コーヒーの可視化と計算を可能にするブリューレシオ・TDS濃度・収率とは? – 抽出コントロールチャート生成アプリ

目次
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    Brewing Control Chart Generator

    2025/08:ver 1.3リリース ⇒ 開発環境最適化 、計算結果のビジュアル表示、履歴保存、セッションデータ入出力、SNSシェア、テーマ選択、言語選択、ヘルプ追加、他多数の機能改善

    2025/08:UI/UXを刷新、レシピのプリセット機能、エスプレッソモード、CSVデータエクスポート機能

    2024/12:「抽出レシピとマーカーの関係」項を追加

    2024/12:計算&チャート生成アプリとしてバージョンアップ

    2024/08:「ドリンクレシオ」という用語を導入 ※下記の用語解説参照

    2023/11/7 新ステージの自動化ツールを鋭意製作中(公開は未定)

    2023/09/27 数値化によって求めるものとは?項を更新

    2023/09/1 ブリューレシオについての詳細を追記

    2023/08/27 SCAゴールデンカップとは?項を追記

    2023/08/14 グラフ上のポイント(赤丸)のデータ一覧が正常に表示されていなかったバグを修正

    2023/08/12 コントロールチャートのIdeal Zoneとレシオラインについての解説を追記

    2023/08/10 抽出メモの入力フォームを追加

    • 抽出条件と風味傾向の関係について客観的に把握したり、正確な情報として伝達したり出来ます。
    • フォームにTDS濃度、分量の測定値を入力。※要 Brix/TDS濃度計&スケール
    • 下部のGenerateボタンを押すと、収率やブリューレシオをはじめとする抽出状態を表す計算結果が表示されます。
    • 同時に、チャート内にマーカーがプロットされます。
    • マーカークリックでツールチップの表示/非表示を切り替え。
    • 初期値による計算結果は、「Ideal Zone(理想的な範囲)」のほぼ中心を示すように設定してあります。適宣変更して下さい。
    • 値を変えて計算を繰り返すとグラフ上には全てのマーカーが残ります。各レシピについての様々な比較が出来るので、レシピ作りの試算用としてお使い頂くことも出来ます。
    • Resetボタンで全ての結果をクリア。初期値に戻ります。
    • チャートをダブルクリックすると元の表示形式に戻ります。
    • 生成されたチャート画像の保存方法:保存したいマーカー(複数可)をクリックしツールチップを表示する。チャート右上コントロールバーの左端📷️ボタンをクリック。※データベースへの保存機能は正式版で提供予定
    • スマホの場合は標準ブラウザで横画面表示を推奨
    • お気に入り・ホーム画面に登録してもらうとすぐ使えます
    • 弊社で入力内容を保管したり、何らかの形で利用したりすることはありません。
    • 用語の説明や計算方法の詳細については記事下項や以下の記事も合わせてご参照下さい

    関連記事:再現性の高い抽出レシピの作り方② -TDS濃度・収率を把握する

    ※計算結果の表示機能を改善:

    計算結果内の各項目をクリックすると、自動的に模式図が生成される機能を搭載しました。

    この機能によって、以下の専門用語や計算の中身について、より直感的に理解しやすくなっています。

    さらには、入力値を変更した際も即座に反映されるため、「目で見ながらレシピを調整する」という新たな体験が可能です。

    関連記事:コーヒー抽出まとめ

    解説:Coffee Brewing Control Chart

    Brewing(醸造)

    • コーヒーの場合は「抽出」と同じ意味
    • コーヒー抽出コントロールチャート

    TDS(総溶解固形分)濃度

    • コーヒー液全体の量と溶解している成分量の比率
    • TDS:Total Dissolved Solidの略語
    • TDS濃度(%) = Brix濃度(%) × 0.8
    • 成分量(g) =  抽出量(g) × TDS濃度(%)

    ※:Brixとは糖度(ショ糖の濃度)のこと

    換算値:資料や機器によって、”0.7~0.85”という範囲で幅がある点に注意

    ”0.8”は、日本の業界で使用例の多いATAGO社製で採用されている値

    参考:PAL-COFFEE(Brix/TDS)

    🔗コーヒーにおけるTDSの役割とその科学

    Strong(濃い)⇔ Weak(薄い)

    • 抽出液中の成分量が水量に対して多めか少なめか
    • このチャートでは、Ideal Zoneを基準としてTDS濃度が高いか低いか

    Extraction Yield(収率)

    • 粉量と粉から抽出液中に取り出された成分量の比率
    • Extraction=エキス・抽出・収斂 
    • Yield=収率・収量
    • コーヒーの場合、まとめてEYや収率などと呼ばれる
    • 最大27%前後 ※酵素などの促進用添加物を使用しない場合
    • 収率(%) = 成分量(g) ÷ 粉量(g) × 100

    Over-extracted(過抽出)⇔ Under-extracted(未抽出)

    収率が高過ぎる状態 ⇔ 収率が低過ぎる状態

    • このチャートにおいては、中心のIdeal Zoneを基準として、収率が高いことをオーバー、収率が低いことをアンダーと呼ぶ
    • 収率を求めることで、レシピの総合的な抽出能力を客観的に把握することが出来ます
    • 過抽出や未抽出という言葉は、大まかな風味傾向について表す際にも用いられます

    収率の変化に伴う成分比の変化について:

    抽出とは、「成分ごとの溶解度(水への溶けやすさ)の差を利用した分離方法(クロマトグラフィー)」という下地の上に、「成分ごとの風味」という様々な色を重ねるうちに、自ずと浮かび上がって来るイメージのようなものです

    未抽出側の風味傾向:

    水に溶けやすく抽出初期に拡散し終える酸味、微量の塩味と甘味、弱い苦味の限られた成分で構成された風味となる

    多くの人にとって酸味よりでスッキリとした味わいを感じさせる状態

    収率18%を下回る辺りから、酸味や穀物感が目立つようになり、全体的に物足りなさを感じ始める

    過抽出側の風味傾向:

    比較的に水に溶けにくいため、抽出後期にかけて拡散する強い苦味、渋味、えぐみ、粗い繊維質(ざらつき)、油分が加算されて行くことになるので、未抽出状態よりも多様な成分で構成された抽出液となる

    多くの人にとって、苦味寄りで飲みごたえと複雑さを感じさせる状態

    収率22%越える辺りから、強い苦味をはじめとする雑味が目立つようになり、飲みにくさを感じ始める

    Ideal Zone(理想的な範囲)

    • TDS濃度(1.15~1.45%)& 収率(18~22%)
    • TDS濃度&収率のバランスが取れている範囲
    • 抽出のバランス(液体の濃さと風味の強さ)が良いとされる範囲

    ※”理想的”という定義の根拠

    チャートの出典元に当たる研究論文内で示された用語。

    その研究において実施された広範囲のサンプリング調査の結果、統計的に風味が良好という評価の多かった範囲。

    つまり、全体の分布状況から見た中央値や多数派の範囲を示しているということになります。

    なので、チャートが示す値と官能評価の結果は、大抵のケースにおいて重なります(相関関係が認められる)。

    ただし、カッピングやテイスティングによる評価と測定結果にズレがあった場合、どちらかが間違っているという判定を行うためのツールではなく、あくまでも、主観と客観のズレを明確に把握するためのツールです。

    また、エスプレッソ式コーヒーの一般的なTDSは8~11%ほどとされており、このチャートの範囲には含まれていません。

    ※最新版アプリにはモード切替え機能が追加されており、エスプレッソの範囲にも対応しています

    ※上記の統計結果のみを持って、”理想”という言葉で定義された点については、明らかに主観的な価値観が介在している、と言わざるを得ません。

    その定義のあり方に議論の余地が残されていることは、年代や地域の異なる発信団体によっては、範囲が変更されているケースがあることからも伺い知ることが出来ます。

    2023年現在、SCAが示すチャートでは範囲も用語も若干変更されています。

    下記「ゴールデンカップとは?」項参照

    Drink Raito(ドリンクレシオ)

    • Coffee to Drink Ratio(粉量と抽出量の比率)
    • 抽出量(g) ÷ 粉量(g)
    • 総注水量(投入量)ではなく、抽出量(出来高)と粉量の比率
    • 総注水量という一般的に馴染みのない要素を用いるブリューレシオと混同されやすいため注意が必要
    • 抽出用語の体系的な整理、説明や計算の際、この値が存在しないと非常に不便なため、当店が独自に定義した用語

    Brew Raito(ブリューレシオ)

    • Coffee to Water Ratio(粉量と総注水量の比率)
    • グラフ右上の枠外に並んでいる「1:x」という値
    • x = 総注水量(g) ÷ 粉量(g)

    Brew Raito Line(ブリューレシオライン)

    • 仮想のライン
    • 固定されたブリューレシオ(その他の抽出条件含む)による抽出結果をグラフ上に積み重ねた際、右斜めの直線状に表れるであろうTDS・収率の関係
    • 実際には、レシオのみで収率が決定される訳ではないため、目安の一つとして利用すべきもの
    • ブリューレシオラインに該当する公式な用語が見当たらないため、便宜的に当店が定義したもの

    レシピと抽出結果(マーカー)の関係

    • 基本ポイント(可視化しやすい):挽目・分量・温度・時間
    • 応用ポイント(可視化しにくい):圧力(撹拌・浸透圧・水圧・気圧)
    • ベクトル:チャート上でマーカーの移動方向と距離を表す矢印(抽出結果を比較する際などに用いる)
    • 基礎的なレシピ調整方法

    意図的に不作為要因を除外するステップを踏むことで、変化の予測や結果の確認を行いやすくするための手順 

      1. 目的と照らし合わせ、レシピの調整ポイントを一つに絞った上で値を変更する
      2. 変更前と変更後のマーカーを比較し、そのベクトルを把握する
      3. 風味を比較し、調整ポイントの変化による結果への影響度を確認する
    • 高度なレシピ調整方法:

    上図に記載されていない移動方向(左右・左上右下)への調整を意図的、かつ正確に行うための手順。

    意図的であるかどうかにかかわらず、複数のポイントが同時に変更された際には、チャート上に複数のベクトルが発生します。

    基礎的な調整方法(単一ベクトル)でさえ、各々のケースにおける実践上のブレを完全に抑制する(同一の抽出状態をトレースする)ことは難しいとされる中…

    「複数のベクトルを合成した結果としてのマーカー移動」について、それを意図した通りに達成する、あるいは同一の過程をトレースすることは、非常に困難な試みと言えます。

    これが、「抽出の複雑さとは何か?」という問いに対する回答として、現時点で最も正確な(既存のコーヒーの理論体系に準拠した)表現方法です。

    そして、そこから導かれる結論は、「私たちは高度な調整方法を確実、かつ迅速に実践したり、共有したりするための知識も手段も持っていない」ということです。

    私たちがこれに対処する手順としては、好むと好まざると、「試行錯誤:総当たりプロセス」しか選択肢がないという現状を反映するものでもあります。

    「高度な調整方法の構築」という、現在の理論体系の空白を埋める作業は、私たちに残された大きな課題の一つです。

    この事実認識が曖昧なままに放置され、解決すべき課題として明確に提示出来なかった点こそ、抽出理論・技術(ノウハウ)の発展や普及が阻害されて来た主たる原因と言えます。

    なぜなら、複雑な相互作用を内包している抽出の仕組みには、何十年もの間、理解が進んでいない関係性や、統一的な言語化・可視化がなされていない現象が、未だ多く残されているからです。

    近年でも、様々な豆や器具や手法が登場してはいますが、あくまでも、それらは既存のノウハウという枠組み内(パラダイム)に存在するパラメーター(変数)を加減することで、ほぼ無限に生み出すことすら可能なバリエーション(多様性)の一つと言えます。

    ただし、その既存の枠組み内に未知の課題を解決するパズルのピースは含まれていない、という意味で、ここで言うところの発展や革新に当たる”答え”は世界を見渡したとしても見つかりません。

    ※既存のノウハウかそうでないかにかかわらず、世界中の人々の手によって理論や技術、ひいては品質の改善が日々行われていることを否定する主張ではありません。

    日常的な感覚では認識しづらい領域について知れば知るほど、「レシピ調整の不安定さや説明の曖昧さといった形で現れる、抽出のブレという障壁は、今なお私達の前に立ちはだかったまま」という事実が浮き彫りになります。

    上図は、まず障壁の形(問題)を可視化するという、私たちが認識可能な形式に置き換えるための手段であり、その克服に向けたはじめの一歩です。

    関連記事:濃度がブレない抽出レシピの作り方① -ハンドドリップのデメリットと対処法を知る

    関連記事:AIコーヒーってどうなの?

    ブリューレシオが招きやすい誤解と注意点

    アプリの計算結果には、よく似てはいるものの異なる2つの比率が示されています。

    • ドリンクレシオ:粉量と抽出量(出来高)の比率
    • ブリューレシオ:粉量と注水量(投入量)の比率
    • 吸水量:注水量 – 抽出量 

    ※いずれも単位は質量(g)

    抽出方法によっては、抽出量や注水量をはっきり区別して計測出来ない場合や、計算したい内容によっては、その差分(吸水量)が重要となる場合があります。

    何気ない会話の中では、ちょっとした言い回しや発音の違いだけでも、その意味するところが曖昧になりやすい言葉です。

    時として、味わいの印象を大きく左右する要素に当たるので、混同しないように注意しましょう。

    また、チャート右上には小さい文字で「注水量:1Ⅼ=963g・抽水温度:93℃」という記載があります。

    水1Lの重さは1000gでは?という疑問を持たれる方もいらっしゃると思いますが、その値は「水温4℃:1ml/1g」を根拠として日用の範囲では支障ない程度に簡略化された表現です。

    水は温度が高くなると質量当たりの体積が大きくなる(密度が低くなる)ので、本来は一気圧93℃時の質量は963gであり、その値を用いていることが明示されています。

    体積ベースの測定値を用いる場合、目盛りが正確な容器を使っていたとしても単位変換の際には注意が必要です。

    学術的な研究においては、抽出をはじめとする実験、計測、論証などの施行条件には必要に応じて科学的に客観的かつ正確な値(方法)を用いるということが最低限の前提となっています。

    ブリューレシオラインは、そういった科学的に正当な条件を整えることによって得られた結果(データ)から導かれていることから、「物理的な法則性」を示しているということが言えます。

    そして、確かな法則性を持つということは、導かれた式に従がって逆算する(あるいは予測する)ことも可能ということなので、チャート上に記載のない条件についても具体的な値を読み解くことが出来るようになります。

    例)

    • ブリューレシオ ⇒ 1:17 = 粉量:963
    • 粉量(g) ⇒ 約57g
    • 推定抽出量 ⇒ 867g (78℃ ⇒ 水密度0.973g/ml ⇒ 約0.89L ) 
    • ドリンクレシオ 1:15
    • TDS:収率 ⇒ 1:15.6 (レシオラインの角度を表す)

    このように、上記フォームとは逆の計算手順を踏むことで、ブリューレシオの値を元に粉量や抽出量を導き、およそのTDS・収率と風味傾向まで予測するということも論理的には可能です。

    理論というものは、利害関係のない第三者の検証による裏付けが可能であり、どこで誰がやっても結果が同じになる(普遍性を持つ)という事実を持って、信頼性が担保された共有財産となります。

    理論と論説の違い

    • 誰かの主張する根拠の希薄な経験則や仮説(検証不足)
    • メディア上の解説などでよく見られるホームズ&ワトソン形式の問答記事(決まった結論に誘導する予定調和型の会話)

    ここに明確な差異がある限り、情報源として利用する際には線引きが必要とされる境界の一つと言えます。

    しかし、実際の場面で濃度計測まで行うケースはごく稀であり、そもそも濃度計をお持ちでないことの方が普通です。

    当然ですが、上記のような線引きを日常のコーヒーシーンにまで持ち込むような真似は煙たがられるものです。

    むしろ、日常に溶け込むことが求められるコーヒービジネスにとっての科学は、時に「理科の実験みたい」と評されるイメージほど、相性が良くない領域であることは否めません。

    実際、日本のコーヒーシーンで科学の領域が表舞台に立つことは非常に稀です(理科の範囲でやっと)。

    なので、ブリューレシオという言葉に触れるのは、上記の逆算手順を元にした「分量の比率計算だけで抽出結果(濃度感)についてのおおまかな予測を立てる方法の解説」となる場合が多いのではと思います。

    しかし、ブリューレシオを起点としたレシピによる結果からは期待ほどの一貫性や再現性が得られない、というケースを体験されている方もまた多いはずです。

    なぜなら、ある程度の水準まで(レシピのベース作りまで)は有効なチャートの使い道の一つに過ぎず、異なる条件が抽出過程に及ぼす影響について多くを語るものではないからです。

    濃度や収率の測定結果は、ブリューレシオという一つの初期条件によって決定されるものではない

    例えば、コーヒーに携わっていると、「黄金比」とか「ゴールデンカップ」といった感じの”魔法の言葉”を耳にする機会もあると思います。

    それらの多くは、あくまでもワンフレーズマーケティングと呼ばれる販売戦略の類です。

    何が狙いかと言えば、濃度や収率が原理的に不安定で予測困難な値であり、「あらゆる抽出条件(生豆・焙煎・鮮度・方式・器具・挽き目・分量・温度・時間・圧力・環境など)の相互作用を一つ一つ積み上げた結果」というややこしい事実から、私たちの目を反らすこと、あるいは分かりやすい目安を提供することです。

    レシピにおいて固定のレシオが示されている場合、一見は便利で万能なものに映るかもしれません。

    しかし、「与えられたゴールだけを先取りし、積み上げ過程をすっ飛ばす対処法」という意味では、本質的な理解も汎用性も伴わない解決手段(コンシューマー向けビジネスの常とう手段)と言えます。

    その最たる事例が、「透過式のレシピで杯数を変える際、固定のブリューレシオを用いて(レシオラインに沿って)算出された分量を用いてもTDS濃度が安定しない」という、抽出の物理的な構造上避けられない複雑性の障壁に、いとも容易くぶつかってしまうことです。

    再現性を高めるためにブリューレシオという数値を御旗として掲げたはずなのに、それに固執するほど再現性から遠ざかって行く、という自己矛盾に陥いる

    この矛盾(ワンフレーズマーケティングの弊害)については、よほど抽出に精通した方でないと適切に対処することはおろか、その存在を認識することさえ難しい関係性だと思います。

    例えば、これまでのコーヒーレシピが、「指定された杯数でしか通用しない(杯数が変わると風味バランスが崩れてしまう)」という物理的な制約に縛られて来た理由とは…

    「それぞれの要素がどうつながっているのか?」という全体像(体系的な理論)を持たないまま、パズルのピースを手探りだけで当てはめようとしている(試行錯誤)状態であることが、そこに反映されるからです。

    まとめると、1つのレシピを元にした複数の抽出結果をチャートのような直線的な比例関係に沿うようにコントロールするためには、レシオ以外の条件についても物理的な法則性に則って調整しなくてはならない、という結論になります。

    そして、その方策こそが世界中のコーヒー愛好家が長年に渡って追い求ているものの一つですが、このチャートにそこまでの全体像が示されている訳ではありません。

    それもそのはずで、このような研究内容は科学の基礎、言わば入口についての話であり、「コーヒー抽出」という現象を司る法則性に触れるためには、理論的にも技術的にも別次元の領域まで踏み込んで行く必要があるからです。

    「抽出条件の調整に当たって、事前に正確な予測結果に基づいた精度の高い条件設定を行うことが困難」という私たちの現状は、コーヒー抽出に関わる要素全体を網羅する科学的な理論が未だ確立していないことを裏付ける証左の一つです。

    ※世間には、コーヒーのコツや定説といった形で広まっている理論や対処法が多数あります。

    それらの大半は、比較的に強固な経験則(何十年も前に先人たちが築き上げたもの)を断片的にツギハギしているだけです。

    いざ、理論上の整合性や実践上の再現性が疑問視され、真摯な検証に掛けられる機会があれば耐えられない(どこかで破綻してしまう)事例も多々含まれています。

    以下に具体例を挙げますが、それらには精度の不十分さや誇張表現が含まれるというだけで、全て間違いという訳ではありませんし、日常に求められる対処法としては必要十分だと思います。

    経験則の一例:杯数を増やす⇒レシオから算出した値よりも粉量を「少し」減らす・挽き目を「少し」粗くする、といった濃度を下げるための微調整

    ある要素の比率を◯:△にすると、誰にとっても必ずおいしいコーヒーが出来る、など

    参考🔗多くのエンジニアの説明は伝わらない。伝えるのが上手な人が実践している「説明の型」5つ

    数値化によって求めるものとは?

    コーヒーの濃度については、基本的に液体であることと成分の体積が不明であることから「質量パーセント濃度」で表されるのが通常です。

    • 質量パーセント濃度(%) = 溶質質量(g)  ÷  溶液(溶質+溶媒)質量(g) × 100

    なので

    • コーヒー濃度(%) = 成分量(g) ÷ 抽出量(g) × 100

    また、水や抽出液の分量については、水の密度「1g/㎤=1g/ml:4℃」に基づいて簡易的に表されます。

    コーヒーの世界では、プロの仕事を含むほとんどの場面において簡便な計算で事足りる範囲の事象しか扱わない、という姿勢が状態化しているので、風味評価に比べ、数値や理論上の細かなズレについて問題視する習慣はありません。

    「コーヒーは数字じゃない」といったような思いや立場が存在し、それだけでも十分に成り立つ広い裾野を持っている分野であることは確かですが、「コーヒーの中で起こっている物理現象を追究する」といった目的や立場が存在し、この分野にとって不可欠なこともまた事実です。

    情報共有に当たっては、「物事の捉え方や価値観といった基準が皆同じとは限らない」という前提に立つことが大事ではないかと思います。

    もし、これまでのコーヒー業界が物理現象を重視する立場だったとしても、より普遍的な理論と高度な技術を土台として日進月歩している分野はこの社会にいくらでもあるという意味では、先進的と言える要素はかなり少ない方だと感じます(最先端を謳いながらも「枯れた技術」しか使われてないケースが多いため)。

    「コーヒーについてどのように認識したり表現したりするのか?」という議論に際して、そこに数値を用いることが適切かどうかは、あくまで、「精度の水準をどこに合わせるか」いうわずかな立場の違いによるところだけだと思います。

    その水準を少し上げると、言葉の定義や要件に従がって上記レシオラインに関する計算で行ったような内容まで考慮する必要が出て来るということになります。

    濃度には計測する単位によって様々な表し方があるということもその一つです。例えば、体積単位であれば「体積パーセント濃度(%)」、物質量単位であれば「モル濃度」など。

    上記の場合では、体積と質量の関係を表すために「密度(g/Ⅼ)」を用いていますが、液体や気体の体積は温度(と気圧などの圧力)によって変化することも考慮すべき内容に含まれています。

    濃度という情報を扱う際には単位表記に気を付けないと言葉の意味や値にズレが生じてしまう恐れがあります。

    その上、TDSとBrixの換算値(0.79~0.85辺り)や濃度計の温度補正に関しても近似値や不統一な方法が用いられているので、そもそもの前提から、コーヒーの濃度についての計算や情報共有に多少の誤差を含むことは避けられないということを認識しておく必要があります。

    コーヒー抽出プロセスを探究するための現代的な手法においては、コーヒー豆や水や器具類といった物体の運動と性質、および、それらの測定あるいは検証技術についても分野の壁を越えて深く学んで行くことが欠かせなくなって来ています。

    ただし、その目的は「細かい数値や表現の違いを追い求めること」ではなく、「コーヒー抽出という複雑で動的なプロセスの再現と共有についての可能性の模索」ではないかと思います。

    そして、それ以上は求めることが難しい対象(自然の産物)を扱っていることを胸に留めておけば、商品あるいはノウハウについての誇大広告や自前の経験あるいは理論の中だけで、堂々巡りの迷い道や底なし沼に誘い込まれてしまうような事態も避けられるようになるのではと思います。

    関連記事:濃度がブレない抽出レシピの作り方③ -工程レシピを計算によって導出する

    関連記事:おいしいコーヒーの淹れ方は?応用編① -「圧力」が抽出の謎を解く鍵

    ゴールデンカップとは?

    SCA(スペシャルティーコーヒー協会)では、コーヒーの中でも「スペシャルティー」という分類に該当する品質とは何かを明確にするため、製造に関わる主な項目ごと(生豆の生産段階だけでなく焙煎・抽出・器具類など)に、その目安となる要件をまとめた標準規格(Standards)が定められています。

    現在のコーヒー業界は多かれ少なかれ、この大きな方針に従って形成されたものへと変容して来ています。

    🔗SCA : Heritage Coffee Standards

    「ゴールデンカップ」とは、ペーパードリップに代表されるプアオーバーやフィルターコーヒーに分類される抽出方式について(主にエスプレッソ式と区別される)、その標準規格を満たしたコーヒーのことを指しています。

    ゴールデンカップの要件

    • TDS(1.15~1.35%)& 収率(18~22%)
    • Brew Raito (Coffee to Water Ratio)⇒ 1:17前後 55 g/L ± 10%

    チャート内Ideal Zoneの中心付近を通るラインを追ってみると、1:16から1:18という値につながっています。これらの関係性を根拠として上の値が導かれているようです。

    ※誤解や曲解を招きやすい点を挙げておきます。

    世界中のコーヒーに関する基準や捉え方、ひいては各国や地域ごとの規格や社会制度に至るまで百花繚乱といった時代が長く続いて来たこと。

    そして、それを大きな原因の一つとして世界規模でのビジネスや情報共有についての問題(生産地での奴隷制に近い仕組みを含む)を多く抱えることとなり、健全な発展が阻害されていたことも認めざるを得ない事実です。

    コーヒー業界の抱える暗い歴史を払しょくするため、「SCAでは基準やルールを示す場合にも科学的な根拠を尊重する立場を取る」という意味合いが含まれていることを象徴的に示す値となっています。

    もちろん、SCAという組織の活動を幅広く伝えるためのキャッチコピー的な意味合いも含まれているとは思います。

    しかし、こうした経緯を踏まえることなく安易に、「完璧・最高・究極のコーヒー」であるとか、「この範囲でなければならない」といった風に、ありとあらゆるコーヒーに共通する絶対的な評価基準やルールであるかのように喧伝することによって排他的な拡大解釈を促進する向きはふさわしくない(本末転倒)、ということにご留意頂ければと思います。

    コーヒー抽出の指標化の発展

    このチャートはアメリカのコーヒー研究所(The Coffee Brewing Institute)の所長アーネスト・アール・ロックハート氏によって1957年に発表された正式な論文から抜粋されているものです。

    🔗The Soluble Solids in Beverage Coffee as an Index to Cup Quality

    TDSや収率という指標による分析手法は、水質や食品の検査で用いられて来た古典的なものですが、70年ほど経った現在もコーヒー抽出についての科学的な基礎を示す研究として有効性を保っており、SCAをはじめとする世界中のコーヒー関連団体などで広く活用されています。

    最近の研究によって、濃度と収率の2次元軸だけでは表現や評価の指標としては十分ではなかった要素についての補完が進められています。

    特に、近代の精密な機器や分析法を用いて発見された成分や官能試験に基づいて製作された「コーヒーフレーバーホイール」に代表される繊細な風味特性との関連性を見出すべく、コーヒーに特徴的な「苦味の強度」という味覚軸を追加してバージョンアップされた3次元チャートが発表されています。

    ※フレーバーホイールについては、次のブログ記事で見やすいものがご紹介されています。

    🔗山と珈琲、心の一杯:SCAAの新しいコーヒーフレーバーホイールを日本語に翻訳してみた【印刷用PDF付き】

    3Dチャートと新たに得られた官能試験の結果を組み合わせることで、抽出状態と苦みや甘み、酸味といった味覚と抽出の関係を、より多角的に読み取ることが出来るようになったとのことです。

    そして、「Ideal Zone」や「Under/Over」という表現には、その統計の元となったサンプルの品質や時代、および地域的な背景が反映されている可能性や、時代を経て発展を遂げたコーヒーの多様性との齟齬について疑問が投げかけられていた所もあるためか、品質の可否について示す指標は用いなくなったようです。

    🔗3D Coffee Brewing Control Chart 2021 by SCA

    ただし、「苦みの強度」をはじめとする味覚情報の数値化については、この研究で行われた試験と同様のコンセンサスを得るための前提条件と環境(あるいはルールとそれに則った訓練)が必要になるため、誰でもどこでも同等の精度を持つ値が得られるというものではありません。

    風味の表現や評価の方法において常にボトルネックとなるのが「客観性の担保」です。

    それを得ることはコーヒーの世界でも最も難しいことの一つに当たるので、現在も3次元バージョンは傾向を把握するための参考資料として用いられることが多く、実践的な場面では可視化や計算が容易な2次元バージョンが用いられることが多いようです。

    コーヒーを様々な角度から「味わう」ためのツール

    今回の記事は、「何度も同じ計算するのは面倒だなあ」という個人的な動機から、BingAI(ChatGPT3.5?)を使って計算とグラフ作成を自動化するスクリプト(java)が出来るかやってみた、というストーリーが本筋です。

    コーヒー分野においても時代や技術の変遷に伴って新たな捉え方が芽生えることがあります。ChatGPTのようなAIを始めとするコンピューターサイエンスと工学技術の進歩がすでに次の潮流を生み出しつつある現状から、その活用方法を学ぶ機会にちょうど良さそうと思っていたのですが…。

     想像以上にAIの対話力が凄すぎて、プログラミング素人の私でも簡単なコーヒー用計算アプリくらいの機能を持つものが一日(そのうちプロンプト≒適切なお願いを考える時間が99%)も掛からず出来てしまったので、無料で公開することにしました。

    他の抽出条件や計算結果の保存にも対応することなどなど、また何か思いついたらバージョンアップして行こうと思います。

    ちなみに、計算式自体は単純明快で難しいものではないので、最低限の記録や計算機能に限れば、専用ソフトやAIを使わずとも既存の表計算ソフトで十分なものが作れます。

    例えば、スマホを始めとする特定機器の専用ソフトにはありがちなことですが、データファイルの入出力機能がなかったり、独自の保存形式が用いられていたりすることで、「その機器を変えたらソフトはおろか保存しておいたデータまで使えなくなってしまった」みたいな経験をされたことはないでしょうか?

    そのような残念な事態を防ぐためにも、標準的な形式で保存・閲覧出来ることは大事なポイントと思います。

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    当店では、「コーヒーをもっと楽に」というコンセプトの下、これまでにないアプリやデバイスの開発をはじめ、コーヒー体験の向上に日々取り組んでいます。

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    現在は非公開ですが、より多様なアプリ・高度なモデルを搭載したバージョンの準備も進んでいます。

    当店の運営形態は一個人事業であり、研究開発・マーケティングの規模を拡大して行くためには、ご賛同頂ける方からのフィードバック、ノウハウ、資金面をはじめとするご協力が必要です。

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