品で謳われる場合のある遠赤外線効果については、原理もその効果による風味変化も当店には分からないのでお答え出来ません。
金属
材質:ステンレス製が多い
以下のような様々なタイプが存在しているため、効果について一概には言えません。
- 2重メッシュなど、異なるメッシュサイズを組み合わせているもの
- パンチメッシュを用いることで穴の位置や大きさ、数について調整されているもの
- 部分的にメッシュの数や大きさが異なるもの
代表例として、プアオーバー型の製品やフレンチプレスで使用されることが多い粗目のタイプの特徴を挙げます。
- 【メッシュ:粗 → 時間:短 → 軽め】
- 【厚み:薄 → 時間:短 → 軽め】
- 【微粉・繊維質量:多 → 濃いめ(ざらつき・コク)】
- 【オイル量:多 → 濃いめ(コク・まろやか・しっかり)】
濾過に掛かる時間は短くなる傾向ながらも、微粉やコーヒーオイルなどの成分が通り抜けやすくなっていることから、コクやざらつきといった口当たりや舌触りとして触感的に感じる風味が目立つ。※濃い薄いとは異なる
水洗いすれば再利用可能。ドリッパー一体型が多く、その場合は器具類を減らせます。
長期使用で目詰まりが発生することがありますが、煮沸洗浄することで緩和出来ます。
不織布
繊維をランダムに絡ませてシート状にしたもの
材質:コーヒー用としてはポリプロピレン・ポリエチレンなどの化学繊維が多い
用途:ドリップバッグや個包装型水出しパックのフィルターとして使われることが多い
- 【メッシュ:細 → 時間:長 → 濃いめ】
- 【厚み:中 → 時間:中 → ほどほど】
- 【微粉・繊維質量:少 → 軽め(クリーン)】
- 【オイル量:中 → ほどほど】
ドリップバッグとは、透過式抽出の利便性の向上を目的として、1杯分の粉をフィルター兼用の袋に詰めたものと厚紙製の折りたたみドリッパーを一体化させたもの。
昔から一般的に使われて来たタイプはフィルターの形状が箱型のため、底面積が大きく上からの水流は四つ角に分散することになる。
また、粉量は10g弱と少な目であることも相まって、通常の器具を使った抽出と比べて成分を十分に溶け出させることが難しく、風味が軽めになりやすい仕様となっている。
仕様から生まれるデメリットを補うため、抽出初期は透過式ながら中盤からはカップに貯まって来る抽出液の中で粉の入った袋ごと半浸漬状態となることで満遍なく成分が溶け出すように工夫された独特な方式となっている。
近年はそのデメリットを改善するため、粉量を増やして上置き型(カップオンタイプ)としたものやフィルター形状を円錐型としたタイプなども登場しているが、使い勝手の面や価格が割高といった理由から一部の愛好家向けとなっている。
一本一本の繊維自体に吸着作用がないことでペーパーやネルに比べて成分は通り抜けやすいが、繊維の太さの均一性が高いことからフィルターのメッシュ(目の粗さ)という点での均一性が高く、常に安定した濾過性能を得ることが出来る。
また、無味無臭で水溶性はないことや熱圧着出来ることなど加工性や強度の面でも優れる。
加工の自由度が高いことを活かし、成分の中でも分子サイズの大きいコーヒーオイルの透過性に合わせて、一枚のフィルターでありながら部分的に異なるメッシュ加工が施されたようなものもある。
このようなタイプはペーパーとネルの中間ほどの風味傾向を示し、口当たりがマイルドかつクリーンに仕上がることから味わいにおいておススメです。
※当店のドリップバッグではこのタイプの上置き型を採用(手製作する時間がないため販売休止中)
生地自体は高性能ながらも、不織布製のフィルターや使い捨てドリップバッグという商品となると割高感が強いことや、素材が化学繊維であることも日用に向いたペーパーの代替とはなりにくい理由かもしれません。