フィルターの役割
コーヒーフィルター最大の役割は、抽出液と粉を分離することです。
その理由は、コーヒーを飲んだ時に細かい粉が混ざったままだと、口の中のざらつきが味わいを大きく損ねるからです。
そこまでは共通の前提として…
おそらく、皆さんがご興味を持たれているのは、以下のような疑問の答えではないかと思います。
フィルターはコーヒー抽出液の風味に対し、どのような効果を与えているのか?
フィルターの効果について客観的な理解を深めるためには、「コーヒー抽出の過程では何が起こっているのか?」という根本的な疑問に立ち返り、順序立てて話を進めて行く必要があります。
何事においても、根本的な仕組み(原理)に踏み込むことなく、各商品、各ケースにおける表層的な変化を撫でるのみでは、真に有用な情報を得ることは出来ないからです。
まず、コーヒーの抽出過程を大きく分けると、以下の3段階に区分されます。
- 水の浸透
- 成分の溶解
- スラリーの濾過
①と②の工程は、コーヒー粉に含まれている成分を水に溶け出させるために、ドリッパーなどの容器内で水と粉を混ぜ合わせる工程を指しています。
そのようにして、液体と固体(+気体)が混合状態になったものをスラリーと言います。
そのコーヒースラリーをフィルターに通すことで、コーヒー水溶液だけに狙いを絞って取り出す過程が③の濾過に当たる工程となります。
濾過(フィルタリング)とは、ごちゃまぜの塊から特定の要素のみをふるい分ける仕組みのことです。
また、フィルターを日本語に訳すと「濾材(ろざい)」です。
もし、コーヒーフィルターとは、それぞれのコーヒー豆の持つ特徴や風味を損なうであろう成分を自動的に選別し、その時の自分が求めていない要素を100%取り除いてくれるものだったとしたら、まさに理想的と言えます。
しかし、そんな魔法のような特殊能力とはかけ離れた、ずっと単純で大雑把な仕組みによって成り立っているのが現実です。
なので、コーヒー抽出における濾過とは、「どんな仕組みで、どんな現象が起こっているのか」について知ることが、抽出という過程でフィルターが果たす役割と、その結果として生まれる風味との関係を理解することにつながっています。
言い換えると、魔法(ブラックボックス)は上手く扱えない普通の人だとしても、全体のプロセスを理解すれば、フィルターを使いこなして抽出をコントロールする術は身に付けられる、ということです。
3つの要素が持つ粒径(メッシュ)
私たちの普段のコーヒーの楽しみ方では、濾過によって取り出されたコーヒー抽出液の風味について吟味しますので、ここで問うべきことは以下の二点です。
- (あなたが)コーヒースラリーの中からフィルターを通したいものと通したくないものは何か?
- (フィルターが)何を基準に通すものと通さないものを区別しているのか?
一般的なコーヒー関連の情報において、これらの基準ついて詳細かつ包括的に解説されたものは存在しません。
そのため、「狙いを絞ろうとしてもピントがぼやけてしまう原因がフィルターにある」というケースへの理解と対処法は、コーヒー愛好家さんたちの間でも共有しにくい情報となっています。
少なくとも、これら二つの柱(好みと道具)を合致させることは、狙いの風味を実現するために不可欠のステップです。
粉(個体)と抽出液(液体)を選別する固液分離の基準は「それぞれの粒子の大きさ」です。
粉の大半は目に見えるほどの大きさなので粒子として認識しやすいですが、抽出液を構成する水や成分も「分子」という細かい粒子の集まりと捉えると分かりやすくなると思います。
抽出を左右する3つの粒径(メッシュ)
- コーヒー粉:
コーヒー豆がミルによって粉砕される際、粉となった粒子の大きさにはバラつきが生じます。
ミルのダイヤルで設定したサイズよりも粗挽きに寄ったものから、細挽きに寄ったもの、パウダー状までになった微粉、目に見えないほどの繊維質まで、意外と広い範囲のサイズが含まれています。
粒子の大きさのことを「粒径(メッシュ)」と言い、そのバラツキ具合のことを「粒度分布」と言います。
- 成分:
コーヒーに含まれる水や風味の素となる物質の多くは、「分子」という単位で構成されています。
コーヒーに限らず、私たちの住む世界にある物質の多くもそうです。
分子は、さらに小さな原子の集まりですが、原子は1つだけだと不安定な状態なので、なんとかくっついて安定した状態になろうとするからです。
様々な原子の様々な組み合わせによって生まれる分子は、さらに多様なサイズや形状を持ちます。
各成分の風味をはじめ、各分子は種類ごとに様々な性質の違いがありますが、水分子との相性という性質の違いが、水中での各成分の形態(水への溶け方)の違いとして現れます。
例えば、分子がプラス基とマイナス基に電離した状態のイオン、親水・疎水基を持つ分子が寄り集まったコロイド、同じ種類の分子が鎖状につながって大きな塊となった高分子などの形態があります。
この記事は、主として粒子サイズ(メッシュ)にフォーカスを合わせたものですが、補足や関連事項の中で、それらの違いも解説して行きます。
- フィルターの隙間:
フィルターは、主に植物や石油、土、金属などの素材を加工し、細かい塊や細長い繊維状にしたものを絡み合わせた生地から作られます。
このような生地が持つ無数の隙間の大きさのことも「粒径(メッシュ)」、もう少し厳密な表現では、「網目・目開き」という言葉が使われます。
織機など製材・製造装置の精度によって、フィルターのメッシュはそれぞれの製品で異なり、そのバラつき度合いにも一定の幅があります。
フィルターの効果が生まれる仕組み
もし、コーヒーの粉と成分と水が、それぞれに決まったメッシュだったなら、フィルターのメッシュを成分と水は通ることが出来て、粉だけが通れないサイズに合わせるだけで、狙い通りのろ過装置(ドリッパー+フィルター)が簡単に作れるでしょう。
しかし、ろ過に関わる3つの要素ともに、メッシュには大小のバラツキがあるという事実を元に考えた場合、「完璧なろ過装置を作る」という試みは、果たして簡単なことと言えるでしょうか?
これが、一般的な抽出器具を使ってコーヒーを作る際、「フィルターを通す粒子を、おいしいとされる種類やサイズの成分だけに限定しよう」と試みたとしても、そう簡単には実現出来ない理由です。
ろ過分離の本当の難しさと面白さを知るには、コーヒーという分野だけでしか通じないセオリー(多くは経験則に基づく定説)ではなく、化学や工学という分野の歴史から学ぶ方がおすすめです。
それらの学問分野には、複雑な物質の性質や働きについてより正確に捉えたり、扱ったりするための言葉や手段が人類共通の資産として体系的に蓄積されているからです。
※それが面倒だから、大半の方は表面的なセオリーに終始する、というのも自然の成り行きですが…
その先を目指す方にとって、ステップアップの道筋(学問的・教育的カリキュラム)が貧弱過ぎることが、現状の大きな課題の一つだと思います。
その中には、「ろ過というプロセスにおいて、何がどれくらい通れるのか」を表す「透過率」という言葉があります。
例えば、「このメッシュのフィルターを通した場合、10μm(マイクロメートル)ほどの大きさの粉や成分であれば、およそ50%ほど通るだろう」といった感じで、3つの要素が重なり合うサイズの範囲( 境界領域)や、粒子が通過する平均的な確率を明らかにしたい時などに使われます。
しかし、これらの計測値や推定値を得るためには、高度な分析技術と設備を備えた専門機関での検証が必須であり、常人が感覚とわずかな体験から導き出した答えが通用する領域ではありません。
本来、ミクロな領域を扱う際には上記のような精密さが要求されるので、多くの方が「職人的な経験と勘」に憧れを抱き、そのイメージだけを頼りに成分の抽出をコントロールしようと試みたとしてもほとんどの場合は失敗に終わる、というのも道理にかなった結果と言えます。
現状と仕組みについて整理した上で、問題解決の方策を探ってみると、問うべきことがより具体的に見えて来ます。
- 境界領域に当たるメッシュとはどれくらいか?
- 境界領域に当たる一部の粒子とは何か?
- ある粒子の透過率によって、風味にはどのような変化が生まれるのか?
これらの疑問についての答えがフィルターの効果であり、お好みや目的によって様々なフィルターを使い分けたい場合に求めるべき情報になります。
また、ものによっては使い勝手が異なるということも、ご選択に当たっての大きな理由になると思いますので、扱い方も含めたフィルターの種類と効果についてのまとめをご紹介して行きます。
ドリップって奥が深い? - フィルターで分離してみる
スラリー(液体と固体の混合物)を分離する方法についても様々な種類があることを例に挙げて解説してみます。
フレンチプレスやトルココーヒーなどの古典的な浸漬式抽出方法では、「上澄みをすする」という飲み方をすることがあります。
そのような飲み方が可能な理由は、物質の種類ごとに「比重」と呼ばれる性質の違いがあるためです。
- 沈殿:比重(水に対する粒子の浮きやすさ)という性質の違いを利用した物質の分離方法
- ろ過:粒径(粒子の大きさ)という性質の違いを利用した分離方法
この記事では、抽出方式として一般的な透過式の仕組みにフォーカスしているため、浸漬式の主要原理に当たる沈殿法には触れていません。
しかし、厳密に言えば、ペーパードリップをはじめとする透過式の過程でも、比重という性質の違いが「白い泡や粉の水中での動き方」として目に見える部分に表れています。
また、重さや形といった代表的な性質の他にも、電気的な性質(電荷)を踏まえ、様々な化学反応を利用する分離方法(凝析・塩析)などもあります。
私たちの認識というフィルター
スラリーの状態を良く見てみると、あらゆる抽出方式には「半透過式」もしくは「半浸漬式」と呼ぶ方がふさわしい抽出過程が含まれているということが分かります。
元来、コーヒー抽出という現象は、複合的(ハイブリッド)で曖昧な要素を多々含むものです。
その見方や呼び方が変わったり、手法(メソッド)として整理されたりすることで、私たちの捉え方(認識)や評価が変わるといったことは、変化する時勢の中では度々起こることです。
しかし、抽出過程で起こっている基礎的な物理現象が変わっている訳ではありませんし、それを変えるようなことは、どんな人や力であっても出来ません(普遍)。
何より重要なのは、最も基礎的な物事の成り立ち方を軸として捉えることです(ビジネスをはじめ対人関係は除く)。
「コーヒーは奥が深くてよく分からない」となってしまう理由
その代表は、無数の要素がごちゃまぜ状態のコーヒースラリーから、物理的には存在しない「特別な何か」を、無理矢理に導き出そうとしてしまうことです。
例:私たちが感じたり、誰かに与えられたりする付加価値や体験(極上の味わい、唯一無二の正解、世界一のおいしさ、etc)
人の主観的な価値判断を分離フィルターの一種と考えてみた場合、それはまさに変幻自在で、何を通し通さないかという基準は、杓子定規のように定まっているものではありません。
コーヒーと同様、私達が導き出す判断や評価には、その自覚のあるなしとは関係なく、「各々の、あるいは集団共有の認識というフィルター(偏見や色メガネと呼ばれるものも含む)」の影響が色濃く反映されているということです。
そもそも、対象の材料や製造過程についてよく見えていな時点で、抽出の最適解を求めたり、最終的な価値判断を下したりする段階からは程遠い場所にいる、という立ち位置を無視する訳にも行きません。
さもなければ、そのような試みは、「何の道具も命綱も持たないまま、自ら底の見えない穴に飛び込むような無謀な挑戦」となってしまうからです。
上記は、コーヒーにしては大げさな例え話の一つに過ぎませんが、私たちの日常に潜む同じタイプの落とし穴は、決して架空でもレアでもありません。
抽出工程では、様々な粒子のそれぞれに異なる性質によって複雑な現象が起こっていることは確かです。
それは、「情報のスラリー(混合物)」とも言える状態なので、私達の認識能力では正確に扱うことが難しい(ミスをおかしやすい)対象です。
そんな時は、明確にしたい情報に合わせて、個々の要素を適切に濾過(フィルタリング)することで、見えやすい状態にしてから観察してみましょう。
その後、それらがどのようにつながっているのかという関係性を紐解いて行きます。
例え無理矢理であっても、人が何らかの答えや価値や表現を求めて止まないのは、自身の心の隙間(心理的な不安や不満)を埋めるためである場合がほとんどですが、そのパワーは偶像に偶像を重ねた「砂上の楼閣」さえ、いともたやすく築き上げる程に本能的で衝動的なものです。
もし、その隙間をつなぐ堅牢で理路整然とした道が見つかったとしたら、ずっとスッキリと安心した気持ちでコーヒーを楽しめるようになるのではないかと思います。
抽出とは何か?
朴訥とコーヒー哲学を語りはじめそうなほど字面がかっこいい疑問ですが、ここでは端的に、用語の意味について整理してみましょうという意味です。
コーヒー分野において、「抽出」という言葉は「豆からコーヒーエキスを取り出して一杯のカップにサーブされるまでの全ての工程をまとめた総称」として使われています。
しかし、本来の意味はもう少し具体的で、「混合物に特定の物質を溶かす作用のある溶媒を加えて溶質を分離する操作」とされており、物質ごとの溶解度の差を利用して成分を分離する方法を指します。
つまり、「コーヒー抽出(Coffee Brewing)」とは、「本来の抽出(Extraction)」のみを指すのではなく、その他の工程や分離法、サービスが組み合わされた一連の提供工程を表す業界用語ということです。
※「Brewer’s Cup」というコーヒー抽出の世界規模の大会がありますが、その競技内容は「抽出者(Brewer)が選考員(お客様)に対してコーヒーサービスを提供する」というプレゼンテーション形式を取っていることにも、抽出にはサプライヤーとしての総合的な視点が反映されている事実の一端が垣間見えます。
なので、コーヒー抽出の中身は、「各々で材料も異なれば、フィルターを含む器具類や工程も異なるというごちゃまぜ状態」となっています。
”そこで何が起こっているのか?”
この疑問について改めて問い直そうとした場合、一般的なコーヒー関連や理工系の知見を持っていたとしても、なかなか対象を絞り込めない(捉えどころない)ため、感覚的な判断として”奥深い”とか”芸術的”と表現されがちなものに映ってしまうのは無理もないことと思います。
ただし、その認識(フィルター)のままでは、「幻想」と「実態」を分離出来ない問題を抱え続ける、という意味でもあります。
もちろん、元々の目的が幻想を追い求めることだったとしたら、当Q&Aの方が余計なお世話、あるいは無用の長物と言えます。
コーヒー抽出液の作成工程
- 抽出工程:コーヒー豆・粉(混合物)から水(溶媒)に溶けやすい成分(溶質)を水溶液として取り出すこと
- 分離工程:濾過分離⇒コーヒー粉(個体)とコーヒー抽出液(液体)の混合物を特定の粒子サイズ以下が通る濾紙を通して分離し、コーヒー抽出液を取り出すこと
抽出方式によって異なる分離方法の違いについてまとめると、以下のような関係となっています。
- 濾過:粒度の差 → フィルター
- 沈殿:比重の差 → 浸漬 > 透過
- 抽出:溶解度の差 → 透過 > 浸漬
成分の分離方法には、それぞれの目的に適した様々な種類があり、生産から一杯のカップになるまでの全ての工程を通じて欠かすことの出来ないプロセスです。
コーヒー分野の言葉には本来の意味とは異なったり、混同されたりした形で慣習的に定着してしまっているものが多々あります。
この問題が、「抽出」という現象を理解したり、その情報を伝達したりする上での障壁を生み出す原因や、論理の核心部分になるにつれて精神論や感覚的な想像で覆い隠されてしまう(ブラックボックス化が促進される)という不毛な風潮から脱却出来ない原因となっているため、当店の解説では、その点にも出来るだけ配慮しているつもりです。
言葉やイメージ(印象)に惑わされないこともコーヒーについて学ぶ上で大事なことだと思いますが、もっとストレートに表現すれば、「目の前の現象そのものを捉えること」が何よりの近道と思います。
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フィルターの仕様
素材
ろ過という成分の分離方法では、「フィルター(ろ材)」の素材によって透過する成分が変化するため、風味にもその影響が現れます。
フィルターの基本的なろ過性能は生地のメッシュ(網目の大きさ)と数で決まりますが、もう少し細かい所まで言及するならば、生地そのものの成分吸着力にも着目する必要があります。
吸着力の強い素材:植物製の繊維、土
代表的なフィルター:ペーパー系・ネル系・セラミック系
植物の繊維や、それを加工した糸の構造を顕微鏡で観察すると、その一本一本にメッシュサイズよりさらに細かい凹凸が存在し、コーヒー成分くらいの細かい粒子が引っ掛かりやすい形状となっている様子が見えます。
土の場合、様々な種類の無機物の粒子が並んでいる様子が見えますが、微粒子スケールでは意外と形やサイズはバラバラです。
そのズレによって形成される無数の凹凸が、高い吸着力を生み出すことになります。
吸着力の弱い素材:石油繊維・金属
代表的なフィルター:ドリップバッグ系・メタル系
石油素材から作り出される化学繊維は、表面が滑らかで凹凸が少ないことから、疎水性が高い、成分の吸着力が低いといった特徴が生まれます。
服の素材の違いを思い浮かべてもらうと、肌感覚で捉えやすくなるかもしれません。
特に金属は、コーヒーに含まれる水や成分を吸着する能力はほとんどない、と言えるほど低いです。
メッシュ(網目)
基本的にスラリーからコーヒー粉を除去することを目的とするコーヒー用フィルターのメッシュ(網目)は、粉の中でも細かい方の粒子、いわゆる微粉サイズ(10μm~100μm前後)に合わせて作らています。
なので、微粉と同じくらいから大き目の粒子は通れず、それよりも小さい粒子は通れるくらいの無数の隙間が空いた形状の生地が用いられます。
一般的なコーヒーフィルターのろ過の種類は、対象の粒子サイズを10μm以上とする「粗濾過」と呼ばれる範囲に当たります。
ろ過層(厚み)
繊維などの素材が折り重なった生地で作られるフィルターは、幾重もの層によって形成された厚みを持っています。
スポンジやティッシュペーパーなどをよく見ててもらうと、そのような構造が分かりやすいと思います。
粒子から見た場合、フィルターの厚みは通り道の分岐の数と距離に当たります。
層が厚くなるほど、距離が長く分岐の数が多い凸凹ルートになって行くので、粒子が途中で引っ掛かったり、詰まったりするようになります。
全体的に見ると、粒子がフィルターを通り抜ける量と速さは低下します。
フィルターの表面積
この場合の表面積とは、円錐や台形、平底、ひだのあるなしといった外形の面積のみを指す言葉ではなく、「ろ過層の内部までを含む粒子が触れられる部分の面積」という多次元的な意味になります。
フィルターに触れた時にざらざらした感じになっているものが多い理由は、「クレープ」と呼ばれる凹凸を形成する素材や加工法を用いることで、外形は同じでも表面積がより大きくなる、という工夫が施されているからです。
表面積が増えるほど、微粒子が引き起こす口当たりの悪さや、目詰まりによるろ過速度の減衰が抑制されるようになるので、クリーンなコーヒー抽出液を得ることが出来るようになります。
※1:金属製についても、メッシュの異なるフィルターを2枚重ねにしたり、ステンレスたわしのようなごちゃごちゃした形状にしたりすることで、大きな表面積を持つろ過層を形成するための工夫が施されているものがあります。
※2:抽出工程中のコーヒー粉自体をろ過層と捉えることで、意図的に利用するような抽出手法もあります。(滴下式注水法、メロドリップなどの専用器具)
基本的なろ過の仕組みはフィルターでも粉層でも同じですが、フィルターとは別の風味に影響を与える要因として扱わないと情報の混乱を招く元になってしまうので、この記事では割愛します。
フィルターの指標
以上の3点を総合すると、フィルターの重要な指標は粒子の通り抜けやすさ、ということが言えます。
水の粒子(分子)サイズは非常に小さいので、吸水される分を除けば、大抵のメッシュ(網目)は通り抜けます。
しかし、コーヒー成分・粉の粒子は大小様々なので、フィルターのわずかな仕様の違いによって境界領域が変わることで、使用する素材や製品ごとに通り抜けられるものと通り抜けられないものは、少しづつ異なる結果となります。
どれくらいの粒子サイズ、速さ、量を分離し続けることが出来るのか?
フィルターがコーヒーの風味を変化させる理由は、このような「ろ過性能」の違いです。
境界領域の範囲
コーヒー抽出に適したフィルターの濾過性能とは、どれくらいの範囲なのでしょうか?
普段、私たちがコーヒー粉の挽目と呼んでいるメッシュは以下の通りです。
- 最も細かいケース ⇒ 100~300μm前後(代表例:エスプレッソ式)
- 最も粗いケース ⇒ 800μm~1.2mm前後(代表例:フレンチプレスやネルドリップ式)
そして、コーヒースラリーを構成する水・成分・粉の大小関係について、客観的な基準に則ってまとめてみたものが下の表です。
粒子サイズを表にして見比べてみると、コーヒー粉、成分、フィルターの三要素が持つメッシュサイズが重なる境界領域に当たるものとは、「中サイズの粒子」であることが判明します。
水分子や大きめの粉といった粒子については、ほぼ通る⇒100%、ほぼ通らない⇒0%、という透過率(分離度合い)がハッキリしたので、このテーマにおいては議論の対象から除外出来ます。
感覚的には当たり前のようなポイントでも、確かな数値によって整理した情報を共有しておくことで、「もしかしたら~かもしれない…」といった仮定や想像のループから抜け出せる、という意味で重要な作業です。
フィルターの効果についても昔から議論が繰り返されてはいますが、そこで語られている本質的なテーマについてまとめるとすれば、「中サイズ粒子の濾過性能」という結論が導かれます。
議論のテーマがはっきりした所で、「中サイズ粒子の中にも細かな大小の区分がある」という次の段階に進んで行きましょう。
- 境界領域の範囲のメッシュサイズはどれくらいか?
下記の表から、成分の分子や塊としてのサイズから推測すると、およそ数μm~数十μmという所まで絞り込んで間違いなさそうです。
- 境界範囲に当たる一部の粒子とは何か?
下記の表から、中サイズの粒子に該当する代表的な粒子とは、コーヒーオイル、繊維質、微粉と言えます。
※これらが全てではありません。下記「コーヒーが甘いと感じるのはなぜ?」項で、もう少し詳しく解説しています。
粒子サイズ表
| サイズ | 単位(m) | SI接頭語 | 透過性 | |
|---|---|---|---|---|
| 水分子 | 極小 | 10⁻¹⁰ | A:オングストローム | 通る |
| 成分の大半 | 小 | 10⁻⁹ | n:ナノ | 通る |
| コーヒーオイル 繊維質 | 中 | 10⁻⁹<10⁻⁶ | n~μ:ナノからマイクロ | フィルターの仕様で変わる |
| 微粉 | 中 | 10⁻⁶ | μ:マイクロ | フィルターの仕様で変わる |
| コーヒー粉 | 大 | 10⁻³ | m:ミリ | 通らない |
フィルターをろ過性能という指標で捉える
工業製品として広く流通する商品ともなれば、仕様に極端なバラツキがあっては皆が困るので、その範囲を一定以内に収めることで安定した品質を保つための規定や規格に則って製作されるのが通常です。
その際、粒径や粒度分布、粒子の通過量といった濾過性能についての表し方にもいくつかの異なる方法があります。
工業分野では粒度測定器から得られた計測値や、粒子のランダムな動きをより定量的に捉えるために確率統計という手法を用いることで得られた推定値で示される場合が多いです。
つまり、コーヒーフィルターの効果というテーマについて、より発展的な形で議論を進めるためには、フィルターの濾過性能を示す客観的な指標を議論のステージに載せて行かなくてはならない、ということです。
個人的には、素材やメッシュ、ろ過層の厚み(総表面積)、準拠する規格、共通サンプル使用時の濾過性能を裏付ける具体的な値といった、フィルターという製品であれば至極真っ当な仕様をメーカーさんに明記してもらうことが、「おいしいコーヒーフィルター」にまつわる誤解や混乱を終息させるために不可欠の措置と考えています。
余談:
一般的な定義として、メーカーさんはじめサプライヤー側の多くは、利益追求を主たる目的として運営されるべき会社組織に当たるので、私達個人の誤解や混乱を終息させることを最優先とする責務はありません。
当Q&Aにおいては、コーヒーに関する誤解や混乱を助長しないために、少し専門的な領域に踏み込んだ解説をご提供していますが、店主の個人的な運営方針によるものです。
フィルターの違いによる効果まとめ
抽出される中サイズ粒子の量による効果
1.【微粉・繊維質:少 → 軽め(クリーン)】
【微粉・繊維質:多 → 濃いめ(ざらつき・コク)】
濾過工程を通じた風味形成に関して最も影響度が高い要素
コーヒー粉の中で細かい粒子の割合が高くなるほど成分の収率は上がりますが、同時に、スラリー中の粉と水の流れに不安定な挙動を生み出したり、フィルターの濾過能力を大きく奪うことで濾過速度の著しい低下を招いたりする原因にもなります
3つのメッシュサイズ、抽出時間、風味のバランス関係を非常に複雑なものとし、いまなお一貫した理解と定式化への試みを拒む厄介な要素です
2.【オイル:少 → 軽め(キレ・さっぱり)】
【オイル:多 → 濃いめ(コク・まろやか・芳香)】
コーヒーオイル:生豆が元々持っている油脂成分
その透過率は、あらゆる抽出条件を総括的に捉えた場合の抽出効率が最も高いエスプレッソ式であっても、粉に含まれる量の数十%で、通常の透過式や浸漬式では含有量の数%程度。量に換算しても0.1g単位の微差。
油脂類は炭化水素が鎖状に連なった分子構造を持ち、分子量・サイズとも大きいことから高分子に分類されることもある ※詳細下記
透過式の流量と時間(濾過速度)による効果
3.【メッシュ(目開き):細 → 時間:長 → 濃いめ】
【メッシュ(目開き):粗 → 時間:短 → 軽め】
4.【厚み:厚 → 時間:長 → 濃いめ】
【厚み:薄 → 時間:短 → 軽め】
注水量と時間が同じ場合、フィルターによって通り抜けられる粒子の量が変わるならば、自ずと落ち切るまでの時間も変わるという結果になります。
透過式でフィルターを変更する際には、時間変化による成分溶解量の変化も合わせて考慮する必要がある、ということを意味します。
ドリッパーとの適合と圧力について
フィルターの細かな仕様については、メーカーや商品ごとに異なるため、前項の効果の現れ方についても若干異なった結果となります。
また、ご選択の際は、はじめにドリッパーの形状(円錐・台形・平底など)や推奨杯数(サイズ)の適合をご確認下さい。
- 適合していないと、そもそも使いにくい
- ドリッパーとフィルターの隙間によって液体の流れ方が変わる
ドリッパー内でフィルターの形状が歪んでしまうと、抽出状態に部分的な偏り(抽出ムラ)が生まれやすくなります。
ドリッパーの壁面に対してフィルターが密着している部分は、固体・液体・気体にかかわらず成分を透過しなくなります。
密着部の面積が大きくなるほど、フィルターが密着していない部分(底部の流出口とその周辺)に流れが集中するようになります。
それは、「サイドチャネリング」と呼ばれる、フィルター側面からの抽出液の流出が起こりにくくなるためです。
つまり、密着部分が大きくなるほど、全体としての濾過能力は低下し、目詰まりが起こりやすい状態になるということを意味します。
リブ(ドリッパー内壁の凹凸)の役割
リブの本来の役割とは、フィルターとドリッパーの密着によって起こる、ろ過能力の低下を防止すること
現代においては、「リブの高さや形状によってろ過能力を調整する手法」まで、その役割は拡張されており、その手法に沿ったドリッパーやフィルターも次々に開発されています。
- リブが高い ・数が多い → 濾過速度:早い → 抽出時間:短い
- リブが低い ・数が少ない → 濾過速度:遅い → 抽出時間:長い
ただし、抽出環境が持つろ過能力は、単にフィルターのみで決まっている訳ではありません。
- ドリッパー
- フィルター
- 粉の状態(焙煎度・挽目・粒度分布)
- 注水パターン
これらをはじめとする複数条件の総合的なバランスで決定されるものです。
「どれか一つの条件調整のみで風味に対する決定的な効果が保証される道理はない」という、コーヒーの調理における基礎的な仕組みには注意が必要です。
仕様と効果で魔法(沼)から抜け出す
コーヒーフィルターという商品において、細かい仕様(素材やメッシュや厚み、工法などの製造情報)が記載されているものはほぼありません。
同様に、粉の挽目や粒度分布についても、工業的に世界共通の表記方法が採用されている例は、ほとんど見当たりません。
結論としては、消費者が「ろ過能力」についての客観的な判断を下すために必要な情報は示されていない、というのが現状です。
ドリッパー、フィルター、ミルといった器具類についての議論は昔から盛んです。
各々の商品についての見解や評価は詳細に至るまでもっともながら、「それらの組み合わせを変えた場合はどうなるの?」というテーマに踏み込もうとした途端、堂々巡りに陥って議論が進展しないという現状について疑問をお持ちになったことはないでしょうか?
その理由は、答えに辿り着くために最低限必要な情報(共有されるべき前提条件)が欠落したまま、無理矢理に結論を導き出そうとしているから、と言う他ありません。
やや穿った視点で見れば、”このプロセスにも魔法(ブラックボックス)を操って「おいしいコーヒー」が導き出される温床の一つが潜んでいる”と言えます。
また、「圧力という抽出条件によって水や成分の通り抜けやすさは変わる」、ということについてもご一考頂ければと思います。
関連記事:濃度がブレない抽出レシピの作り方 -ハンドドリップのデメリットを知る-
材質ごとの特徴まとめ
ペーパー
木材や植物の繊維で作られた紙
材質:パルプ製が多い(主成分はセルロース)
- 【メッシュ:細 → 時間:長 → 濃いめ】
- 【厚み:中 → 時間:中 → ほどほど】
- 【微粉・繊維質量:少 → 軽め(クリーン)】
- 【オイル量:少 → 軽め(キレ・さっぱり)】
口当たりについて最もクリーンに仕上がるため、どのような種類のコーヒーでも飲みやすくしてくれる万能型。
加えて、価格が安いことやゴミ捨て、保管といった扱いも楽なことから日本では最も一般的に使用されている。
リンスって何?やらなきゃいけないの?
リンスとは、ドリップ前にフィルターに湯通しをして洗うことです。
透過式が広く普及している日本では、昔から以下の2つのタイプが販売されています。
- 漂白(白)
- 無漂白(茶)※未晒し
最も分かりやすい違いは、「原料の木材パルプ(セルロース)からリグニンと色素がどれくらい取り除かれているか?」ということです。
②の未晒しタイプの方が、残留成分が多いということになります。
リンスという手法が注目され始めた頃、その目的は、「フィルターの残留成分から生まれる紙臭さを抑えること」と説明されていました。
当時であれば、説明通りの効果を発揮するケースもたびたび見られたことは確かです。
しかし、2023年現在の漂白タイプは、もともと無味無臭なものが多いので、紙臭さの抑制を目的としたリンスが効果を発揮するケースはほとんどありません。
もし、効果が認められた場合、まずは「プラシーボ(思い込み)効果」という心理的な効果を疑ってみる必要があるほど、明らかな紙臭さを感じる製品は減っています。
また日本では、「未晒しタイプの方が健康や環境に良い」という販売戦略がによって作られたイメージが、消費者の強い購買動機を生み出すことになりました。
しかし、2023年現在の漂白方法は、多くの方が知らないうちに「漂白剤」から「酸素漂白」という体にも環境にも無害なものへと大半が変わっているにもかかわらず、そのような購買傾向は今日においても変わることなく持続しています。
無漂白タイプでも適切な処理を施すことで紙臭さを感じない製品が増えていたとしても、一度刷り込まれたイメージを覆すのは困難です。
コーヒーから穀物臭や青臭さといった植物由来の風味が感じられる原因の一つには、焙煎度がかなり浅い豆、もしくは「生焼け」と呼ばれる焙煎状態が不十分なものを使用しているケースが挙げられます。
そのようなケースに該当する可能性がある場合、発生原因を特定した上で適切に対処する必要があります。
※フィルターの仕様や製造方法はメーカーや商品ごとに異なるので要確認。
当店ではHARIO純正、CAFEC(三洋産業)のアバカシリーズ、いずれも漂白タイプを使用することが多いです。
当店では抽出前に念入りに湯通しを行っているので、リンスについてご質問頂くことが多いですが、その目的は他にあります。
- フィルターとドリッパーの中心軸のズレや浮き上がりを防止する
- 器具類の予熱・洗浄
「湯通し」という一つの作業で、これらを同時に行うためです。
アウトドアでは気温や地形によってドリップ環境が不安定になりやすく、風が強いとフィルターが飛んで行ってしまったり、埃などが舞い込んで来たりすることもあります。
特に、器具類の温度低下によるスラリー温度と抽出後のコーヒー温度への影響は無視出来ないほど大きくなります。
また、状況によってはフィルターがドリッパー内部で変形した状態になってしまうことがありますが、粉の層や水の流れがいびつになることで意図した透過状態が妨げられる原因の一つです。
アウトドアでは、刻々変化する環境を把握しながら適切に対処して行く必要に迫られますが、抽出環境を安定させる方法の一つとして、フィルターはじめケトルやサーバー類といった一連の器具に対する湯通しを行うようにしています。
スラリーの温度変化は、風味に及ぼす影響が大きい要因です。
それを適切に除外して比較した場合、もともと紙臭さのないフィルターについては、リンスのあるなし一つに神経や議論の時間を割く価値があると言えるほど、誰もがハッキリ感じ取れるような風味の違い(成分抽出への影響)を生み出す工程ではないと思います。
モノづくりの軸となるノウハウは、目的に照らし合わせて必要な素材と過程を判断して行く「逆算思考」に基づいています。
”リンス”の事例は、「目立つから」とか「有名人(店)がそう言ってるから」、「みんながそうしてるから」ではなく、「目的にとって必要だから」という思考パターンを身に付けることの大切さについて、改めて実感させてくれるものではないでしょうか?
ネル
植物の繊維で作られた布。語源は英語のフランネル
材質:綿(コットン)製が主流。他にも麻などがある。
- 【メッシュ(ベースの生地):粗 → 時間:短 → 軽め】
- 【厚み:厚 → 時間:長 → 濃いめ】
- 【微粉・繊維質量:中 → ほどほど(クリーン・コク)】
- 【オイル量:多 → 濃いめ(コク・まろやか・しっかり)】
メリット:
ベース生地のメッシュが粗目であることからコーヒーオイルや繊維質が若干通り抜けやすくなることで、特に口当たりのまろやかさやコク、香りが増加する傾向があります。
メッシュは粗目ながらも、素材はペーパーと同じく植物の繊維を撚り合わせたものであるため、その一本一本の糸が持つ微細な多孔質構造による吸着作用もフィルターとしての機能を果たします。※石油由来の化学繊維との大きな違い
厚手のベース生地とその表面を毛羽立たせた起毛層という多段階の濾過層を形成することで、ざらつきを感じさせるほどの微粉については吸着しつつ他の多くの成分が透過するため、上記の風味傾向に加えて口当たりのクリーンさも両立する優れた特徴をコーヒーにもたらすと考えられます。
デメリット:
使用後に付着した粉を水洗いで洗浄しなければならないこと。
そして、落とし切れずに繊維に残った微粉や成分の腐敗を抑えるために、保管の際は冷蔵しておく必要があります。
また、新品や乾燥保管された状態のネルフィルターを使用する際には、事前に煮沸し、濾過能力を低下させる糊や固着した成分などの不純物を落としてから使用するという下準備も欠かせません。
こまめに洗浄、煮沸し、丁寧に扱うことで数十回程度は再利用可能ですが、洗い落とせない微粉による目詰まりがひどくなったり、起毛が抜け落ちたりするうちに段々と濾過能力は落ちて行くので、状態を見ての交換が必要となります。
フィルターの状態が変化するということは、それぞれのネルの状態に合わせたレシピ調整が出来ないと抽出の再現性が保てない、ということを意味します。
ネルが玄人向けと言われる理由は、手間を惜しまない気持ちの面だけではなく、フィルターの仕組みと効果を理解した上で適切に運用して行く深いノウハウが求められるからです。
※店主は風味や抽出工程も含めたネルドリップ愛好家で、営業においても独自に調整したネルフィルターを用いていたのですが、コロナ禍を経た現在、安全性とコストも含めた様々な判断からペーパードリップへ変更しています(ネル愛好家の方には申し訳ないです)。
新品ネルは抽出前にコーヒー液を加えて煮沸する?
- 保管時の形状を保つための食品用の糊が付着している
- 使い始めはネルの繊維が持つ吸着力が強く、抽出初期の主要な成分が多めに吸い取られてしまう
- あらかじめ別のコーヒーの成分を少し吸わせることで吸着力を落とす
ネルドリップの世界には「ネルを育てる」という表現がありますが、それはこの手法を応用する中で生まれた経験則を表したものではないかと考えられます。
- 水洗い後もネルには微粉とコーヒーオイルが吸着されたまま残りやすい
- 目的の風味傾向から見て程よい吸着力を判断し、その状態を保つようにする
- フィルターを反復利用するという特徴から、以前の抽出の残り香を活かす手法も生まれているが、衛生面や再現性の面から見た問題を抱えている
メタル(金属)
材質:ステンレス製が多い
以下のような様々なタイプが存在しているため、効果について一概には言えません。
- 2重メッシュなど、細かい(10μm前後)ものと粗い(数十μm)ものといった異なるサイズを組み合わせているもの
- パンチメッシュタイプで穴の位置や大きさ、数について調整されているもの
- 部分的にメッシュの数や大きさが異なるもの
- 茶こしのようなもの(数百μmほど)
代表例として、プアオーバー型の製品やフレンチプレスで使用されることが多い粗目(100μmほど)のタイプの特徴を挙げます。
- 【メッシュ:粗 → 時間:短 → 軽め】
- 【厚み:薄 → 時間:短 → 軽め】
- 【微粉・繊維質量:多 → 濃いめ(ざらつき・コク)】
- 【オイル量:多 → 濃いめ(コク・まろやか・しっかり)】
メッシュ径が比較的大きく、濾過層として働く厚みがない。
加えて、素材自体にも吸着性がほぼないため濾過速度が速い。
微粉やコーヒーオイルなども含む、あらゆる成分が通り抜けやすいことから、コクやざらつきといった口当たりや舌触りとして触感的に感じる風味が目立つ。※濃い薄いとは異なる
ドリッパー+フィルターという構造(一体型)が多く、水洗いすれば再利用可能なので、器具類の数を減らせる(フィルターを買い求めなくて済む)というのもメリットの一つ。
長期使用で目詰まりが発生することがありますが、煮沸洗浄することで緩和出来ます。
セラミックス(陶磁器)
材質:土(無機化合物の集合)を高温で焼き固めたもの
セラミックス製フィルターは、十分な強度と形状を維持ずる必要があるため、他のタイプに比べて数倍~数十倍の厚みを持っています。
これは、自ずとドリッパーが不要になるというメリットの一つになっています。
フィルターとしての性能は材質や製法によって様々ですが、コーヒー抽出用に作られたものの性質としては全般的にネルと近く、風味特性や目詰まり問題についても、原理的には同様な結果になると言えます。
風味としては金属とネルの中間に当たる傾向ですが、特に使用の初期段階において、粗めのメッシュサイズによるろ過速度の速さと厚い濾過層による成分吸着力の強さが同時に反映されることでスッキリ目の味わいに仕上がりやすい、という傾向についてはネル以上です。
長期使用後の目詰まり(濾過能力低下)対策としては、陶器の耐熱性を活かし、オーブンなどで焼くことで詰まった成分を炭化させ砕けやすくしてから、水洗いして取り除くという方法があります。
セラミックスフィルターの魔法は子供だまし?
セラミックス製フィルターには、コーヒー用途以外にも水質・排気ガスの浄化や土質改良など、その強靭な多孔質構造から生まれる濾過性能を利用した様々な製品があります。
その中には、「遠赤外線効果」や「水活性化効果」といった感じの、一見もっともらしい風味や健康に対する特殊効果を謳ったものが散見されますが、それらについては、原理もその効果による風味変化も当店には確かめられなかったのでお答え出来ません。
余談:
そんな効果は物理的に存在しないので、分からなくて当たり前なのですが…。
このような大げさな謳い文句、あるいは「実際に存在するのはプラシーボ効果」と水に流せる程度の可愛らしい事例は、氷山の一角に過ぎません。
現実的としては、それにいくら突っ込んだところで「いたちごっこ」になるだけと言えるほど、計り知れない市場価値を持っているのが疑似科学やスピリチュアルマーケティングの世界だからです。
ただ、それらの手法について、「子供だまし」と軽んじるのは危険ということだけは断言出来ます。
なぜなら、それらの手法が成立する前提条件は、相手がある程度(なんとなく聞いたり試したりした覚えがある程度)の知識や経験、あるいは資産を持っていることなので、ターゲットは子供ではないからです。
「大人だまし(詐欺の入り口)」と言う方が、私たちにとって自覚しやすくなるのかもしれません。
不織布(化学繊維)
繊維をランダムに絡ませてシート状にしたもの
材質:ポリプロピレン・ポリエチレンなど。石油由来の化学繊維が多い
用途:ドリップバッグや個包装型水出しパックのフィルターとして使われることが多い。2025年現在、円錐型や台形型といった通常のペーパーフィルターと同型の製品も登場している
- 【メッシュ:細 → 時間:長 → 濃いめ】
- 【厚み:中 → 時間:中 → ほどほど】
- 【微粉・繊維質量:少 → 軽め(クリーン)】
- 【オイル量:中 → ほどほど】
繊維自体の吸着性が低く、メッシュはペーパーフィルター(10㎛程度)と同等で、細かめながらも若干成分が通り抜けやすい。
そのため、同等のメッシュサイズと厚みを持つペーパーと比べた場合のろ過速度はやや速くなる。
また、無味無臭で水溶性はないので食品向けの素材としての安全性、熱圧着出来るなどの加工性や強度といった面に優れる。
成分の中でも粒子サイズの大きい繊維質やコーヒーオイルの透過性を考慮して、部分的に大きめのメッシュ加工が施されたものもある。
そのようなタイプは、ペーパーとネルの中間ほどの風味傾向を示し、クリーンさを維持しながらもまろやかさが感じられる口当たりに仕上がることから、味わいにおいておススメ。
生地自体は高性能ながらも、不織布製のフィルターや使い捨てドリップバッグという商品となると割高感が強いことや、素材が化学繊維であるという点も、日用に向くペーパーの代替とまではなりにくい理由かもしれません。
ドリップバッグの特徴と種類
ドリップバッグとは、透過式抽出の利便性の向上を目的として、不織布製のフィルター兼用の袋に1杯分の粉を詰めたものと、厚紙製の折りたたみドリッパーを一体化させたもの。
一般的なタイプは、フィルターの形状が箱型のため、上からの水流は底面の四つ角にランダムに分散する。
つまり、抽出ムラが起こりやすい形状となっている。
また、粉量は10g前後とやや少なめ。(多めか少なめかはブリューレシオによるが、一杯180g程度として考えた場合)
これらが相まって、一般的な透過式抽出法としてみた場合、風味が軽めになりやすい仕様となっている。
その点を補うため、抽出初期は透過式プロセスながら、中盤からはカップに貯まって来る抽出液にフィルターごと粉が浸かる浸漬式プロセスに移行することで、自ずと極端な未抽出や過抽出状態になることを防ぐという独特な方式となっている。(元祖ハイブリッド式)
近年は、粉量を増やしたり、上置き型(カップオンタイプ)として純粋な透過式に近付けたり、フィルター形状が円錐型となったタイプなども登場している。
ただ、それらのタイプは、使い勝手や価格の面から一部の愛好家向けとなっている。
※当店では上置き円錐タイプを採用していましたが、ドリップバッグを一個一個手製作する時間がないため販売休止中。
混成素材タイプ
高機能フィルター「Sibarist」とは?
ブリュワーズカップというコーヒー抽出の世界大会があり、そのチャンピオン経験者と工業デザイナーがコラボ開発したということで注目を集める、特殊なフィルターがあります。
この「Sibalist」という製品の何が特殊かというと、ペーパー(セルロース)と不織布(化学繊維)の混成生地によって製作されている点です。
※2025現在、HARIO「Metro」はじめ同コンセプトの製品が複数登場しています
混成割合やメッシュサイズ、厚みといった仕様には、いくつかのバリエーションがあるようですが、抽出過程に現れる大きな特徴として挙げられるのが、ろ過速度がペーパーに比べて速い(流出流量が多い)ということです。
それぞれの素材の特徴については先述の通りなので、ここまでご覧頂いた方であれば、その特徴が「誰にとっても美味しくなるという意味ではないこと」も、「なぜそういう結果になるか」という因果関係についても、すんなりと飲み込んで頂けるのではないかと思います。
冒頭のブランド的価値や抽出プロセスと風味傾向の違いを中心とした解説はメディア上でも散見されますが、そのような違いが生まれる具体的な理由や製作意図まで言及された情報はあまり見つかりません。
そこで、この記事では触れていない「豆の焙煎度がろ過工程に与える影響」というテーマについて、全体の補足も兼ね、やや踏み込んだ解説を加えて行こうと思います。
焙煎度とフィルターの関係
現在の世界では、コーヒーの風味評価は浅煎り豆(Light roast)を基準に置いて行われています。
※国際的なカッピングルールの一つとして定められているため
浅煎りコーヒーにフォーカスを合わせた視点で捉えないと、このフィルターの製作目的や存在意義、議論の内容は分かりづらいところがあると思います。
まず、抽出における浅煎りと深煎りの違いを比べる際、第一に考慮すべき点は豆の密度の違いです。
物質としての性質の違いによって、両者の抽出過程は若干異なる形で進行することとなります。
- 浅煎り豆・粉:深煎りより比重(密度)が大きい ⇒ 水に沈みやすい・水が浸透しにくい
- 抽出中の浅煎り粉の状態:フィルターの底部に偏りやすく、水流による攪拌も起こりにくい
- 成分の溶解しやすさ(拡散係数):深煎りより低い
浅煎り用レシピと深煎り用レシピといった抽出条件の最適化が必要とされる理由は、主としてこれらの違いに対応するためです。
ただ皮肉なことに、「浅煎り対策をしっかりしよう」という抽出者の気持ちが強過ぎると、次のような事態が連鎖的に発生しやすくなります。
浅煎り対策を盛り込み過ぎて抽出過多傾向に陥る
- 高温(90℃以上)の湯を使う
- 挽目を細くする
- 大きく撹拌を加える
- スラリー内の粒子が攪拌される際、沈降速度の速い微粒子が率先してフィルター底部(濾過層)を埋め尽くし、目詰まりを引き起こす
- ろ過速度が急激に低下して、抽出後半の抽出時間が極端に長くなる
- 強い苦味や渋味を伴う過抽出傾向の風味に仕上がる(意図した収率より高くなる)
一般的に、「浅煎りは深煎りよりも、ろ過速度を意図的に調整することが難しい」と言えます。
それは、粒子の性質や状態によって、「フィルターのろ過能力」は大きな影響を受けるためです。
特に、「ステア」や「スピン」と呼ばれる、「抽出中の粉の攪拌量を調整する手法」は、半ば必然的な浅煎り対策として生み出されて来たものです。
しかし、「抽出中のスラリーの攪拌量を調整すべき」という主張について、共感したり、賛同したり、あるいは批判したり出来る方が、コーヒー好き全体のうちのどれくらいいることでしょうか?
そもそも、抽出技術や習慣の差が大きく現れやすいコーヒーなのであれば、それを不慣れな方にまで推奨すること自体がおかしな話のはずです。(例え、それが世界の潮流と言えども)
サードウェーブの名のもとに国外大手資本が一気に業界を席巻しようとしていた時期、日本市場でも実際に様々な混乱が起こりました。
そして、その名残は「業界が作り出す流れと一般消費者の嗜好のギャップ」という形で、今も爪痕のように刻まれています。
その一つが、「浅煎りの性質とフィルター性能の不整合」という歪みです。
ここに至って、抽出者の技術的な面からではなく、フィルターの濾過性能という根本的な原因に着目した解決策を提示する製品が登場して来た、というのが、このタイプの製品についてのおおまかな背景ではないかと思います。
- 細かい挽目や微粉を含む粉
- 水に沈みやすい浅煎り粉
既存のペーパーフィルターの場合
⇒目詰まりが起こりやすい
⇒抽出時に比較的高度なノウハウが要求される
⇒浅煎り派vs深煎り派、スペシャルティvsコモディティ、プロvsコンシューマーの格差が拡大する
化学繊維混成、わずかにメッシュサイズが粗いフィルターの場合
⇒目詰まりが起こりにくい
⇒意図的にろ過速度(接触機会)の調整が行いやすくなる
⇒細挽き粉や高攪拌で短時間といった、これまでは成立し難かったレシピの可能性が広がる
つまり、浅煎りでも豊かなボディーとクリーンさが両立した風味を、これまでより簡単に楽しめるようになる、ということです。
目的とプロセスの不整合問題:
ただし、対面効果として、国内のペーパ一ドリップで一般的なレシピ(中深煎り、中粗挽き、攪拌弱め)をそのまま用いると風味が軽め(未抽出傾向)になりやすい、という点には注意が必要です。
中深から深煎りのコーヒー粉は浅煎りに比べて成分が溶け出しやすいため、上記のような浅煎り対策を取り入れる必然性が、そもそも小さいからです。
むしろ、自ずと過抽出に陥いりやすい傾向に対し、成分溶解を抑えめする対策を抽出条件に取り入れることが、一般的な最適化の方向性となります。
新しいレシピや器具を導入した結果、狙ったような効果は得られなかった、むしろ逆効果だった
このようなケースも、抽出について試行錯誤する中ではよくあることだと思いますが…
深煎りが隅々まで浸透している日本のコーヒー文化においては、焙煎度によって異なる粉の性質と抽出プロセスがかみ合っていない問題が随所に残ったままであることから、特に起こりやすい事態となっています。
「浅煎り文化に対するわだかまり」のようなものが、未だ解消し切れない原因の一つです。
冒頭から述べてきた通り、事前に製品の傾向や意図を理解した上で適材適所を判断することが、本領を発揮させるための最短ルートであることに変わりはありません。
使い捨てフィルターとしては価格が高過ぎるとも思いますが、ご興味ある方は一度お試し下さい。
ペーパーとネルのハイブリッド
このタイプは、日本ではネル文化が発展した経緯があるためか、かなり昔から販売されています。
私の知る限りでは、セルロースと綿(コットン)の混成生地があり、個人的に使用した経験のあるごく一部の製品についての感想としては、若干ネルっぽいコクが増すかな、という印象です。
やはり、こちらのタイプも価格との折り合い問題が難点かもしれません。
おそらくですが、今後も意欲的な製品開発の中で、様々な混成フィルターが登場して来ることと思います。
そのような製品に出会った際は、制作者の意図と仕様に着目してみると面白い発見があるのではないかと思います。

