氷で冷やす急冷式の落とし穴
この記事では、アイスコーヒーの作り方の中で最もポピュラーな次の方式について解説しています。
直接急冷式:液体に氷を直接投入することで冷却する方式
ただし、この記事は当店自慢のオリジナルレシピやご家庭向けのお手軽レシピの紹介を目的とするものではではありません。
その目的は、この方式にまつわる未解決の疑問に対し、科学的に明確な回答をお示しすることです。
Q.直接急冷式で使う氷の量や粉の量(分量バランス)を決めるにはどうしたらいいの?
回答①:セオリーに沿った固定レシピに習う
固定レシピとは、主にコーヒー屋さんから提供されているような「おすすめの淹れ方」です。
それらの多くは、レシピ内の各抽出条件(豆、器具、分量(比率含む)、温度、時間など)が固定された値となっています。
現状、上の疑問に対する答えは、あくまでも「実践例の一つ」や「有効な回避策」としての①しか存在しないのが実態です。
回答①の課題:
- 検索コスト:「レシピ探し」という作業に手間暇が掛かる
- マッチング問題:検索結果が、ご自身の目的やケースに合致するとは限らない
- 柔軟性不足:レシピの杯数や分量といった条件変更に対応していない場合が多い
- 客観性不足:レシピの根拠が基本的に発信側の評価や経験則
これらに対する根本的な解決策を見出すことを目的として、当店が開発した手法が以下です。
回答②:各目的とケースに合わせたレシピが自在に生成可能なアプリを使用する
- コスト削減:直接急冷式の基礎的なパターンの全てにアプリ一つで対応可能
- 柔軟性:各ケースでの分量・温度設定に応じた最適なレシピを自動計算
- 客観性:科学的な理論と実践的な精度という確かな根拠に基づいて構築されたロジック(論理回路)を搭載
まずは、一般的な回答である①についての解説。および、メリットの裏に潜むデメリットについて整理し、課題を明確にして行きます。
そして、そのデメリットを克服するための②を目指す道すがら、コーヒー抽出における熱量調整という核心に触れてもらえればと思います。
ハマる理由:準備(前提条件)が足りない
まず、この方式についての解説では、ほぼ共通の手順と値について、要点のみをまとめた「お手軽レシピ」を作ってみます。
- ホットコーヒーを濃いめに淹れる(粉の量を通常の1.5~2倍にする)
- そのコーヒー抽出液と同量(重さ)ほどの氷を準備する
- あらかじめサーバーに氷を入れておいたり、抽出後にすぐ氷を加えることで急冷する
ご興味のある方ならば、このタイプのレシピはそこかしこで見聞きされていると思います。
現在、コンビニのドリップマシンや自動販売機で作るアイスコーヒーと言えば、氷の入ったカップにホットコーヒーを注ぐ直接急冷式が大半なので、実際に体験されている方も多いのでは思います。
お手軽レシピの手順や分量バランスは、コーヒーの世界では知らない人がいないほど初歩的な情報、いわゆる「セオリー(定説)通り」です。
このようなセオリーは、長い年月のうちに自ずと収束して来た経験則の1つに当たります。
もし、「氷投入型はこれだけで万事OK」ならば、いかにも簡単かのように見えますが、実際の場面ではなかなか思うように行かないかもしれません。
なぜなら、お手軽レシピには見えない落とし穴がいくつも潜んでいるからです。
この記事で言う落とし穴とは、トラブルにハマって抜け出せない状況全般を指します。
そして、その大半は「準備(前提条件)不足」によって引き起こされています。
「手軽さ優先の情報(コスパ・タイパ型の情報)」を扱う場合、次の点に注意が必要です。
- 目的(結論)に対して不可欠の情報が抜け落ちている(いわゆる切り抜き・編集が行われている)可能性が高い
- お手軽情報と分かった上で前後の文脈を補完出来ない限り、事象の背景まで含む全体像を見誤る危険性が高い
上記は、情報の扱い方としては基本中の基本に当たるものですが、お手軽レシピを改めて見てもらうと、そこには大事な何かが足りない気がしないでしょうか?
疑問:手順1で抽出されたコーヒーの温度はどのくらい?
近頃は、ご家庭でも豆の焙煎度やお好みの風味傾向によってお湯の温度を調整することも珍しくないと思いますが、ベースとなる液体の温度が異なる場合については何も説明されていません。
オリジナリティーや再現性を高めるために、レシピ形式(分量・温度・時間などをまとめたもの)で発信される情報も多いですが、レシピの温度とは、「ドリップケトル内の温度」を指すのが通常です。
さらに言うと、抽出時間、抽出量、レシピには書かれていない器具や環境といった要因によって保温状態にも違いが生まれるので、抽出されたコーヒー温度はそれぞれのケースで違っています。
直接急冷式では、分量と温度が最終的な仕上がりを大きく左右する、という点については、誰でも想像がつくと思います。
ほんの少し改めて考えてみるだけでも、身の回りで自然に起きている現象が前提条件から省略されている不自然さ、に思い至るのではと思います。
疑問:手順2で用いる氷の温度はどれくらい?
国内の一般的な冷蔵庫内の冷凍室の温度は、JIS規格に沿ってマイナス18℃前後に設定されています。
アウトドアをはじめ環境・設備条件が異なる場合、冷却機器の性能や使用方法によって、維持出来る温度帯や時間は自ずと異なってきます。
しかし、「冷凍庫の温度」や「氷の温度」について言及された解説を目にした経験のある方はいらっしゃるでしょうか?
つまり、お手軽レシピの多くは、建物内のキッチンや電気式冷凍庫といった設備が整っている場所、および、温度環境(室内平均25℃辺り)で行う場合という、暗黙の前提の上で成り立つものということです。
もし、これで万事OKや究極の~と標榜された情報があったとしても、「抽出温度や氷の温度は常に一定ではない」という条件に対する言及が欠落していたならば、少なくとも、論理的な面では破綻していることが一目瞭然と言えます。
疑問:その他いろいろ
- 杯数(目的量)を変えたい時は?
- 豆、挽き目、粉量などの抽出条件を変える時のバランス調整はどうすれば?
- 氷なしで飲みたい時は?
- 冷えすぎは苦手なので目的の温度を調整するには?
お客様から寄せられる、様々なケースや細かい疑問まで拾い集めて行くうち、次のような疑問が芽生えて来ました。
もっと幅広いケースに対して、柔軟に対応出来るコーヒーの捉え方が求められているのではないか?
残念ながら、コーヒー入門に当たって、本やメディア、SNS上でよく見かけるお手軽情報に頼るばかりでは、「落とし穴(あるいは沼)にハマる」という事態を避けることは出来ません。
理由は後述して行きますが、一般的なコーヒーのセオリーが前提とする曖昧な条件、あるいは根拠だけでは、抽出の複雑さに対する答えは永遠に得られないからです。
ことわざで簡潔に表すとすれば…
「焼け石に水」
その真意も、後々はっきりと理解してもらえるようになると思います。
趣味や日常使いであれば、その中で試行錯誤を繰り返すのも楽しみ方の一つと思います。
ただ、これまでの情報共有の在り方はプロを含む業界全体に共通の足枷(あしかせ)となっている、というのが、長年の実体験と調査研究の成果を通じて固まった当店の見立てです。
現状を打開すべく、「落とし穴(あるいは沼)から脱出するための根本的な解決策」をご提供して行くことを、当店Q&Aのテーマとしています。
マッチング問題:オーダーメイドとレディーメイドの違い
- オーダーメイド(Order-made)
それぞれの方のご希望や状況によって様々な形が求められているのが現実
- レディーメイド(Ready-made)
前提条件に多数派をおいた固定形式のため、対応可能な範囲が限定的(ワンパターン)
まず、どんな需要と供給の間にも必ず存在するギャップについて知っておく必要があります。
情報についても同じく、「全てが自身のケースに当てはまる訳ではない」ということです。
このギャップへの対処法として、お手軽レシピや固定レシピをはじめとするレディーメイド形式の情報をどれだけ増やしたとしても、「発信側と受信側のすれ違い」というジレンマが解消されることはありません。
実は、コーヒーについての解説やセオリーの大半は、市場の多数を占める初心者を対象としたレディーメイド形式の情報です。
常に変動する素材や環境といった、レディーメイドでは対処し切れない状況に晒されるまでは、そのような現状に対して疑問を差し挟む機会さえないかもしれません。
当店はアウトドアコーヒーを専門とする立場から、上述のような暗黙の前提が成り立たない場所でコーヒー抽出に必要な条件を一から組み立てるのが常となっており、その工程は各状況に合わせたオーダーメイド形式に近いと言えます。
目的のコーヒーをゴールとした場合、そのルート上に潜むであろう数々の落とし穴について事前に把握するためには、閉ざされた内からの視点ではなく、全体が見渡せる外からの視点が不可欠です。
視点を変えることで見えるもの
営業に当たっては、全てにおいて理想的な条件を整えることは困難なので、実行可能性や許容範囲、価格(コストや回転率)、コンセプトとの整合性などの要素も踏まえた上で、ご提供方法についの検討を重ねます。
アウトドアで「外」という前提条件に立つことの面白さは、自然の中では全てが一筋縄とは行かないことと引き換えに、それまで気付かなかった様々な視点や疑問を与えてくれることにこそあるのではと感じています。
前提条件とはゴールまでの足場
この記事では、急冷式アイスコーヒーの作り方の提示に留まることなく、その落とし穴の先に潜む核心部分まで迫ります。
その過程で、セオリーだけではたどり着けない「コーヒー抽出にまつわる数々の疑問の答え」までも明らかにして行きたいと思います。
コーヒーの世界には、多くの先人たちによって長い年月を掛けて蓄積されて来た情報がありますが、数々の試みと取捨選択を経ることによって編み出された一連の抽出様式が「方式」と呼ばれるものです。
例えば、ペーパーやネルドリップ、エスプレッソ、フレンチプレス、エアロプレス、水出し、氷出しなど。
これらの原型や数多の派生形の元となったアイデアや試みについては、少なくとも数十年以上前から存在し、そのテーマや内容がほとんど変わっていないこと。
そして、時勢の中で栄枯盛衰を繰り返して来たことは、本やインターネットなどのメディア上で公開されている過去の情報を辿ってもらうだけでも、すぐに明らかになることです。
それらが広く普及したり、流行したりするまでの経緯については、未開の地に降り立った最初の一歩から、次へ次へと足場が踏み固められていくうち、多くの人々が目的地(ゴール)まで辿り着きやすい経路が、いつしか道筋(ルート)となって現れて来る様に例えることが出来ます。
- 目的のコーヒーまでのルート⇒ 方式・手法
- 標識付きのガイドライン(ナビゲーション)⇒ レシピ
いわゆるお手軽レシピは「およそ・~ほど・各々で」などのおおまかな表現で標識の値がぼかされていたり、高いコストが必要とされる足場やルートはあえてスルー(迂回)されていたりする場合が多く、いわば、安全対策よりコスト優先の仮設道のようなものに当たります。
仮設で十分という方もいれば、それでは危ないという方もいます。
当然、「コストパフォーマンス」「タイムパフォーマンス」「満足度」といった各々の評価軸に沿って、バラエティに富んだ主張や試行錯誤も繰り広げられるでしょう。
そこで、それぞれの前提や基準の違いを理解することで、様々な視点から選択肢を広げることが出来ますが…
もはや現代においては、先人の足跡のない未開拓の目的地や道筋を見つけること自体が難しい状況にあります。
しかし、プロでも足場を作るのに苦労する難所(核心)が残ったままの未整備のルートや、確実にゴールまで辿り着けるか分からないルートは未だ存在します。
次項では、直接急冷式の攻略ルートの中には、今日もなお難攻不落の最短ルートがあった、という発見について解説して行きます。
仕組みの抱える問題点と回避策
まずは、基本的な急冷式アイスコーヒー作りの流れと一般的な攻略ルートについて整理することで、「何が最短ルートを阻む障害だったのか?」という問題点を浮き彫りにして行きます。
①. ベース用ホットコーヒーを作る ⇒ 加熱工程:熱を与える
②. 氷や流水、冷却材を使って冷やす ⇒ 冷却工程:熱を奪う
まず、熱に対する目的と調理に用いる設備や操作までもが正反対の2段階の工程に分かれている、という特徴が挙げられます。
その中でも、氷投入型急冷式についてのよくある失敗パターンと疑問点を並べると、ほとんどが以下のケースにまとめられるのではないかと思います。
- 冷え具合が弱い⇒氷を足す⇒薄くなり過ぎる
- 氷が解けて冷え切っても濃い⇒さらに氷が解けるのを待つ
これらの結果から共通して生まれる疑問が、次のようなものです。
- 濃さの調整が上手くいかない ⇒ ①コーヒーと②氷の量の割合はどう決める?
- 冷え具合の調整が上手くいかない ⇒ ①コーヒーと②氷の温度の割合はどう決める?
氷投入型で②の役割を担うのは「氷」という材料だけです。
氷は解けて行く過程で冷え具合だけでなく濃さも同時に変化させる要因となるので、「後で別々に調整しようとしてもどっちつかずになってしまう」という訳です。
氷投入型は、冷やすための調理方法としては当たり前過ぎて、何の疑問も感じないという方も多いと思います。
よもや、そこに厄介な罠が仕掛けられていたとは気付きにくい点が、落とし穴にハマりやすい理由の一つです。
もちろん、知らずにハマってしまった、知っててもどうすればいいか分からない、といった体験は、昔から多くの人々の間で共有されて来たものなので、落とし穴を迂回して進むルートは、すでにしっかりと整備されています。
アイスコーヒー作りの代表的な手法
ホットコーヒーを濃いめに調整
⇒濃縮液を希釈して使うカフェオレベースに発展
コーヒーの温度を氷を入れずに下げる
⇒流水や氷水、急冷機器などを使った外部(間接)冷却型に発展
⇒水出し、氷出しなどの低温長時間抽出方式の応用に発展
⇒パラゴン(ステンレス氷)を使った風味調整方法に発展
コーヒー氷(コーヒーを凍らせたもの)を準備する
⇒同じレシピで作られたコーヒー氷を使うことで風味の再現性が高くなる
⇒濃さや冷え具合の問題が起こらない
⇒コーヒー氷作りに追加の手間暇が掛かるため最もコスパ・タイパが悪い
これら3つの手法は、どれか1つでも有効ですが、その内のいくつかを組み合わせて用いることも出来ます。
後々、氷や水や牛乳などの希釈液を少しづつ加えながら濃度や温度を確かめたり、別の冷却工程を追加したりすることになるので、手軽さが失われることと引き換えにはなりますが…
失敗リスクを回避するための安全策としては、いずれも現実的な選択肢と言えます。
- 最終的には解けた氷と共にうやむやになるので気にしない
この選択肢は回避策ではなく逃避策に当たるので、もし面と向かって聞かされることがあったとしたら、(文字通り)お茶を濁されたような気分になると思いますが…
実際の所、最も一般的な対処法と言えるのではないでしょうか?
いずれにしても、これら「アイスコーヒー作りの王道」とされているルートは、そもそもが落とし穴を回避する「迂回路」を土台として築かれたものであるため、今日でも、次のような埋め難いギャップ(落とし穴)が残ったままとなっています。
- ホットコーヒーに比べ、レシピや風味評価にあやふやなポイントが増えてしまう
- 調理に必要な材料、工程、器具が増えてしまう
では、これらのギャップを生み出している根本的な原因とは一体何なのか?
そして、それを正面から乗り越えるにはどうすれば良いのか?
いよいよ、核心に迫って行きたいと思います。
前人未踏のルートへ
先の見えない道へ踏み込む際には、準備を万全に整えておくことが重要です。
一旦、「直接急冷式のレシピ作りから抽出までが成立する必要条件(最低限踏むべき足場)」について整理し直してみます。
- コーヒーの完成状態を想定する ⇒ ゴール
- 想定に対して適切な「分量」と「温度」のバランスを決定する ⇒ レシピ
- ホットコーヒーの抽出と氷を加える作業 ⇒ オペレーション
この流れに沿って前項の問題をまとめると、「①を目指して③を行った結果が想定した結果と異なるのは、②のバランスが適切でないから」と言い換えられます。
どこに問題の根本原因があるのか?という点については、おおまかに絞り込めました。
さらに、その原因を突き詰めると、様々なギャップ(落とし穴)を生み出している根本的な原因とは、次の問題であることが判明します。
①でゴールを想定する際、③のオペレーションによって起きる変化を具体的に把握する手段を持っていないため、②で適切なバランスが決定出来ないこと。
日常的な氷の扱い方を思い浮かべてもらえば、これまでにも②が頭をよぎる瞬間がいく度かあったのではないでしょうか?
ただ、そもそも私たちには「温度変化を予測する」という、適切な足場の作り方が与えられていない(もしくは、忘れている)ので、安全で確かな道のりを歩むことが出来ませんでした。
当然、感覚頼りの経験則だけでゴールにたどり着ける確率は低いので、「運頼み」もしくは、「自ら選択可能なルートを制限している」といった現状につながります。
分かりやすく言い換えると、「行き当たりばったりで望み通りになるなら誰も苦労しない」というやつです。
このような行き詰まり状態に陥った場面で役立つ考え方が、「目的からの逆算思考」です。
「当たり前」の限界と錯覚から抜け出し、自身で描いたルートや最短ルート、確実なルートといった他の選択肢を見つけられるのなら、例えはじめての道だとしても試してみる価値はあるのではないでしょうか?
熱量が核心へ通じる鍵
ここに至るまで、長々と前提や予備知識についてお話して来ましたが、それには深い理由があります。
実は、この方式に含まれる抽出条件のバランス調整について理解するためには…
これまでのコーヒーに関する議論において、全く触れられて来なかった「知識と技術(ノウハウ)」が求められるからです。
氷投入型の「想定したゴール」に対して「適切なレシピを決定する」というプロセスでは、以下の2つの条件を同じステージ上で扱うための新たな手段が必要になります。
- 濃さ ⇒ 濃度 ≒ 分量のバランス
- 冷え具合 ⇒ 温度 ≒ 熱のバランス
「レシピ通りに分量も温度もいつも計ってるけど…?」
こういった疑問をお持ちになる方もいらっしゃるかもしれませんが…
抽出の捉え方には、さらに上の次元がある
というのが、当店からの回答です。
まず、このような捉え方について軽く解説しておきます。
一般的なコーヒーレシピでは、次のような条件が代表的な構成要素になっています。
分量(g)・温度(℃)・時間(分秒)・粒度(ミクロン)
ご覧の通り、各条件は別々の「単位(計り方)」というステージ(基準)で扱われています。
バラバラに計測した値をまとめて記録したもの。いわゆる、「一覧表」という形式です。
少々乱暴に言えば、覚え書きやメモの域を出ておらず、「各要素間の関係性を記録する・把握する」という目的に対しては、ほぼ無力です。
つまり、バラバラの要素を同じステージに上げて関係性を捉えるということは、「同じ単位で扱えるようにする(もしくは変換出来るようにする)」という意味になります。
そして、このような柔軟な捉え方や操作を可能とするためには、新しいステージ(異なる次元からの捉え方=異なる基準や単位)を加える必要があります。
これまで、分量と温度という別々のステージで扱われ来た要素について、それらの関係性をより深く知るための新たなステージとなるのが、「熱量(単位:J or cal)」という言葉です。
この言葉こそが、核心への道を開く鍵となります。
その鍵を手に入れることで、最短ルートへの門が開き、落とし穴も迷い道も飛び越えて先へ進むことが出来るようになります。
※詳しくは、物理系の専門サイトをご参照下さい
抽出工程に必要なノウハウ
コーヒーの抽出においては、スタートからゴールまでの具体的なガイドラインを描くための「プランニング能力」が重要になります。
この場合、レシピ作成能力とも言い表せます。
それは、モノ作りの基盤となる考え方としての「逆算思考」、個別の状況に対応するノウハウ、それらを他者にも分かりやすく伝えられるコミュニケーション能力を全て兼ね備えた総合力を指します。
詳しくは、次の記事などもご参照頂ければと思います。
関連記事:おいしいコーヒーの淹れ方は?基本編 – 分量・温度・時間と濃度の関係 –
関連記事:焙煎度別・抽出レシピの基本パターン – 抽出温度の落とし穴-
関連記事:濃度がブレない抽出レシピの作り方③ -工程レシピを計算によって導出する
氷投入型急冷式では、基本的なレシピ作成能力を身に付けた上で、下記②の冷却ノウハウを要するプランニングを行うこととなります。
よって、抽出に関する技術的な段階では、あくまで当店基準ではありますが、中級の最終関門といった位置付けになります。
以下に一例として、最終関門をクリアする要件を満たしたレシピのプランニング例を挙げておきます。
①:日本で伝統的に好まれている風味のアイスコーヒーを想定に置く ⇒ ゴール
- 風味傾向:やや濃いめで甘みとコクがある+キレのある苦み+香ばしさ
- 一杯分量:175g(コーヒー+冷却用氷)※保冷用に追加する氷は別
- TDS濃度:1.5%(やや濃いめ)
- 目的温度:5℃(よく冷えていて氷が溶けにくい※冷蔵庫内温度)
- 環境温度:25℃
②: ①に基づいて抽出条件のバランスを決定する ⇒ レシピ
- ハンドドリップ透過式(ペーパー、ネル、金属メッシュなど)
- 焙煎度:深煎り(7:フレンチロースト)
- 挽き目:中粗挽き(中央値850㎛)
- 粉量:14g
- 氷量:75g
- 氷温度:マイナス15℃
- コーヒー抽出量:100g
- 注水温度:85℃
- コーヒー温度:70℃
- 抽出時間:2分30秒(蒸らし30秒・4投分割)
※ここでは通常より粉量に対しての抽出量を少なくすることで濃度を上げる手法を用いています。その場合は【抽出時間:短 ⇒ 軽め】になりやすいので注水速度の調整に気を配る必要があります
③:②に基づいて各器具類を適切に扱い抽出作業を進める ⇒ オペレーション
※実際の場面では周囲の空気や器具類との間でも熱の移動が起こるため、下項でお示している計算結果に若干補正を加えた値となっています
氷投入型の固定レシピは、お好みなどでどこかに変更を加えると、そのレシピで成り立っていた分量(濃度)と熱量(温度)のバランスが崩れてしまうということにご注意下さい。
味も安全が第一
「濃度」と「温度」はアイスコーヒーに限らず、コーヒーを味わう際に多くの方が敏感に感じ取られる要素で、最初の印象を決定付けるほどの影響力があります。
なぜかというと、人間の味覚では「どのような豆、抽出方法、風味の特徴なのか」といった理性的な判断を働かせる以前に、自身にとって飲みやすい(安全)かどうかという本能的な判断の方が生物として重要な先決事項とされているためです。
また、冷たい状態の食べ物について人の味覚では絶対的な刺激の減少と相対的な感覚のコントラストが重なることで「甘みやうま味(安全信号)」を感じにくくなるのに対して「苦みや酸味(危険信号)」を感じやすくなります。
その濃度が高ければ感じやすい部分がさらに強調されるので、結果としてアイスコーヒーは人にとって飲みにくいという判断に傾きやすい食べ物と言えます。
しかしながら、人は食べ物について豊かな感性を持って「味わう」ことが出来ます。
そこには、味覚神経(五味と刺激の受容体)の働きによる本能的な反応という下地の上に、それぞれの人が培った五感や食習慣、さらには価値観までもが積み重なり、それらを統合する大脳新皮質で行われる最終的な判断(理性・心理)に至るまでの重層的なグラデーションがあるからです。
その一言で言い表せない複雑な総体を指すのが「風味:フレーバー」という言葉です。
当店では風味について「傾向」という意味合いを強調するように用いていますが、そこには人それぞれの感じ方という幅がある上に、数値や成分だけでは表すことの出来ない要素も多く含まれているためです。
冷却工程に必要なノウハウ
熱量調整に当たっての「冷却ノウハウ」を身に付けるためには、使用する材料の性質や器具類の機能についてもしっかりと把握しておくことが重要になります。
②の冷却工程において主に使用される材料や器具には以下のようなものが挙げられます。
- 氷(水)
- 冷却材
- 冷却設備(冷蔵・冷凍機、送風機、断熱・伝熱容器など)
- 温度計・温度コントローラー
- 電源設備(電気機器を用いる場合)
- 水道設備(流水を用いる場合)
こうして並べてみると、アイスコーヒー作りにはレシピに表れない所でも冷却のための多くの物資やエネルギーが利用されていることがお分かり頂けるのではと思います。
各分野の業務用途まで含めれば冷却方法というものは多種多様です。
このテーマに関してよく目にするものは、ご家庭向けのごく一部の方法ですが、全般的に人工的な冷却工程は加熱工程に比べて複雑で大掛かりな設備と時間、エネルギー(熱量もその一つ)が必要な仕組みとなっています。
私たちが氷をはじめ、液体を凍らせたものを冷却に利用することが多いのは、「熱を爆発的に奪うエネルギーをため込んでいる燃料」のような形にすることで、日常的に扱いやすい道具と化すからです。
それらに用いられる材料にとっては、以下についての特別な性質を持っていることが重要になります。
- 周りより低い温度を長い時間に渡って保てること
⇒ 比熱容量が大きい
- 固体が解けて液体へ変化する際に周囲から格段に多くの熱を奪うこと
⇒ 融解熱が大きい
実は、「水」の性質というものはこの点でも非常に優れており、コーヒー作りだけでなくアウトドア(地球環境)での生命維持にとって欠かすことの出来ない特異な役割を担っています。
「外(アウトドア・開放系・つながり)」に視点があると、水や空気を介して常に出入りしながら状態を変化させる熱の重要性と扱い方に対して自然とシビアになるものですが、「内(インドア・閉鎖系・個)」の視点が基準になっていると、無意識のうちに熱の優先順位が低くなってしまう傾向が、行動や表現にまで見られるようになります。
言い換えると、アウトドアコーヒーが広まって来た現在も屋外でアイスコーヒーまで作ろうとされる方が極端に少ないのは、「夏場に外でものを冷やすのは難しい(費用・手間暇が掛かる)ことを経験的に知っているから」という説明の方が実感が湧きやすいかもしれません。
インドアかアウトドアかに限らず、熱量調整ノウハウを身に付けることによって、ゴールに辿り着くまでのコストとリスクを最小限に抑えることが出来るようになります。
※関連記事:アウトドアコーヒーには何が必要?
核心に迫るレシピ作成手法
直接急冷式においては、特に「レシピ作成能力=ゴールに到達するための最適なガイドラインを導き出すノウハウ」の習得が大前提として求められます。
この記事は、原理的(自然科学的)な視点から、それらを体系的に整理する試みの中では基本編に当たる部分です。
※応用編:急冷式用分量計算アプリ 2024/08追記
そもそも、「なぜ急冷なのか?」という疑問ついても明らかにしておきます。
- 抽出されたコーヒー成分の熱による化学変化(揮発、酸化、結合、分解など)を抑えることで風味の劣化を防ぐこと
- 常在菌などの雑菌が繁殖しやすい温度帯を避けるためのごく自然な食品の保存方式
そして、冷却において重要な役割を担っている「氷」に焦点を当てることが、以下のような疑問についての一貫した理解と克服に至る最短ルートであることをお示しして来ました。
- ホットコーヒー作りとアイスコーヒー作りの前提条件の違い
- インドアとアウトドアの環境・設備条件の違い
- 冷却方式の違い
- 温度と熱量の違い
- ドリップ解説全般にまつわる問題点
物理的な意味で正確、あるいは狙い通りの氷投入型急冷式のレシピ作成に臨むには、抽出に関わる個々の要素をツギハギ状態で見ている初級段階を卒業しておく必要があります。
なぜなら、抽出の核心にある「分量と熱量の変化に伴う濃度と温度の変化の関係」という、複数要素のつながりをコントロールする中級段階に進むことになるからです。
それは、断片的な情報や一側面からの視点では決して捉えることの出来ない関係です。
しかし、コーヒー抽出に最も関わりが深く、普遍的な理論である「熱力学の法則」について明確に言及された情報や、抽出に必要なノウハウを分野やレベルごとに整理した情報(教育的カリキュラム)は、コーヒー関連のどこを探しても見つかりません。
※焙煎時の火力に関しては、専門的な領域で若干熱量に触れられる機会があります
追記:2025現在、それらしき動きも見られます。🔗バリスタハッスル
「これまでの抽出理論には何か大事なものが欠落している(ミッシングリンクが存在する)」という事実にすでにお気付きの方は、「なぜ時としてトンデモないものがまかり通ってしまうのか?」という疑問を抱えていらっしゃるのではないでしょうか?
その理由は、こうした事例にも以下のような情報伝達に関わる問題が潜んでいるからです。
- コーヒー抽出方法とその表現方法の多くは、計測(客観)より経験則(主観)の蓄積によって定型化されている
- 現実的な需要は「即用可能な定型(レディーメイド)」に集中するため、核心部分については自ずと形骸化が進む
それが正しいか、有名か、あるいは面白いかどうかといったポイントは一旦抜きにしてみると…
「豆・レシピ・器具はコレ!」といった限定的な状況でしか成り立たないはずの固定レシピの提示がコーヒー情報の大半を占める理由は、根拠(スタート)から目的(ゴール)までを安全な定番(レディーメイド)に求める私たちの指向性(行動様式)にあります。
通常の抽出に比べ、前提条件がいくつも増える直接急冷式では、各々のケースに合わせた調整方法を示すために必要とされる技能的な難易度と情報量が格段に上がるので、さらにその傾向に拍車が掛かります。
この手の指摘が野暮なことも、多くの方が求めるものではないことも重々承知の上ですが、お茶を濁すことなくこの問題を解決することが目的であれば、自然の原理という核心に指向性を向けて答えを導き出すこと以上にシンプルで確かな方法はないと思います。
※誤解のないようお断りしておくと、当店は元々コンシューマー向けの販売拡大を目的とする事業者ではありません
次の時代のコーヒーに求められているものの一つは、個々の前提条件の変化に柔軟に対応した適切な答えを導き出すこと(オーダーメイド)を可能とする新しいレシピ作成ノウハウではないでしょうか?
適切な分量バランスを求める計算方法
氷の量の計算と物性値
- 比熱 「コーヒー(水):4.2J/g・K」 「氷:2.1J/g・K」
- 融解熱 「氷:334J/g」
- 質量(g)
- 温度(℃)
氷量 = { (コーヒー温度 – 目的温度) × (コーヒー抽出量 × 4.2) } ÷ {(氷温度 × -2.1) + (目的温度 × 4.2) + 334 }
氷量を求めるには、この式の右辺で必要とされる値を求めた上で次のような問いを立てます。
問いの例
「コーヒー温度70℃のもの100gと氷温度マイナス15℃のものを準備する場合、コーヒー温度を5℃まで冷やすために投入すべき氷量は?」
これらの条件で与えられた値を上の式に代入すると
氷量 = {(70-5) × 100 × 4.2} ÷ { (-15 × -2.1) + (5 × 4.2) + 334}
=27300 / 386.5
≒71(g)
目的量の計算
上記、氷量の答えを下の式に代入すると、コーヒーと溶けた氷が合わさった状態を表す目的量が決まります。
目的量 = コーヒー抽出量 + 氷量
= 100 + 71
= 171(g)
粉量の計算
次に、ベースとなる100gのコーヒーを抽出する際に使用する粉量を求めます。
ホットコーヒー用の基準レシピを設定する必要がありますが、普段から使っているお気に入りのレシピの「粉量と目的量の比率」※1を参照してもらってもOKです。
この例では、当店の基準レシピ(やや濃いめ)を元に、粉量12g、目的量150gとしておきます。
12 / 150 = 0.08
先ほど求めた目的量から必要な粉量を換算すると
171 × 0.08 ≒ 14
※1:
粉量と目的量の比率 ⇒ ドリンクレシオ
粉量と総注水量の比率 ⇒ ブリューレシオ
回答
上記をまとめると…
「粉14gから抽出した70℃100gのコーヒーに対し、-15℃の氷約71gを投入することで、基準レシピと同じ濃度で5℃171gのアイスコーヒーが得られる」
以上が、氷投入型急冷式で想定通りのゴールに辿り着くための、適切な分量バランスの求め方となります。
アイスコーヒーの作り方というルート上から、すっぽりと抜け落ちていた足場を獲得したことによって、はじめて適切なオーダーメイドレシピの作成手順を示すことが可能になった、と言えます。
全体を通して、一歩一歩確かな足場を作りながら進むプロセスとなっているので、もし上手く行かなかったとしても、どこでつまづいたかがすぐに確認出来ることや、修正に掛かる労力が最小限で済むようになることも大きなメリットです。
日常的に使うような手順ではないことも確かですが、迷い道や落とし穴にハマってお困りの方には一度お試し頂けたらと思います。
コスト削減:かんたん計算アプリ by AI駆動開発
いくら適切な手法と言えども、上記のような計算自体が敬遠されがちなことは、如何ともしがたい事実です。
日常的なコーヒーの話題はおろか、プロの現場であっても、学問ベースの理論や数値を持ち込むのは馴染まない、という文化的な土壌があることも否めません。
残念ながら、お手軽レシピのように「自ずと多くの方が拡散したくなる情報」の部類には入らないという現状です。
そこで、微力ながら「レシピ自動生成アプリ」を作成してみました。
これまでは言語化も可視化も困難だったノウハウが、一つのソフトウェアにまとめて搭載されています。
- 急冷式用の新たな手法(メソッド)が手間いらずで使える
- 最低限の入力から適切な分量を瞬時に計算
- 回答といくつかの類似パターンをグラフで表示(シミュレーション&リカバリー機能)
補足 - 誤差について
※目的温度5℃に達した時の状態は全て液体で氷は残らないものとしています。保冷目的の氷をさらに追加した際に溶けにくいことや良く冷えていると感じられる温度に見合う値として採用しています。
※熱の出入りに関して、考え方や計算が複雑になり過ぎないように気温・器具類・カップ温度といった実際の場面では影響を受ける環境・設備条件をいくつか除外しています。
目的量が少なくなるほど、相対的に容器をはじめ周辺側との熱の移動が大きくなるので、目的温度に表れる誤差も大きくなります。ガラス容器で一杯分ほどの場合は+数度程度が見込まれます。
※粉量算出の基準とするホットコーヒーとアイスコーヒーベース用コーヒーのドリップは、出来るだけ同条件に近づけて抽出されたものとしますが、「分量変化に伴う抽出時間の変化」は避けられないため濃度に若干の誤差が出る可能性があります。
基準とするレシピと抽出時間が同じになるように、注水速度を調整することで誤差を少なく出来ます。
この調整を正確に行うためには濃度計を使った計測も必要になって来ます。
※ハンドドリップ透過式で抽出後のコーヒー温度を70℃前後にするためには、注水温度85℃前後が目安になります。
※メインの計算式の分母部分に着目すると、この方式での温度調整に最も大きな役割を果たしている要因は氷の融解熱であることが示されています。
物質が温度変化に伴って固体・液体・気体という形で状態変化(相転移)を起こす際には、状態変化を伴わない場合に比べて格段に多くの熱が移動(吸収・発散)します。
氷投入型はその現象を利用することで短時間での冷却(急冷)を実現する方式ということが分かります。
一般的なコーヒー抽出に関する温度の捉え方は、一定状態の中のごく一部を切り取っているに過ぎないので、この方式のように異なる材料、状態、工程が絡みあって温度が変化して行く複雑な過程までを捉えることは出来ません。
「熱量」はアイスコーヒー作りだけなく、様々な素材の調理や加工を行う上でも欠かすことの出来ない基本的な捉え方です。
直接急冷式のメリットは低コストと鮮度感
氷投入型急冷式は、露店営業における調理方法としては基本的に禁止されています。(直前加熱が基本のため)
それだけでなく、オフグリッドのアウトドア環境で大量のコーヒーを長時間に渡って作り続ける当店では、この方式のデメリットに対処し切れないことも、アイスコーヒーの提供方法として採用出来ない理由です。
今回の記事を書くに当たって、馴染みはないながらも、妥当な計算方法を学んで検証してみました。
結果は、概ね計算通りと言える範囲です。
出来るだけシンプルな形にしたつもりですが、どこかに間違いや改善点などがありましたらご指摘をお待ちしてます。
また、主題から計算方法までの自然科学(高校物理くらい)に則した解説内容は、いわゆる「コーヒーのセオリー(小学理科くらい)」には含まれないため、一聴しただけでは受け入れがたい所もあるとは思います。
記事の主旨として、この方式についての情報整理(最適化)と見過ごされやすいポイントへの注意を促しては来ましたが、数字や手軽さうんぬんといった固い話を抜きにしても大きなメリットがあることは確かです。
- 追加の材料が氷だけで済むこと
- 風味の鮮度感
ご家庭のキッチンといった暗黙の前提条件を満たす環境であれば、冒頭の「お手軽レシピ」や「各コーヒー店の固定レシピ」のみでも十分にコーヒーをおいしく味わえると思います。
ステンレス氷や急冷用カップって使えるの?※2023/8追記
少量の飲み物を急冷するための道具には以下のようなものがあります。
- 解けない氷(アイスキューブ) ⇒ ステンレスなどの金属や樹脂製のケースに冷却材を封入したもの
- 急冷用カップ・ボトル ⇒ 二重層断熱ボトルの内部が真空ではなく、冷却材を封入したもの
- 小型急冷機(クーラー・チラー) ⇒ 氷水の中でぐるぐる回すやつ(缶・ビン飲料向けが多い)
※自前で準備した氷を使う間接冷却方式で電動・手動があり、失敗が起こりにくい仕組みです。通販サイトなどで探してもらえば見たままなのでここでは割愛。
どの器具でも冷却材の主要な成分には優秀で安全な「水」が使われているので、凍らせた中身はほぼ「氷」です。
一般的な冷却材では、シリカゲルなどの吸水材を用いて水分子の密度を高めたり、塩のような凝固点降下剤を加えたりすることで、体積あたりの融解熱を大きくするための工夫がなされてるものが多いです。
「それでどこまで冷やせるか?」という疑問は、上述して来た内容と同じく使用する材料の分量と温度のバランスによります。
特に急冷用カップは、冷却材の状態や量が見えないことからその点が分かりづらいというデメリットが明らかなので、慣れるまで目的通りに調整するのは難しいと思います。
※これらについても冷却ノウハウの基本が分かれば、事前に計算で答えを出すことは可能です
それよりも、冷却の仕組みとして直接氷を投入する方式とは根本的に異なる点があります。
冷却材が解けても液体同士が混ざらない
⇒ 熱の移動が起こりにくい
- メリット:飲み物が薄まらない
- デメリット:冷えるまでに時間が掛かる(氷投入型と熱量が同じ条件の場合)
このデメリットによって、「思っていたより冷えが弱くてガッカリする」ということが起こりやすくなります。
飲み物が薄まらないのはもちろんのこと、デザインもいろいろあって見た目も楽しめたり繰り返し使えたりといったメリットは素晴らしいと思うのですが、引き換えにいろいろとコスト(費用と労力)が掛かる選択でもあります。
※特に解けない氷の中でも丸型デザインへの注意点となりますが、同じ素材と体積の場合では最も表面積が小さい(接触面が少ない)形状となるので、より熱が伝わりにくくなります。
こういった冷却方法の選択という状況におかれても、「熱量調整ノウハウ」を身に付けておくことで、目的ごとの適材適所を事前に判断出来るようになります。
例えば、ステンレス氷などの固形タイプの製品は急冷用途には向かないが、逆に、長時間に渡って薄めず保冷するという目的には向いているといった判断。
あるいは、その素材とサイズだったら、どれくらいまで冷やせるのかという見当を元に購入を判断する。
アウトドアコーヒーで自分で作る力を磨く
とにかく事前の準備段階からしっかりと余裕を作るようにして、設備や資材、環境が不十分な現地で問題が起こってから困らないようにしておくことが大事と思います。
- 十分な量の氷とそれをしっかり冷やしておける器具を準備する
- 普段の2~3倍の粉量(もしくは半分~1/3の抽出量)くらいにして、ホットコーヒーを濃いめに作る
これはお手軽アドバイスに過ぎませんが、上述したいくつかのノウハウを身に付けると、その余裕が具体的にどれくらい必要になるかという見積りが立てられるようになります。
コーヒーという趣味の中では、迷い道や落とし穴にハマることも決して悪いことではない思いますが、「然るべきノウハウを磨くことによって、自分の力で目指すコーヒーまで辿り着くことが出来る」ということに気付いてもらえたら幸いです。

